「ハンストレプト、君はお手玉が上手いねぇ。」 「うん!すごいだろ!」 「なら、これをあげよう。」 キューレが差し出したのは、赤、白、黄、緑、青、そして金色のお手玉セットだった。ハンストレプトは早速お手玉を回し始める。一つ、二つ、三つ、四つ目で、ぽとりと落とした。何度も何度も繰り返して遊び、なかなか6つが回せない。そのうちに苛立って、頭を引っ掻いて癇癪を起こし始めた。小さな背中を撫でながら悔しさが収まるのを待ってやり、キューレはお手玉を一旦両手に戻す。 手本を見せると告げた後、一つ、二つ、三つと、次々に回し始めた。綺麗な輪を描きながら規則正しく回る観覧車の様なお手玉。ハンストレプトは目を丸くしながら「すごい!」と何度も声をあげた。 「ハンストレプト、いいことを教えてあげよう。ここまで出来る様になったらね、次はこうするんだよ」 言い終わった途端、お手玉の輪の中から金色の玉だけがいっそう高く打ち上げられた。ハンストレプトはその金色の玉に釘付けになる。空高く飛び上がり、ほかの玉が通り過ぎた後、落ちてきてまた輪に加わる。それは何度も繰り返された。 「すごいぞキューレ!金の玉が月みたいだ!」 「そう、よくわかったわね。」 ハンストレプトが答えを出すと、キューレはお手玉を止めた。一つ、二つ、手の中に落ちては並び、最後に金色の玉がぽとりと収まる。綺麗に積み上がったお手玉をハンストレプトに差し出しながら、玉の壁の向こうから紫色の瞼を細めて笑った。 「ねぇハンストレプト、人は本当に困った時に、悲しい時に、空を見上げるんだよ。不思議なことに、前を向かずに、上を向くの。どうしてだか、お解りかい?」 ハンストレプトはこれ以上ないくらい首を傾げた。ついでに腕を組んだ。それでも足りなくて眉をこれでもかと言わんばかりに歪めて、口もひんまげたけれども答えは出なかった。いっぱい考えて、やっぱり解らなくて、また髪をわしゃりと引っかこうとした手前で、「それはね、」とキューレが種明かしをする。 「光はいつだって空から降ってくるからだよ。神様を信じていなくても、生きていれば太陽が空にあると誰でも知っている。夜なら月が照らしてくれる。助けて欲しい時にはみんな、上を向く。けれどねぇ、太陽も月も見当たらない時がある。そんな時にはね、君がこれを打ち上げてあげるんだよ。そしたらみんな、笑ってくれるからね。」 6つのお手玉はハンストレプトの両腕の中に引き取られた。それは小さな少年にはまだ抱えきれないほどに大きくて、時折転がしそうになりながらも一生懸命抱えている。その姿がおかしくて、愛くるしい。きっとずっと、一枚の写真の様に、この胸に残るのだろう。それは少年には身に余る一芸になるのかもしれないけれど、“いつか”を夢見て託したっていい。 いつまでも抱えたお手玉とにらめっこをしているハンストレプトの隣で、キューレは紫煙が尽きるのを待っていた。 馬車の足音が聞こえる。 ![]() fin. [mokuji] [しおりを挟む] |