第一次銭湯事件






 





「…チカ、何してくれてるの?」
アプスのあまりの眼力に口を噤み、一息付いた後、
「すまない…」
近靖は素直に謝った


銭湯が出来たというから、2人でやってきた。
いい加減夏でもないし、寒さに弱いアプスを気遣って水浴びもお開きになったからだ。
銭湯にやってきたからといって、あれやこれやと何かが変わる訳でもないと思っていた。
けれど、問題が1つだけ起ったのである。


アプスが腰にタオルを巻いて


それを近靖が剥ぎ取った





「どういうこと?」
詰め寄るアプスの勢いに推され気味になりながら、近靖は洗面台に押しやられていた。鏡に背中が触れるほどに距離を取ろうとするけれど、アプスはぎりぎりと歯ぎしりでもしそうな剣幕で涼しい笑みを携え乍ら迫って来る

「いや、…今更隠すことも必要ないと思ったんだが」
「隠さない?泉で水浴びしてたときだって、それとなく振る舞ってたつもりだったんだけど」
「……それは、済まない。俺は気にしてなかった」
「気にしなよ。……今も。男らしいにも程があるよ。」

近靖は首にタオルを落としているが、下は巻いてない。
それが流儀ならと腰に巻こうとしたが、アプスによって阻まれた。

「いや、今更だから良いけど。混浴に入る時くらいは巻きなね」
「混浴なんぞには入らない…。」
「だろうね。本当に、油断したよ。宿舎では普通にしてるから尚更驚いた。」

2人で借りている警官宿舎でも湯は1つ。互いに交代で使っているが、近靖が裸で家の中を歩くこともないし、アプスだってそんなことはしない。故に、色々と、価値観の違いを知ることになった。互いに溜息ついたり、苦笑したりして、何とも言えない空気感になる


と、そこにカラリと扉が開いた。
ムートが脱射場に入って来た

「あ、……近や」

言いかけて、ムートが硬直した。
互いにタオルを投げ出した素肌を晒し、洗面台に壁ドンしているアプスとされている近靖の図があったからだ


「ごめんなさい、…その… 
 エリサさんとフィーユさんには黙っておきますから…」

「「待て違う」」

秒速で突っ込みながらムートの両肩を互いに掴んだ。そのままずりずりと脱衣所に引き込んで床に正座をさせると、2人で事情を説明した。俯いた侭顔を上げないムートに顔をあげなよ、とアプスが促すと、「タオルを巻きませんか」とぼそりと突っ込まれる。嗚呼、と思い出した様に近靖とアプスが顔を見合わせた

「そうだよね。チカ、そもそもなんで巻いてないの。」

アプスが近靖を見上げて聞いた。ムートが「先に巻きませんか」と冷静に突っ込むが聴こえていないんだろうか

「男だけしかいないのに隠す必要性があるのか?」

近靖もしれりと返した。無駄に男らしい意見である。

「恥ずかしいとかないの?」

「ん?」

「自信ありすぎなんじゃないの」

「いや、…別にそういう訳でも…」

アプスと近靖の不毛な会話に挟む様に萎れた声で「僕には無理です…」とムートが肩を振るわせ乍ら呟いた。

「とにかく、タオルは巻くものっていうことにしよう。」

「……解った。ムート君も、タオルは巻いてから入ろう。」

「僕は言わずもがなタオルを巻く派閥です…。」

「しかし、…そんなに他人の身体に興味を持てるのか。気にした事がなかった。」

話がぐるっともどって行く予感がする。早くタオルを手に取って欲しいと思うのはムートだけなのかもしれない。アプスも開き直っている感がある

「チカは毎朝鍛えてるから見られてもいんじゃないの。この腹筋とか腕とか。硬…。刺青とか背中にはないんだ。」

アプスの指が近靖の腹筋を突ついた。つんつこされても近靖は見下ろすだけで得に嫌がる素振りも無い。そのうち立上がったムートも近づいて来てじーっと眺めていた。

「俺もあんなに近に付き合ってトレーニングしてるのにな。どうしてこうも違うんだろうね」

「背中に乗って餌ばっかり食べているからじゃないか?」

「餌じゃないよ失礼だね」

「すまない。フィーユさんから貰ったお菓子だったかな。最近幸せ太りしてきたからな、君は。」

この辺が、とアプスの腹を掴みに行くと、ひらりと交された。照れた風にチラと一瞥をくれた後、浴室に向って行くアプスの後を追うことにした。

「では、先に入っているから。」

ムートに一言告げてから、近靖も踏み出す。ムートはお先にどうぞ、と告げてから服を脱ぎ始めるんだろう。
アプスに続いて浴室の扉を潜った。

其処で2人とも脚を停めた。


先にシャワーを浴びていたモデル体系並にスリムなジーン
チャラ大人の色気を振りまくチェスター

「やぁだアンタ、また肩に噛み痕付いてるけどなぁにそれ?」
「ティアラが最近嵌ってるんだよー。」
「またロクでも無い誤解作ったんでしょ〜?モエが見てたわよ〜?」
「いやいやー…その話は本当にお客さんなんだよー…」

リア充会話である。
百戦錬磨のオーラを感じる浴室。

左を見ると、デゥケーンとヴォルトがいた。
ぎゃーぎゃー騒ぐヴォルトを押さえつけてがしがし頭を洗っているデクの図がある。
ガタイが良いと男が2人で騒いでいる。


「……近、」
「うん?」


「タオル巻く?」
「そうしよう」


近靖とアプスは肩に描けていたタオルを剥ぎ取り、腰に巻いた。
タオルを巻く本当の意味を理解した気がした2人は慎ましやかに鏡台の前に向って行ったのだった。





深夜にぐだぐだ書いただけ
脱衣所でタオルを巻くべきか今更考え始めるムートくんや、その横をゆうゆうとのしのし歩いて行く熊さんがいるというオチでしたす

気が向けばイラストで皆様の裸体を描きたい←

fin.










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