月夜に白を燻らせて
静かな森の奥、時よ止まれと願いながらその花の守人を続けている。否、その刻が止まることを恐れるがばかりに、時の進みすらをも憎み俺は日々を生きるのだ。 鬱蒼と茂る木々の隙間から積もる白を踏み締め、小さな隠れ家へ急いだ。抱えた林檎が腕から一つこぼれ落ち、白に赤が咲く。熟れた果実。どうか愛する彼の生命を僅かでも繋いでくれるよう、暮れゆく空に願う。それしか出来る事がない。 「――ただいま」 持てる力の全てを以て建てた木の家、その扉を開ける。鍵はない。この場所を知る者など居ないのだから、必要がないのだ。扉を開けるのは愛するものだけだと、その花は知っている。 「おかえり、ちび。寒かった、でしょう」 だから、百合は俺を見て芳しく微笑んだ。大きなベッドの上で上体を起こし、背を壁に預けている。白いブラウスに黒いリボンを結んだ姿も、煌めく星の瞳も、柔らかく滑らかな肌も、何一つ昔と変わらない。酷く童顔の彼はまるで時に逆らい足踏みでもしているかの様だ。それなのに、彼には掻き消しようもない死の気配が取り憑いていた。 彼はもう、殆どそこから動けない。もうこの状態で半年も経つ。後どれくらいと考えずにはいられぬ程彼の体調は悪化の一途を辿っていた。嘆いても時計の針は止まらないと分かっている――それでも。 英雄アルス・セルティスは、その物語を今にも綴り終えんとしていた。 「ねぇ……今日はどこへ、行ってきたの? 怪我はない?」 けれど彼自身はそれを気にした様子もなく、蕾が綻ぶ様に瞳を優しく溶かす。たおやかな花緑青。言葉には慈愛が込められ、悲嘆の色などない。あぁ、お前がそれじゃ、俺は泣くにも泣けないだろ。 「グリダニアの方まで。食べるものが必要だったからな。それだけで何ともないから、ほら、力は使うなよ」 穏やかな声で答え、体を使い器用に扉を閉める。ぎいと木の重い音を立て、それは外界と楽園を隔てた。雪が積もる季節でも部屋の中は暖かい。俺と萬里で建てた小さなその家は、確実にお姫様を守護しているのだった。 そう、彼は自分がもう助からない所まで壊れていると悟るや否や、星の揺籃として契約していた家を手放した。北部森林で、家族だけを連れて隠れ棲むことにしたのだ。実はフロランテル監視哨から遠くないこの場所は、暁すらも知らない。 そこで彼は静かに余生を過ごしている――否、死へ向かうばかりの時間、苦しむ姿を家族以外の全てに対し秘匿して、静かに咲いているのである。 彼は呆気なくその結末を受け入れた。充分に生きたよと微笑んですら見せた。泣いて喚いたのは俺の方だ、それでも現実は変わらない。エーテルを分けても繕えぬ程に壊れてしまった。誰よりも早く結末を理解したアルスは、ごめんねと囁いて、それから。 彼は延命を諦めた。そして、僅かな生命力を治癒のためでなく誤魔化すために用い、外見だけを整えた。綺麗な顔を保ったまま血を吐いてのたうつ日々が続くのに、それを誰も知らない。 その傷に触れることすら叶わない。 彼は天高く瞬く星である。護るべきものを全て護りきり、その小さな身体に全ての代償を背負い込んで、分け合う事すら許さず。 故に彼がまた表舞台に上がる時、彼は眠る様に美しい姿である事だろう。それはなんて、なんて残酷な。 しかしそれこそが、世界を救った英雄が抱くあまりにささやかな希望だった。ちっぽけな彼の矜持。 軋む胸の音を無視して笑う。ああせめて、彼が何より望むものを与えてやろう。ほら、お前の家族は今日も幸せだから、安心しろよ。 「見ろよ、すごいだろ。ベントブランチのさ、あの人の庭でまた林檎が採れたみたいで、譲ってもらったんだ。――前もそんなことがあったの、覚えてるか」 「ふふ、覚えてるよ。懐かしいな――クッキーを、焼いているところに、君が帰ってきて。それ、でッ、」 ごほ、と彼が咳き込んだ。一度で収まらず丸くなる。重い音を雪が飲み込み、あぁ、静かに終わりが降るのが堪らなく陰鬱だった。その足音は密やかに、確実に。 やめてくれ、連れて行かないでくれ。そんな言葉が運命を相手に届くわけもないのに。 「んっ、う、ごほっ、ッう、」 未だ林檎を抱えていた俺に代わり、暖炉のそばに座っていた萬里が席を立った。もう一人の家族が何も言わずそっと華奢な背を撫でる。苦悶に喘ぐ彼自身の手はあまりに小さく、白い指の隙間から赤が溢れて零れた。白いスーツも、刺繍の可愛らしいブラウスも、全部を染め替える赤。 留めようとしてやはり失敗した萬里の片手をも汚して、アルスは頬を濡らした。その生理的な涙は、決して泣こうとしない彼の隠れた心を描くかの様で、俺は、俺は。 熟れた赤をやはり木で出来た袖机に並べてやり、俺はカップに水を注いだ。三人でお揃いで買ったそれは、使われる様になってからもう十数年が経つ。 「ッは、ぁ、はあっ、は……ん、ご、め……」 「謝んなくていーよ。悪い事をしている訳じゃない」 律儀に毎回謝るアルスの頭を萬里の綺麗な手が撫でる。ぽす、と雑なその動作が奴らしい。 萬里はそのまま柔らかな布でアルスの口元を拭った。次いで指も一本ずつ清めていく。 ぴくりとアルスの眉が上がったのは、自分で出来るとかそんな事を言いたかったのだろう。しかし彼は呼吸を整える事さえもままならないのだから、話しかけられる訳もなかったのだ。萬里はそんな事も分かった上で世話を焼いている――お前も、もう終わりが近いって、そう……思ってるんだな。 萬里がシーツを剥がし、慣れた様子で新しいものを広げた。始めの頃は二人ともする事なす事大惨事を引き起こしてばかりいたものだ。アルスがその度にぷりぷりと怒り全てを彼自身の手で片付けてしまう。ほんの、ほんの一年前までは。彼もまだ動けたのだ。今ではもう、俺たちはすっかり家事に慣れてしまった。 「アルス、飲めるか」 「う、ん……」 俺は落ち着いた頃を見計らい、水と薬を差し出した。劇薬と言った方がいいそれは一時的に苦しみを取り去るだけのもので、決して彼を癒してなどくれない。アルスは苦痛に負けた下手くそな微笑を浮かべて受け取り、自ら調合したその毒を飲み下した。 俺はちらりと薬棚を見て、それから胸を抑えて蹲る愛しい人の背中を撫でた。まだ、まだ大丈夫だ。けれど、その担保にすら苦痛が伴うこの現実が憎らしくてたまらない。 解放してやるべきなのかもしれないと思う事さえある。けれど手放したくなくて、遠くに彼が消えてしまう事に耐えられようもなくて、俺は彼が生きていてくれるというこの夢から離れられない。依存している、わかっている、それでも。 まだ動けた頃に山程支度したそれらの物資も底が見え始め、まだ彼にそれらの調合は可能だろうかと思案しては、痛みを以て痛みを拭うその毒を服用させ続けるべきか否か答えを出せず黙り込むのだ。 「も、う、大丈夫。二人とも、ごめん、ね」 大丈夫なわけないだろ。言えるはずもない泣き言を飲み込んで俺は笑い返した。萬里が汚れたシーツを処理しながら振り返る。仕方がないやつ。如実に語る表情で肩を竦めて見せる。 「アルスさあ、お前は俺と違って頭いーんだから、そろそろ学習しろ? そういう時は何て言うんだっけー?」 「――ッ、えっと、その……ありがとう」 「よくできましたー。ほら、おちびさんのリンゴ、食べるんだろ?」 快晴の空そのままに笑い、何事もなかったかの様に作業に戻る。 敵わないな。俺はいつまで経っても奴に敵わない。あんな風に俺は振る舞えない――相手の心に負担をかけない振る舞いが出来るのは萬里の長所だ。俺は、どうしても縋ってしまう。この百合に。 とはいえ、歳だって四十が見えてきたのだ、この場面でさもしい争いをする程俺も若くはない。 「そうだな。なぁアルス、摺り下ろしなら飲み込めそうか?」 「ん、それなら多分……なんとか。ありがとう、ちび。僕、林檎好き」 「知ってるよ、お姫様」 こんなものさえ頑張らねば飲み込めぬ体で、それでもまだ彼は生きている――まだ、なんて、認めたくない言葉が出てくるのは、俺がそれを認めているからに他ならない。認めている。あぁ、だって。現実はいつも残酷だ。 「――っ、んッ!」 林檎を用意する為踵を返した俺の後ろ、小さく押し殺した呻き。 振り返ればほら、白い指を蒼白にするほどきつく胸を抑える彼の姿がある。そんな事をしても如何にもならないのに、彼はねじ伏せんとするが如く己の肌に爪を立てるのだ。 俺は慌てて駆け寄ろうとし、それを萬里の視線に制された。分かったよ、任せるよ、お前に。俺は俺の仕事をしろって、そういう事だろ。 こういう時に役に立つのは萬里の方だ。あいつの冷静さがなければ、俺一人だったなら、適切に向き合えたか分からない。悔しさと共に林檎を摺る。 戻った時、アルスは萬里の腕に縋りかろうじて倒れるのを防いでいる様な状態だった。この意地っ張りは、こんなになっても自ら休息を取ろうとしない。 それは彼自身が時を惜しんでいるからだと俺は信じている。まだ一緒にいたいと、諦めてしまった彼の中にもその想いだけはある事を、俺たちは知っているのだ。 或いはそれは――否、これは俺自身の願いに他ならない。 アルスがはくりと喘ぎながら、俺に向かい指を伸ばした。 「はッ、う、ぁ……、ち、び。戸棚、の」 彼は歪む顔を隠す様にしながら、目線をついと薬棚へ動かす。成程、まだ足りないということか。 「一番左の、三段目?」 「ん。それ、おね、がッ、」 指示のあったものを手早く差し出してやる。残っていた水で煽る様に薬を飲む彼の姿は、それでも酷く美しかった。一輪の白百合。星の光は曇らない。 細い喉がこくりと動き、口の端から一筋溢れる。彼はそれを苛々と手で拭った。感覚が怪しくなり上手く身体を動かすことが出来ないので、それが煩雑で堪らないのだろう。 ごほ、と再度彼が咳き込む。込み上げるものを呼吸ごと殺して暫く彼は顔を伏せていた。やがて、空のカップがぽろりと手から零れ落ちる。 それから彼は利き手を二、三度握った。困った様に笑う――もしかして症状が進んだのか。いや、感覚を取り去るのは薬の副作用の方だ。許容量を超え浴びる様に服薬を繰り返し、辛うじて繋いできた命。いよいよそれすらも彼の体を傷付けると、そういうのか。そんなものは、あまりにも。 俺は口を開きかけ、しかしアルスの方が早かった。 「ねぇ、ちび? 今日の僕は、食べさせて……ッ、欲しい気分――なんだけど」 ああ、もう、ちくしょう。どこか切なそうに、けれど悪戯っ子のように。そんな顔でそんな台詞を吐かれたら、俺に用意された選択肢など一つしかないのだ。 「仰せのままに、お姫様」 俺はカップを拾い机へ避け、それからベッドに乗り上げた。三人で並んで寝るそこは広く、しかし少々建て付けが悪いものだから、余裕があるくせにぎいと軋んだ。俺が作った、お姫様の最期の舞台。俺もまたそこへ座り、金のスプーンに僅かばかり乗った林檎を差し出す。 「くち、あけて」 「――ん……」 小さく赤い口内へ、そっと供物を捧げる。気のせい程度の一回がしかし彼には酷く負担で、ゆっくり、ゆっくりと生命の源は咀嚼され飲み込まれてゆく。それを繰り返す――彼に限界が来るまで。 その厳かな儀式は、小皿に半分を残して終了した。口元に手を当てて蹲ってしまった彼の頭を撫で、残りを一口で頬張る。甘酸っぱい果実は一瞬で口内に溶けた。あまりにも呆気なく。 「頑張ったな」 労えば、彼はその姿勢のままこくりと頷いた。声を出したら吐いてしまいそうで恐ろしいのだろう。もうそんな事で怒ったりなんかしないのに、相変わらずいじらしいやつ。 もう一度優しく頭を撫で、片手にキッチンへ戻る。そこは前の家とは比べ物にならない程手狭で、本当に必要最低限といった様相を呈していた。それはそうだ、城の主人はもうとっくに自由を失ってしまったのだから。彼はその未来が遠からず訪れる事を知っていてこの設計を望んだのだ――無駄だと分かっていた、それだけの事。 それだけの事が、こんなにも。 狭い家の中、振り向けばもうそこはダイニングで、ダイニングはそのままリビングだ。リビングの半分を占めるのは大きなベッドで、ベッドすぐ脇の窓の隣はささやかなバルコニーに続く扉。 この狭い世界が、救星の英雄の全てだった。 「――ねぇ」 囁く様な声に呼ばれ振り返る。柔らかな鈴の音を発したその人は、窓の方へ体重をかけ肩で息をしていた。高熱に浮かされ潤む星が夕日を映し黄昏の色で煌めく。 「赤と紫の、綺麗な夕焼け、だね」 まるで、燃えてる、みたい、に。 彼は整わぬ息のまま途切れ途切れに呟いた。俺は嫌な予感を覚え、馴染みのカップに水を注ぐ。それを近くの机に備えたら、悩んだ末己の椅子に座った。隣に侵入するには余りに彼の様子が静謐に完成されていて、気が引けた。一枚絵に割って入るかの様で――萬里もまたロッキングチェアへ逆さに腰掛けたままだ。 「あの、ね。僕は本当は、夕焼けが……っ、こわく、て。全部、森の中、また燃えちゃうんじゃ、ないかって。ひとりで、ずっ、と……。でも、今は。僕、一人じゃない、んだね。こんなッ、っ、はッ――、ぐ……、ふう、に……ッ!」 光に赤く染められながら、再び彼の指が胸に爪を立てる。本当に、燃えてしまいそうだ。燃え尽きてしまう。彼が、連れて行かれてしまう。黄昏の空の向こうへ。 俺は込み上げるものを耐えて歯を食いしばる。アルスが泣かないから、俺も彼の前では泣かないと決めたのだ。泣けるわけが、なかったのだ。 「――ッ、あ、の」 絞り出す様なアルスの声に慌てて顔を上げた。彼の片手が薬棚を示す。暫く抗っても痛みがひかなかったのだろう。あまりにも発作の間隔が近い。投薬さえもう無駄だと証明されたばかりなのに。それでもほんの一時の安らぎを差し出さずにはいられない。 「右側、下から――二段目?」 萬里の確認にアルスは返事をしなかった。出来ないからだ。しかし否定がないので物に間違いはない。俺たちは経験でそれを学習していた。 示された錠剤を片手に、萬里が机上のカップを持ち上げる。それからベットに上がり、片手で倒れかけたアルスの背を支えた。薬と水を煽り、もう片手をお姫様の青白い頬に当てがう。 「ん、ぅ……っ、んん、ぁ、ふ……」 聞き慣れたそれは酷く切ない響きで耳朶に触れた。俺の目の前、その宗教画は神聖にそこに在った。 かくりとアルスの頭が後ろに落ちかけ、それを萬里が改めて支える。奴はそのまま暫くアルスの顔を見つめていた。焦点の合わぬ星が望洋と黄金を見上げているのが、あぁ、羨ましさなどとは程遠く痛い。 やがて萬里は静かに眉根を寄せた。片手をアルスの胸の上に置き小さく頭を横に振るのが、余りにも不吉だった。 その萬里がアルスの体勢をずらして俺を手招く。 「おちびさん、こっち来な。後ろ支えてやって」 「っ、あ……、あぁ。分かった」 喉から出た声は低く掠れていた。乾いて引き攣る緊張を手懐ける事も出来ぬまま、言われた通り壁とアルスの間にはいる。胸を貸す様に体重をかけされてやれば、彼はやっと大きく息をついた。瞳に光が戻る。ぱちり。金と瞬き合う翡翠の星。蕩ける花緑青。 萬里が名を呼ぶと、ふわりと百合が笑んだ。それは正に条件反射だった。 「もう、へーき?」 「う、ん……たぶん、平気。少しの間なら、話していられると、思う」 「そっか。それで、アルスは何をそんなに言いたかったの」 うん、ともう一度アルスが頷いた。アルスの右手が俺の手を擽るから、その手を捕まえて握り返してやる。彼は左手を萬里と繋ぎ、幼子の様な無垢さでそこに居た。 胸元を血で染めたまま、現実から遠く離れた所でその花は咲くのだ。赤く、白く。 「あ、の……。僕は、こんなに穏やかに最期を迎えられるなんて、本当は――思って、なくて。それなのに、大切な家族に囲まれてこの時間を過ごしているのが、嬉しくて。全部終わる頃に、僕が生きていられない事は分かってた。希望とは別の次元で、僕はそれが事実であると知っていた。きっと一人、苦しんで、静かに逝くんだなって。なのに、痛くて堪らない夜も、君たちがいつも隣にいてくれて。僕が爪を立てないように、手を握ってくれて。強く抱きしめてくれて。だから、僕は幸せだよ。だから、夕陽も怖くなんかない。ありがとう、いつもそばにいてくれて」 ――愛している、僕の家族。 彼は凛と言い切った。選択に後悔はないと幾度も繰り返してきたのと同じ声で。そして迎えた結末は当然拒絶される訳もない。犠牲になったつもりはないと告げる言葉は柔らかで、確かに彼は己の物語に納得しているのだと理解せざるを得なかった。 そんな別れの言葉を、俺は彼が望む穏やかな表情で受け取るしかないのだ。そんな今際の台詞を、まだ、吐いてくれるなよ。 祈る俺を置き去りにして、いっそ冷酷なほど高潔に彼は在る。 その花が、不意に。 「だかッ、ら……、う、ごほっ、か、は……ッ!」 花弁を散らし、赤く染まるその様が。お前はもう怖くないと謳うその赤が。俺は堪らなく――恐ろしい。 薬がもう殆ど効かない。それなのに、ほんの僅かな安らぎと引き換えに、彼からその代償だけは奪ってゆくのだ。麻痺するように、しかし痛みを伴って眠りの淵へ彼を誘う。 「う、ん……ッ、こほっ、ごほっ……ッ、っ、」 細い白では堰き止められぬ赤い滝は、替えたばかりのシーツにまた花を咲かせた。こうなると分かっていて交換に踏み切った萬里もまた、何かをせずにはいられなかったのだろうか。それとも枯れゆくものを憐れんだのだろうか。着替えぬままの白いブラウスがどす黒く変貌する。なんて中途半端な仕事ぶりだろう。 だからそう、あいつもきっと、半ば霧の中にいるに違いないと。だって、なあ、そうだろう。 だって、こんな、こんなにも現実が痛い。 「っは、く――」 「っ、アルス!」 萬里が顔色を変え、正面から向かい合うアルスを覗き込む。ひゅ、と喉が鳴った。次いで、はくりと喘ぎ、止まる。急に静かになった彼の星は、緩やかに伏せられていた。 「くそ、こんな――」 萬里の手がアルスの口元にあてがわれ、それから珍しく、本当に珍しく、萬里の顔が歪んだ。悔しさを確かに滲ませて、刹那主義を掲げるその男は己の家族をかき抱くのだ。 「アルス、お前、やる事があるっていったじゃん。それ、やらないで逝くようなこと、しないだろ。だから、まだ。まだ、もう少し。決めた事を、やりきるまで!」 ぽう、と灯るエーテルの光。それはいつかを思い出させた。赤く染まる愛しい人。分け与えられる生命。 そして俺は、ここにきて漸くその現実の意味を知るのだ。 「は……、え、アルス?」 胸が上下していない。星の煌めきは瞼の向こう側。だらりと投げ出された細い腕。白い肌は作り物めいて透き通り、べっとりと赤く濡れていた。 「あ、るす。アルス。そんな、うそ、だろ、なあ――まだ、お願いだ、俺を」 俺を置いて逝かないでくれ。 覚悟はしていた。けれど覚悟なんかしたくなかった。頭では理解していた。けれど心はいつまで経っても受け入れてなんかくれなかった。 何をすればいいかは分かった。それに効果があるかは分からなかった。嘆くばかりの俺ではもうないから、俺の身体はその命令を速やかに実行はしたのだけれども。 「――いやだ。そんなの、許さない。そんなの、絶対に赦さない。――萬里」 「あぁ、いいよ、やりすぎて俺を殺さないでね」 「言質はとった。文句も言い訳も全部、受け付けねえから……なッ!」 まだ、まだ間に合う。確信があった。細いエーテルの糸が見えたような気がした。手繰り寄せ、繋ぎ止め、逃がさない。撚り合わせてやる、俺の存在にかけて。 加減をせずエーテルを込める。俺と、それから萬里の生命を共に愛しい人の器へ注ぎ込む。注ぐそばからこぼれ落ちていくそれを無理やりに捩じ伏せて、目覚めるまで、ほんの少しでも彼のうちに留まるまで、この命ある限り。 「――ッは、ぁ、」 やがて長い睫毛がふるりと動き、ぱちりと星が瞬いた。 「ぁ、はぁっ、はっ……」 堰き止められていた空気が溢れ出し、喀血と共に道が通る。ひゅうひゅうと喉を鳴らして喘ぐ愛おしい人。堪らずに俺はその星へ縋った。肩口に頭を乗せ、仄かな温もりを額から享受する。 ああだって、こんな顔を彼に見せるわけにはいかない。 本当に、かろうじて。本当に奇跡のように、この人は生きているのだと。 そう悟り切ってしまった俺の、堪えきれていない激情なんて、とてもお前にぶつけられない。 「ぁ、れ……? もしか、して、ぼく、」 こほ、ともう一度咳き込みながらアルスが酷く小さく呟いた。その溶けそうな言葉はぐらぐらと揺れて、まだ意識が波間を漂っているのだろう事が察せられる。星の海の、畔。 「いきてる、生きてるよ。なあアルス――お前は、生きてる」 だから俺の喉からは強い声音が降った。顔を上げて星を貫く。脅迫してでも、洗脳してでも、何でもいいから繋ぎ止めようと思った。その鎖は涙と共にぽたりと彼の頬に落ちてしまい、あぁ、せっかく耐えてきたのに、台無しだ。 俺は曇ったままの星を晴らそうと、更にエーテルを込めた。けれど溢れ、零れ落ち、留まらない。その光が星の中で二、三度瞬き、また霧散する。 その、瞬間に。 「え、あ……、うそ、もう、僕」 ぽろりと、美しい流れ星が透明な肌の上を滑り落ちた。俺のものじゃない。彼自身から溢れる光。 「もう、僕は――、もう、」 もう、終わり、なんだね。 そう微かな声で呟いて、またはらりと百合は純白を散らした。蕩けた花緑青、純潔を染め返す赤、その全てを包む透明。 それは彼が初めて見せた、終幕への嘆きだった。雫が夕陽の赤を写し、柔らかな朱に煌めいた。暮れゆく空と共に冥界へおちて逝く彼は、しかし暁光を宿し雨を降らせていた。 ぱたり、ぱたり。 雨が降り、星が降る。彼自身が遅れて気付く。宿る光は理性で以て彼を縛る。英傑たる星、高潔な俺のお姫様。 それが俺の胸をも締め上げるなんて、あぁ、未だにお前はちっとも理解しないのだ。 しかしその真実の、なんと脆いことだろう。 「――っ、あ、大丈夫、何でも、ないから。すぐ、止まるから」 我に返った様に目元を擦ろうとする手を萬里が制した。見るからに力の入っていない手は、しかし容易く英雄の動きを阻害する。 「そんなこと、しなくていーよ。今更じゃん。何度も言ってるの、忘れちゃった? 知ってるからさ、アルスって泣き虫だし貧弱だし、本当は英雄ってガラじゃないって、そんな事は。なあ、今ここにいるお前は英雄? それともただのアルス?」 静かな金が、泰然とそこに在った。海面に太陽を溶かし星を包んでいた。海に星が降る。俺はそれを眺めている。 「――ふ、あ……、」 陽光に貫かれ、ひくりと星が喉を鳴らした。開いた口はしかし言葉を発することができず、ただ震える指先が萬里の腕に触れるだけだった。静かな流れは濁流となり止めどなく降り注ぐ。小波が彼を攫ってゆく。これくらい何という事もないと、その海原は緩やかに笑んで頭を撫でるのだ。 俺はやはり介入すら出来ぬまま、それでも存在を主張する様に彼を後ろから抱いていた。お前を想う温度は此処にもあるのだと、それくらいは伝わればいいと。何年経っても、俺はその場所を温め続けているだけだ。大切なものが、笑っていられるように願う。 アルス、と萬里が歩き疲れた星の名を呼んだ。アルス、と俺も朽ち果てそうな星の名を呼んだ。それはどちらも、英雄の向こう側にいる、彼自身を知る者からの呼びかけであった。それは正しく、アルス・セルティスの最後の鎧を剥ぎ取るに相応しい、家族からの愛であった。 黄昏時にその儀式は成る。 「……ぼく、は」 暗い所で一人きり膝を抱えるような、脆い彼自身が顔を出す。 「まだ、ほんとうは、君たちと、一緒に、いたかったのに……ッ!」 痛くて堪らぬ血濡れた全身に、大丈夫とかける呪いはもう効かない。彼自身がかけ続けていたその呪詛はもう解けて消えてしまった。それをもう一度繰り返す彼の強さは、あぁ、そんなものは俺たちで溶かしてしまえ。 「そうだな。俺だって、ずっと、ずっとアルスと一緒にいたい」 「ほんとーに、寂しがりやばっかりだなあ、俺の家族は?」 一つは率直に、もう一つは距離を保ったまま。しかし何れにせよそれは願いだ。 温もりが言葉として降る。俺も彼の上にぽろぽろと翡翠を溢した。煌めきがこのまま、お前の中で永遠になればいいのに。ずっとその星に俺を映していればいいのに。輝石と一つになってしまえたら、それはどんなに、どんなにか。 冬の天、はらはらと舞う六花。百合を囲う楽園で彼は散り逝く。祈る俺たちへ、お願い、と彼はか細く懇願した。最早何一つ取り繕えない彼の真実は、酷くささやかで切なく、尊かった。 「おねがい、大好き、だから。ねえ、大好きなの、だから、もう少しだから、お願い――そばに、」 その先は全く音にならず、ただずっとその人は静かに泣きじゃくっていた。彼の中で何かが決壊してしまったのだと、俺に分かるのはそれだけだった。それが彼が今まで守り通してきた英雄の鎧であるのか、それとも歪に罅割れた硝子の器であったのか、考えようとして、やめた。知りたくなんかなかった。彼のその台詞の真実を、やはり俺は恐れたからだった。 星の雨が降る。花緑青を煌めかせ白い花弁が散る。
やがてそこに赤が咲き、彼の意識が冥き水辺に誘われるまで、俺はただ只管に、その微かな温もりへ縋る他になかったのである。
密やかな夜明けだった。薄くたなびく白い雲が、昇り始めた朝日を映して紫に染まっている。空の反対側はまだ藍を留め、その狭間に楽園はあった。 それに気が付いたのは、きっとそう、必然であったのだろう。ああ、彼は知らぬうちに人生の長い時間を分け合っていた幼馴染で、俺の伴侶でもあるのだから、そういう事もあって然るべきなのだ。きっと、きっと。 黎明の空に星が残る。隣にもう一つ、花緑青の明星。 そう、隣で音もなく身を起こす彼に俺は気が付いてしまった。誘われるようにその星を見遣れば、彼は静かに、本当に凪いだ瞳で俺を見ていた。強い光だった。 お前はもう覚悟を決めたんだなと、それで分かった。彼は玲瓏に咲いていた。夕方の涙など存在しなかったとでもいうように。 もう一人が痛み嘆くその姿を、しかし俺は確かに愛していた。時に行き過ぎていることは認めるが、それでも美しいと思った。傷付き躓きながらも己の足で立ち続けようとする在り方は、俺の信じるものと確かに似通って、その星はいつも隣で瞬いていたのだから。 だから俺は何も言わずに、一つ頷いた。するとほら、彼は蕾が綻ぶようにふわりと笑むのだ。あぁ、お前が納得してるなら、俺はそれでいい。それでいいよ。 そんな俺の方に僅か身を乗り出す彼の目の前へ寄ってやる。ん、と与えられたのは毒花の口付けだった。悪戯めいてさり気ないそれは確かに別れの気配を滲ませ、浮かぶ微笑みは切なさを隠しきれておらず。 ばあか、そんなこと俺以外にしたら、そいつもう立ち直れないかんね? けれど今だけは、今ばかりは。アルスというこの星を、他の誰にも見せずにいよう。だって、そんな顔を晒すつもりはなかったんだろう、アルスは。ならば隠してやっても、構わない。 抱きしめて頭を撫でた。これが最後の抱擁だった。これで最期か。そうか、もう、ねむるんだな。そう思えども、俺の中に激情は湧いてこない。 そうなるのは、あいつの方だな。 まさにその時、アルスの反対側でもう一つ山が動いた。薄く目を開けた家族が、言葉にならぬ音を吐き身を起こそうとしている。 腕の中の花はもう一度俺を見上げた。俺は彼を離してやりながらやはり頷く。あぁ、約束は守るよ。 一人で壁に背を預け、アルスは隣のちびを撫でた。アルス、と名前を呼びながら起き上がる大きなおとうと。ちびはまだ、本当の意味では何も知らない。残酷なお姫サマはしかし正しく、騎士がそれに耐えられぬ事を理解していたからだった。 アルスが起き上がるちびの髪をかきあげ、額に優しく唇をおとした。その祝福は、あぁ、だから呪いなんだってば。 名を呼ぶ哀れな男に、百合は大好きだよと囁いた。それが最期の挨拶だった。俺はそうと知っていたから、約束通りちびの腕を引っ張ったのだ。 「なぁ、おちびさん。外の月が夜明け前ですっごーく綺麗なんだよね。折角だから見に行かない?」 「えっ、いや、でもお前」 「ほんと満月、綺麗でさー」 ちびの脚が名残惜しそうに木の床を踏み締めた。けれどアルスが微笑んで小さく手を振るから、それにこいつが抗える訳もない。結局彼はその小さな領地の中でさえ、統べる者と相違ないからだ。 俺は緩く結ばれたその家族と共にバルコニーへ出た。楽園との境目である木の柵に身を預け空を見上げる。ちびもおずおずと俺に倣った。何を今更遠慮しているのか。 二人分の体重を受け、ぎいと柵が軋んだ。全てが木で組まれたこの家は、はじめから長く保つことを期待されていない。人が来るのを避けるには大工を雇う訳にもいかず、自分達で建てたのだから尚更だ。ここは明日にでも家主をなくし、やがて朽ちてゆくだろう。 そう、この家族はもう終わる。要を失えば途端に解れゆく道、遺された二人の未来は想像に難くない。俺は気ままに生きて、こいつはどうかな。生きていけんのかな、こいつ。面倒を見る気はないけど。 俺たちは脆く歪な家族だった。しかしそれでも家族であったことを、俺ですら認めていた。そう、認めていた。この物語が終わる夜明け、涙一つ出ないとしても。 だから、綺麗だとか適当な感想を空へ放り投げた。見えるものは窓を通した景色とまるきり変わらなかった。アルスも同じものをきっとその星に浮かべているのだろう。 密やかな夜明けだった。白い月は満月で、まだかろうじてそこに在る。明るすぎた月の光に星が霞む宵を経て、暁光の差し始めるこの夜明け、その星はもう微かにしか感じられない。薄くたなびく白い雲が、昇り始めた朝日を映して紫に染まっている。空の反対側はまだ藍を留め、その狭間に楽園はあった。 消えゆく星の光、それが。 ヴェールのように垂れ下がり、明けの空へ燦然と輝き始める。 「――っ、は……!?」 莫大なエーテルが渦巻く気配に、ちびが勢い良く源を振り返った。その先で凛と百合が咲く。白い舞台に座したまま天へ差し伸べる指。その先の天球儀。注がれるエーテルは彼の全てで、彼自身を燃やし尽くす勢いで魔法を練り上げていた。 光が降る。星が降る。花緑青の輝き。 それは比喩でもなく、彼自身の命の煌めきに他ならない。 「なっ、なにしてんだ! あんな事したらもう――ッ」 「そうだなー。もう、生きていられないなぁ」 俺は肩をすくめた。ほーらな、やっぱりこうなったじゃん。こういう役目を俺に任せるのは、うん、向いてないと思うよ? ――でもまあ、仕方ないか、約束だしね。 「はなせ、はなせよ! このままで良いってのかよ、お前は!」 「あぁ、いーよ。それがアルスが決めた事で、やり通すって言った事だしね。それを守るのが俺への最後のおねだり、てわけ」 駆け出そうとするちびの腕を掴む。この暴れ馬は本当に凶暴で、しかしそれでも一歩すら譲ってやらない。そこには辿り着かせない。それがアルスとの約束だったからだ。 彼は、自分がエーテルを留めていられなくなったら、あるいは保有エーテル量が一定以下になったら、その魔法に全てを費やすと決めていた。それは己の存在を変容させる術である。彼の身体は生物の枠を外れ、物質に近いものになるだろう。神の作品にも似た姿に。 瑞々しい肌、桜色の唇。とても死んでいるとは思えぬ、眠るような姿。それを一定期間留め、その後光の粒になって消える。それだけの、魔法。 それだけの事だが、それこそが彼の矜持だった。苦しみなどなかったと、そう微笑んでみせる事にこそ彼は命をかけた。その上で遺す事を懸念した。英雄は世界に影響を与えすぎたからだ。 「アルスッ――やだ、やめてくれ、なぁッ!」 全力で腕を握りしめる。上体を支え、意地でも離さない。ちびの腕がアルスへと伸びる。光が降る、星が降る。 窓の向こう、アルスがごぼりと血を吐いた。ちびが悲鳴をあげる。それでも震える白い指先は天球儀へ向いたまま、花が咲く。 「やめろ、やめろよ――なあ、やめ、お願いだ、アルスッ!」 お前がいなくなったら俺は。ちびが叫んだ。文字通りの泣き言だった。みっともなくぼろぼろと涙を流して暴れるその姿は、俺にとってあまりにも眩しかった。 俺はあんな風にはなれないなぁ。でも、きっと、きっと。 消えかけの白い月、そこに在るかも分からぬ星。そんな天を塗り替える満天の花緑青。幻想的な葬送の光だった。 この景色だけはきっと、忘れない。 捨てられて拾われ、預けられ星に出会った。それが俺の人生でどんな意味を持っていたのか、俺は未だ分からずにいる。それでも確かに彼は導の星であったのだ。 不意に、アルスがこちらを向いた。ふわり。蕾が花開く。 その微笑みを最期に。 「ッあ、ぁ、あ、あ……!」 百合が散る。星が一つ、おちて逝く。 「うそ、だ、そん……な、」 柔らかな軽い音を立て、アルスがシーツの上に倒れ伏した。その白はすっかり赤く染め上げられて、彼がどれだけの無理を強いたのかが分かった。それでもやり遂げたのだと、ならばそれで。 俺は手を離した。約束は果たされ、もう俺の役目は終わったからだ。我に返ったちびが名を呼びながらかけてゆく。 その先の眠り姫は、もう二度と目覚めない。やがて光と散る時を迎えても、もう二度と。 「はあ、疲れた……」 肩を回し、踵を返す。もう一度身を預けた柵は、俺一人のくせにぎいと泣き喚いてみせた。なあ、おちびさん、これ欠陥住宅なんじゃないの。その大工は後ろでひたすら泣き叫んでいて、あぁ、眩しい。 俺はただ空を見上げた。未だ遺る花緑青の星空、その向こうから遥かなる暁光が差し込んでいた。星が夜明けと共に消えて逝く様がとても彼らしく、浮かんでくるのは寧ろ笑みだった。 「お前の人生、短くて――長かったなぁ」 お疲れサマ、小さく呟く。ほんの三十数年、短い人生だった。けれど紡いできた物語は重厚で壮大だ。こんなちっぽけで弱い体で、繊細な心で、駆け抜けてきた創傷の道。もう、休んでいいよ。 ポケットを漁る。出てきたのは一本の葉巻だった。それはもう一人の家族のお気に入りで、だから吸いもしないのに強請ったのを覚えている。 何となく格好良く思えただけのそれにちびは肩をすくめ、アルスは苦笑しながら、お前はそれ嫌いだと思うよなんて揶揄し、それから。 そんな一本に火をつけた。じ、と燃える音が聞こえ、煙が天へ昇ってゆく。 白く細く、天へ還る。あぁ、本当に、終わったんだな。 ――本当に、この物語は終わってしまったのだ。 「あー……、にっが……」 俺たちは脆く歪な家族だった。しかしそれでも家族であった。 その終幕を、白くまるい月が見下ろしていた。
星の雨が降る。星が命を燃やし堕ちる姿を持て囃し、人は明日も生きていく。世界は何一つ変わらない。お前がその命を賭して守ったから、これからも続いていく。
なあ、アルス。俺たちは確かに、お前の事を愛していたよ。 だから散り逝く百合へ、流れる星へ、愛を込め。
月夜に白を、燻らせる。
[ 34/118 ] [mokuji]
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