「ぁ、れ…?」


ありふれたいつもと変わらぬ朝、のはずだった。

仕事柄起きる時間は結構ばらばらだった名の起床時間がこの所定まっているのは、言うまでもなく時代も世界も飛び越えて来た一人の英雄―――竜の存在故である。

携帯のアラーム音に揺り起こされ、ゆるり開いた瞳。
後ろ手をつき柔らかな寝床から抜け出そうと試みたものの、何故か

「力が、入んない…」

呟いた声も少し掠れていて
考え込む必要もなく、風邪だと今までの経験が答えを告げる。

困った。
一人暮らしならば、まぁ不便ではあるがそれこそ経験上どうにかなる。
が、今の自分には同居人がいるのだ。
しかも、彼は本来この世界の住人ですらなく。


(――…まぁでも心配ない、か)

頭のいい彼は己の巻き込まれた境遇を柔軟に受け入れ、たどたどしくも名の与えた知識を瞬く間に吸収すると、宣わったのだ。

『料理は任せろ』

長い一人暮らしで、名にとって面倒で堪らないのは家事全般で。
それでもこなさねば荒れるだけの室内に仕方なく掃除や洗濯はしていたものの、料理――採れればいい、その程度の認識で過ごしてきたそれに政宗が耐えきれなくなるのも仕方のない事で。

(料理も趣味らしかったもんなぁ)

BASARAの伊達政宗もそうなのかなぁと、ぼやける頭で考えていると扉の向こう側に気配がした。

コン―――

窺う様に小さく叩かれたノックの音に、答えようとした瞬間喉を襲った刺激に咳き込んでしまう。

「げほ…っ、こんこんっ、っんん…っ」

「!おいっ、どうした!?」

ばたんと鍵もついていないドアが開かれ、飛び込んできた美丈夫はベッドサイドまでたどり着くが早いか、苦しげに身体を丸めて咳き込み続ける名の背中を撫でさすった。

「ご、め…」

「いいから喋るな」

さする掌はそのままで、俯き浅く呼吸を整える名の表情を覗き込んでくる。


ヒヤリ―――
額に当てられたその温度に、うっかり気持ちよくうっとりとなりながらも、己の体温を知り、思いついた可能性に名は慌てて政宗から距離を取ろうと試みた。

「う、わ…」

「何やってんだよ…」

力の入らない身体はそんな名の意思など知らず、結果、それを支えようと引き寄せた政宗の思うまま、くたりとベッドサイドに膝立ちになるその胸元へと凭れ掛かることとなる。


「風邪、うつっちゃうから…離れて」

普通の風邪ならまだいい。
しかし、流感だったら―――

現代人ではない政宗にどんな影響があるか解らないのだ。
だから、と懸命に伝える言葉に政宗は
『そんなヤワじゃねぇ』
などと言って聞く耳を持たなかった。

「〜〜〜〜〜〜〜っっっ」

毎年寝込む訳じゃないのに、どうしてこんな時に限って…と悔やんでも如何ともし難く。
けして慣れている訳がないだろうに、やけに手際の良い奥州筆頭の手厚過ぎる看護を受ける事になった名の心中はどうしようもない後悔でいっぱいだった。






110212


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