信じる者-7


 
 ナルトと雪那を横目で見送ってから、気だるそうにポケットに手をつっこみ、背を丸めて歩き出したシカマルを追うものがあった。
 いかにもただ同じ方向へ向かっているだけだとでも言うように、気配を隠しもしない。だがそれは、表向きアカデミー生とはいえ気配に敏感な忍を尾行する方法としては、最適と言えるだろう。
 現に追跡対象は気づいたそぶりも見せず、慣れた足取りで通りの角を曲がっている。子供相手にいささか気を使いすぎなのではと、考えながらその後を追った追跡者は――。
「!?」
 先ほどまで追っていた子供の姿が、そこにないことに気づいて慌てて周囲を見回した。

 通りの先には、一軒の小さなラーメン屋があるだけだ。それも昼食には遅く、夕食にはまだ早いこの時間帯、客はほとんどいない。
 わずかに二人、カウンター席に座っていたが、そのどちらも彼が先ほど追っていた子供ではなかった。
 一体どこへ――。
 しかし振り返ろうとした追跡者は、自分の身体がいつの間にか意のままにならなくなっていることに気づく。
 動けない。
 それを認識した瞬間、どっと冷や汗が噴き出した。
 動悸が激しくなり、こめかみが痛いほど脈打つ。
「……さて」
 気配はまったく感じないのに、すぐ後ろで冷ややかな少年の声。彼は振り返ることも出来ずに息を詰めた。
「洗いざらい、吐いてもらおうか」

 それがさきほど追っていた子供の声だと、気づいた時にはもう遅い。
 いつの間にか、店の中にいた二人の客――横一文字の傷を持つ青年と、珍しい白色の瞳を持つ少年が、彼の目の前に立っていた。

 そして足元から纏いつくように這い上がる、影。

☆ ☆ ☆


 木の葉の外れに屋敷を構える豪商の家の離れが、彼らの本拠地だった。
「我々ハ、『白銀の夜明け団』ト言イマース」
 聞いてもいないのに、サビテルは雪那たちにそう説明する。
「コチラノ娘サンノ不治ノ病ヲ、我ガ教団ノ教主様ガ治シテサシアゲタトコロ、大変感謝サレテコノ離レヲ貸シテ下サッタノデース」
 その言葉を聞き流しながら、雪那はまるでお化け屋敷に入る怖がりの乙女のように、ナルトの腕にしがみついたまま怯えたように辺りを見回していた。
 どうかこれ以上、濃ゆい人が出てきませんように!(切実)
 その雪那の願いが聞き届けられたのかどうかは判らないが、広い離れはしんと静まり返り、人の気配はまばらだった。
 建てられてさほど経っていないのだろう。よく磨かれた板張りの廊下は、まだ真新しい。忍として抜き足は常識だが、ここはあえて足音を立てながら、ナルトと雪那がその床の上を歩く。
 自分たちはまだ半人前の忍と認識されているはずだし、わざわざそれを覆して警戒を煽ることもない。
 しばらくすると、サビテルが一際立派な襖の前で立ち止まった。
「教主様ハ、コチラデース」
 言って、鮮やかな唐獅子の描かれた襖を引き開ける。

 二十畳ほどの部屋の上座にしつらえられた床の間には、巨大な壺が祀られていた。
その表面には、円形の精緻な紋様が施されている。
 それを見て、ナルトは一瞬だけ目を細めた。――間違いない、あれは封印の術式だ。

(中心に北辰、その周りに八卦、外郭に二十八宿、か。……大仰だな、蟻の這い出る隙もない)

 だが見事だ。
 わずかのチャクラの漏れもなく、封じたものを完全支配する星宿の封印式。
 あれを組み上げることのできた者は、只者ではないだろう。

 その壺の前で、二人の男が談笑していた。どちらが「教主」とやらなのかは、一目瞭然だ。
 ……サビテルと同じ、ビラビラした衿を付けている方に決まっている。
 そのビラビラ衿の男がこちらを振り向き、ナルトの隣で雪那がびくりと竦んだ。

 濃ゆい男がまた一人……!

 背が高くガタイもいいので、あの宣教師スタイルがなければ、宗教者だというのは一見しただけでは判らないだろう。
「オー、サビテル! そちらが例の方々デスか?」
 その教主らしき人物が、オーバーに両手を広げてやって来る。
 こころなしかサビテルよりも言葉が流暢だ。あんまりカタカナには聞こえない。
 そして些細なことではあるが、こちらのてっぺんは薄くなかったので、目の前にいる彼のアレは決して宗教的理由ではなく年齢と男性ホルモンのなせる哀しい業だったのだと言うことが判った。
 ……こんなことが判っても、という感じだが。

「ハイ、教主様。例ノオ嬢サント少年デス。少年ノ方ハ、早急ニ『お祓い』ノ必要ガアルト判断イタシマシタ」
 サビテルは胸に手を当てて、教主に頭を下げる。
 教主が「例の方々」と言ったということは、少なくとも彼は雪那とナルトがここに来ることを知っていたということだ。サビテルが二人を見つけたのは偶然だと思ったのだが、いつの間に報告などしていたのだろう。
 ――ずっと自分たちに張り付いていたはずなのに。
 雪那は不審げに眉をひそめたが、構わず話は続けられる。

「はじめまして、お嬢サン。私は『白銀の夜明け団』の教主、ニコラと申しマス。あ、こちらはここの離れを貸して下さっている豪商の栗栖(くりす)さんデス」
 教主は、壺の前にいた男をそう紹介した。
「どうも」
 にこやかにお辞儀をしたその人は、案外普通のおっちゃんである。少なくとも見た目は。

「あ、白羽 雪那です」
「オレ、うずまきナルト! よろしく!」
 雪那が名乗ったあと、元気よく片手を上げてそう言ったナルトに、雪那は一瞬ぎくりとした。大抵の里人は、ナルトに関わるのを避けるか、積極的に暴力を振るうかのどちらかに分類されることが多いということを、今思い出したからだ。
 しかし、
「セツナさんにナルトくんですね。何か困ったことがあったら、こちらのニコラさんに相談するといいですよ」
 彼はにこりと人好きのする笑顔を見せただけだった。

【続く】

[*前]




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