本当は○○なCoideko童話 -シンデレラ変- A



 


 シンデレラは困ってしまいました。
 国中の若者たちが行かなければいけないのなら、自分も行かなくてはなりません。しかし自分は継母に『家事をこなさなければならない呪い(違)』をかけられています。そしてまだ、自分の仕事は山積みなのです。
 仕方なくシンデレラはひとつずつ着実に、仕事をこなして行きました。



「……まだ行ってなかったの?」



 再び背後に現れた魔女に、今度は掃除の手を休めることなくシンデレラは答えました。



「仕事が終わってませんから」
「……若者はみんなお城に、ってお触れじゃなかったの?」
「お触れに背くより、継母上の言いつけに背く方が怖いです」
「じゃあ……俺が片づけてあげる、って言ったら?」



 初めてシンデレラは顔を上げました。魔女の顔をまじまじと見つめます。
 魔女は楽しそうに言いました。



「俺は魔女だよ……? アンタの不安を取り除いて上げることくらい、造作もない」
「ほ……本当に?」
「うん」
「そんな凄い魔法が使えるんですか!?」
「ううん」



 身を乗り出したシンデレラに、魔女はクイッと背後を指さしました。
 むー、むーと暴れる布袋から、にゅっと一本の腕が突き出され、シンデレラはずざっと背後に跳びすさります。それから腕がもう一本。そして──



「ちょっと椎名先生! 何するんすか!?」
「たかなっしー……今日のお仕事はあそこの家の家事全般だから」
「なんでオレが!?」
「完膚無きまでに片づけてきてね」
「イヤそれなんか使い方違うし!」
「じゃあ、よろしく……」
「て言うか話聞けー!」



 シンデレラは心配になりました。本当に大丈夫なんでしょうか。



「大丈夫……彼、料理は上手いから」
「……料理以外は?」
「(多分)大丈夫……」



 ぶつくさいいながら、彼はそれでもシンデレラの持っていた箒を奪って掃除を始めました。
 その後ろ姿に一抹どころか百抹くらいの不安を覚えながら、シンデレラは魔女に問いかけました。



「百歩譲って仕事を彼がこなしてくれるとして。俺、得物はあるけど足はないです。今から行ったって間に合わないでしょ?」
「仕方がないな……じゃあちょっと待って、魔法使うから……」



 魔女はあたりをキョロキョロ見渡しました。やがてその目が何かを捉えます。魔女は懐から、先端に怪しげなオブジェの付いた棒状の何かを取り出しました。



「……なんですか、それ」
「ステッキ……魔法の……」
「…………ちなみに先に付いているのは?」



 問いかけると、魔女はなぜかうっとりした顔になりました。



「気になる? 気になるよね?」
「え?」
「これはね、クマムシって言ってね、あ、クマムシって言うのは緩歩動物(かんぽどうぶつ)門に属する動物の総称なんだけどね……」
「はあ……?」
「形がクマに似ていることからそうも呼ばれているんだけど、4対8脚のずんぐりとした脚でゆっくり歩く姿から緩歩動物と……」



   ──そのまま十分経過──



「……ええと、そろそろ本題に入って頂いても宜しいでしょうか……?」



 ようやく掴んだ話の切れ目に言葉をねじ込むと、魔女は、ポンと手を叩きました。



「ああ!」
「ああ、じゃねーよ」
「とにかく、あそこのカボチャに魔法を使うから……。
……ちちんぷいぷい……えい。」



 しかし、何も起こりませんでした。



「……あれ?」
「変身しないじゃないですか」
「ああ。やっぱり駄目か……。じゃあ、ちょっと難しい魔法で……。
ええと……サラガドゥラ メチカブラ ビビディ・バビディ・ブー……うたえ 踊れ 楽しく ビビディ・バビディ……」
(……また長いな……)
「……ビビディ ビビディ……あ、間違えた。ごめん、最初からやり直すから……」
「え!?」
「……サラガドゥラ メチカブラ……(中略)……ビビディ・バビディ・ブー……えい。」



   ぼわん!

 紫色の煙が風に吹き流されると、……なんと言うことでしょう!
 カボチャが素敵な荷馬車に変わっていました。
 シンデレラは目を見張ります。



「かぼちゃが……荷馬車に……(似非魔女じゃなかったんだこの人……)」
「じゃあ次は馬だね……このネズミを……サラガドゥラ……」
(またこれか!?)
「……(後略)……えい。」



   ぼふん!

 ピンク色の煙が風に吹き散らされると、……なんと言うことでしょう!
 ネズミがいたところには巨大なネズミが……



「あれ?」
「デカくなっただけじゃないですか!」
「そうだね……でもこの大きなネズミ、研究してみたいなあ……悪いけど、馬は厩から引いていってね。じゃあ次……」
(魔法の意味ないし!)



   ──そんなこんなで三十分後──



「さあ……準備ができたよ」



 魔女の指し示す先には、立派な荷馬車が出発を待っています。
 待っている間に愛用の弓と矢を用意し、弓道着に着替えたシンデレラが、不安そうに言いました。



「……もうだいぶ時間が押してる気がするんですが。しかも」
「大丈夫……間に合うから。多分」
「だから多分って!?」
「いいから乗る」



 ドンッ、突き飛ばされたシンデレラは、荷馬車の荷台に転がり込みました。



「ちょ……何するんですか!?」



 シンデレラの文句も馬耳東風な魔女が馬にひと鞭くれると、驚いた馬が急に走り出しました。



「頑張って〜ドナドナ〜」
「ドナドナって……俺を、売るなあぁぁぁ!」



 シンデレラの叫びを虚しく引きずりながら、馬車は城へと暴走していきます。その姿を見ながら魔女はほくそ笑みました。



「……本当、頑張ってね……クスクス……」




 
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