雨のちRainbow







梅雨の合間の快晴で休日ともあって、今朝から店の前の通りは色々な人達で行き交っている

そのおかげか、このpetite cerise nanoも客で賑わっていた



ところが昼過ぎになると予想を反したいきなりのスコールで、通りに人影は無くなってしまった




「バケツをひっくり返したような雨だな」
「そうですね」
「今日はもう客は来ないだろ。だから…」
「社長、駄目です」
「響、まだ何も言ってないだろーが!」
「どうせ店を閉めて、なのちゃんとデートすると言い出すのは分かりきってますから」
「チッ」


舌打ちをし外を見ると、びしょ濡れの男性が店内をガン見していた



「うおっ、何だ…」


俺がビビっていると、響が小さく「あっ…」と呟き店の外に出て行った
響の行く先を視線で追うと、びしょ濡れの男性に声を掛けていた


ん?…どこかで見た顔だな

思い出そうと頭をフル回転していると、響が自分のハンカチをその男性に手渡している
その男性はハンカチを受け取ろうせず店内を見続けている

さっきから何を見てるんだ?


2人の様子を店内から見ていると、響がハンカチでその男性の髪を拭き始めた
心なしかそのびしょ濡れの男性も嬉しそうに見えた



「外で何やってんだ、響のヤツは」


俺はデカい独り言を呟き、外に出た



「響、知り合いか?とりあえず中に入ってもらえばいいだろ」
「そうですね。さっ、中にどうぞ」
「……うん…」
「タオルどうぞ」
「……ありがとう…」


俺が手渡したタオルをたどたどしく受け取りはしたものの、そのタオルで身体を拭こうとはせずに手に握ったままでいる

俺は響にコッソリ耳打ちした



「なあ、この人誰だ?なんか前に見たことがあんだよな」
「なのちゃんの高校の先生ですよ。前に文芸部の皆さんと食べに来られたじゃないですか」
「ああ、そうか!だから見たことがあったんだな」
「因みにお名前は椎名先生ですよ」
「……チョ……ケー…キ……がない……」
「あ?」


ボソボソッと何かを呟いたが、何を言ってるのかまでは分からなかった



「あーと、椎名さん?何か言いました?」
「…チョコレート…ケーキ…」
「チョコレートケーキ?ああ、今日は人気があって売り切れました」
「……」
「チョコレートケーキがお好きなんですか?」
「…前に…食べた時…美味しかった…から…」
「嬉しいお言葉ありがとうございます。今からすぐにチョコレートケーキは作れないしな…。そうだ、似たようなチョコレートのロールケーキならあるんで良かったら持って行って下さい。響、包んでくれ」
「はい、かしこまりました」


響がテキパキとケーキを包んでいるのを嬉しそうに見ている
店内をガン見していたのはチョコレートケーキがあるかないかを確認していたのか



「…志乃…喜ぶ…かな…」
「彼女さんと仲良く食べて下さい」
「…うん。ケーキ…いくら…?」
「お代はいりません。なのがいつもお世話になってるでしょうから」
「…ありがとう…」


嬉しそうだ、良かった
そうだ、傘を渡さなきゃまた椎名さんはずぶ濡れだな

響に傘を持って来るよう伝えようと振り向くと、既に傘を手にしている響がいた



「こちらの傘、良かったらお使い下さい」
「……助かる……」


さすが気が利く男だな、響は…

響から渡されたロールケーキが入った紙袋を大事そうに持ち、どしゃ降りの雨の中に消えて行った






日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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