Love is blind. -前哨戦-






−10月5日−

あの子に渡すプレゼントは持った…
時間は…そろそろ…か…

俺はカレンダーにでっかく付けられた赤い丸を見て、最大級のため息をついた


それは憂鬱と喜びが混じる複雑極まりない感情からだった

そしてその原因となる出来事は1週間前に訪れた……





「なんで俺がお前に付き合わないといけないんだ!」
「だってひーくんは、なののダーリンじゃんかぁ〜。」
「はぁ!?お前は本当にクルクルパーだな!」
「あたしはクルクルだけど、パーじゃないもん。」


廊下が騒がしい…


「とにかく俺は部活に行く!お前も今日はちゃんと来いよ。」
「やー!あたし、椎名先生苦手だから一緒に来て〜。怖い〜。」
「俺の知った事かっ!」
「ひーくんの意地悪〜。鬼〜!」


煩い…



バタバタと足音が遠ざかり、廊下が静けさを取り戻した

が、その直後ドアを勢い良く叩く音がした


「文芸部所属・吉野なのです!入ります!入らせて頂きます!」



俺の返事を待つ事なく、ガラッとまた勢い良くドアが開いた

騒々しい子



俺は入り口に目を向ける事もせず作業を続けていた


「あ、あのぉ!やだ、声が裏返ちゃった…。コホン。椎名先生にお願いがあります」
「…。」
「えーと、10月5日が誰の誕生日かって事は椎名先生でも承知してると思うのですが…。え?ですよね?……ま、いいや。で、この日に文芸部のみんなで誕生日パーティーをしたいと思っております。」
「…。」
「椎名先生にも是非ともご参加して欲しくて、お誘い申し上げに参上しましたー!」


日本語が変…


「聞いてますか?椎名先生…。」
「…。」
人が集まる所、苦手だ

「先生?」

「…。」
でもあの子の誕生日…

「もー、待ってられない!」


この騒々しい子が机に置いてあった赤ペンを取り、カレンダーの10月5日にデッカイ丸を付け始めた



「注〜目〜!いいですか?先生!この赤丸がついた日がパーティーですからね?絶対参加!ですからね!みんなで志乃センパイを盛大にお祝いしましょうねー♪」



明らかに俺とテンションが真逆なこの子は、用件を言い切れた達成感からかスキップで部屋を出て行こうとしている


「あー!!」


なにを思ったのか突然入口で大声を出して、踵を翻して俺の近くまで走って来た



「パーティーをする事は志乃センパイには内緒ですからね!シーですよ?んふっ。」


にまーと気持ち悪く笑う顔が何かの動物と似ていて少し興味が湧く


「サプライズドッキリで素敵な日にしましょうね、先生♪なのは何をプレゼントしよーかなー♪はっ!こうしちゃいられない!準備に取りかからなくちゃだった。御免あそばせ〜、椎名先生。」



この騒々しい子は人間ではないんだろうな…
だって変過ぎる…


騒々しい子が居なくなり、静まり返った部屋に安心を覚える



「志乃の誕生日か…」

誰に聞かせる訳でもなく1人呟いた



Love is blind.



志乃が喜ぶ顔を頭に浮かべ、自然と笑顔になる自分がいた
志乃に出会う前の自分なら考えられない事



それと同時に誕生日プレゼントに悩む日々が今日から始まるのかと…、カレンダーを見てそっと溜息をついた

ただそれが嬉しい悩み事なのは分かりきっている


志乃の誕生日まであと1週間…
愛しい彼女の笑顔の為に沢山悩むとしよう





 
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