07

「はい、チーズ」


その静かなかけ声とともにシャッターは切られ、お城の前で丸井先輩、赤也、映美、そして私が並んだ写真が撮られた。ちなみにその写真を撮ったのは仁王先輩。私のカメラで。


「あの、次私が撮りますよ」

「いや、いい」


さっきからそう志願してるんだけど。仁王先輩にカメラを渡したあのときからずっと離さなくて。だから仁王先輩以外の人物の写真や風景ばかりで埋まってるだろう。ミッキーとの写真ですら、スタッフのお姉さんがみんな一緒に撮ってくれると言ったのに、なぜか仁王先輩は拒否して仁王先輩が撮ってた。

よっぽどこのカメラが気に入ったのか、それとも仁王先輩は撮られるのが嫌いなのか。
…写真部の仲間から、テニス部レギュラーの貴重なプライベートショット期待してる!って言われてるんだけどな。


「よし、んじゃ次はイッツアスモールワールドに…」

「待て待て赤也。そろそろ飯食おうぜ」

「えー、さっきポップコーンやらチュロスやら食ってたじゃないっスか!」

「ちゃんと席座ってたっぷり食いたいんだよ」

「…へいへい」


さすが丸井先輩の胃袋は食べ歩きなんかじゃ満たされないらしく。私たちは座って食べられるお店に移動した。
その最中も、仁王先輩はパシャパシャとシャッターをたくさん切ってた。

お店に着いてすぐ、運良く席を確保できた。半分残って半分が先に買ってこようってなって、ジャンケンをしたところ。


「じゃ、仁王と青木さんが先にここで待っててくれ」

「お先にー」


ずっと5人で会話…というか、ほとんどが丸井先輩、赤也、映美が場を回してただけに、私と仁王先輩の二人きりになると、すごく静かになった。

仁王先輩と話したいなって、前から思ってて。だからこれはちょっとしたチャンスではあるんだけど。


「……」

「……」


無言。仁王先輩はずっとさっきから撮りまくってる写真を振り返って見てるんだろうか、カメラしか目にないようだ。


「あのー」

「……」

「私にも、よかったら見せてください」


勇気を振り絞ってそう持ちかけると、一個イスを空けて座る仁王先輩が無言でディスプレイをこっちに向けてくれた。
カチ…カチ…と、一定の間隔でスライドショーのように次々と写真が流れる。まだここに来て半日も経ってないけど、かなりの枚数が……。

というか、この写真たち。仁王先輩が撮ったものたちは、なんだか違和感があった。


「あのー」

「?」

「私ばっか撮らなくていいですよ。せっかくなので他のみんなも均等にしたほうが…」

「……」


そう、ほとんどが私の写真。普段自分が周りを撮るほうなので、この自分ばかりのスライドショーには、かなりの違和感があった。
ミッキーとの写真も、なぜか真ん中にいたミッキーではなく端っこの私が中心になってて、逆端の赤也が見切れてる。かわいそう赤也。あんなに楽しみにしてたのに。

と思ってると、なんだか仁王先輩はしょぼんとしてしまったように見えた。ちょっと言い方キツかったかな。


「お待たせー」


そうこうしてるうちに、先に買いに行った3人が戻って来た。続いて私と仁王先輩もレジに向かい、無言で二人並んだ。


「…ごめん」


次は私の番だ、何にしようと上に表示されてるメニューを見上げてたら、仁王先輩が呟いた。
いきなりだったから、え?と思ったけど。写真のことかな。


「いえ。写真撮るの、楽しいですか?」


そう問いかけると、仁王先輩は一瞬ちらっとこっちを見つつ、コクっと頷いた。


「それはよかったです。でも…」

「?」

「できれば、私も仁王先輩の写真撮りたいです」


ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかな。せっかくあの仁王先輩がこっちを見てくれたけど、逆に私はあさっての方向いちゃった。全然目が合わないですね。

仁王先輩はスッと私にカメラを渡してくれた。場所もよくないけど、こんな機会ないかもしれないと思って、レンズを向けた。そしたら仁王先輩は、パッと手で遮った。


「ダメですか?」

「いや…、構えられるとちょっと」


緊張する、と小さく小さく呟いた。その直後、私の注文の番が来てしまった。

あとでこっそり仁王先輩を撮ってみよう。もう先輩は違うほう向いちゃったけど、さっき、緊張すると言ったときの表情がすごくすごく素敵だった。あんな顔をまた見たい。

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