08

日曜日で混んでるだけあり、すべてのアトラクションは無理だったもののそれなりにたくさん回れた。その後夢の国からは引き上げ、行きは現地集合だったけど帰りはみんなで一緒に帰った。

そして一人、一人と別れて行く中、最終的に同じ電車になったのは、私と仁王先輩。座席も空いたし、二人並んで座った。
仁王先輩とは無言も多いけど。というか仁王先輩が無言は多いけど。何か話さなくては。


「今日楽しかったですね」

「ん、ああ」

「映美も久しぶりにすごくはしゃいでてほっとしました」

「うん」


なんだか倦怠期夫婦みたいな雰囲気。仁王先輩は一応、小さく返事はしてくれるものの、会話が弾んでいるとは言えない。

そうそう、さっきちらっと丸井先輩から今日の趣旨を聞いたんだった。映美が最近元気ないから誘ったって。やっぱり映美が言ってた通り、丸井先輩は優しいんだな。仁王先輩もきっと…。


「それ、見せて」


仁王先輩は、私の鞄からちょっとはみ出たカメラを指した。


「あ、どうぞ」

「ありがとう」


無言でまたカチカチ、今日大量に撮った写真を見始めた。途中仁王先輩からカメラを取り上げてからは私がほとんど撮ってたけど。
仁王先輩よっぽどカメラを気に入ってくれたんだな。なんかうれしいな。

ふと、仁王先輩の手が止まった。1枚の写真を見てる。
隣に座ってるとはいえ、二人の間には微妙に空間があった。私はその空間を詰めて覗き込んだ。


「あ、それ、私が撮ったんです。仁王先輩のワンショット」

「……」

「正面じゃないけど先輩笑ってて、素敵だなって思って」


その写真は確か、赤也が丸井先輩のおかわりポップコーンをぶちまけて、丸井先輩にこっぴどく怒られてたシーン。それを見て仁王先輩が笑ってたんだ。
自然体な感じだけど、仁王先輩はもともときれいな顔立ちだし、それだけでも一つの作品みたいで……。

あれ、またちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかな。仁王先輩は黙り込んじゃった。


「すみません、なんか気持ち悪いこと言って」

「…気持ち悪い?」

「いや、素敵だとか。馴れ馴れしいですよね」

「そんなことない」


食い気味に若干張り上げて言った仁王先輩は、ようやく私を見てくれて。私も私で、ちょっと仁王先輩に近寄ってたから。
めちゃくちゃ近い距離で視線がぶつかってしまった。


「…あー、えっとな」

「は、はい」

「そんなことないんじゃ。うれしい」


仁王先輩はまたカメラに目を戻して、さっきよりもカチカチのスピードが格段に上がった。
照れてるの?まさか。でも私も…なんだか……。


「そ、そういえば、仁王先輩、何か気に入った写真ありますか」

「え」

「よかったら仁王先輩の分も現像してきますので」


そう言うと、仁王先輩はパパッと操作して1枚の写真を見せた。余談だけどカメラとはいえそれなりにメカ的なものなのに、仁王先輩は教えなくてもこのカメラの操作方法を完璧にマスターしたみたい。


「これが欲しいぜよ」


仁王先輩は写ってないけどミッキーとの写真か、はたまた最後に近くの人に頼んでみんなで撮った写真か。
そう思ってたら、全然違う写真。私がまるで丸井先輩のように、非常に満足気にチュロスを頬張る写真だった。


「え!?」

「ダメかのう」

「いや…え!?それ、私ですけど…」

「これがいい」


ただでさえ食べ物頬張る写真なんて恥ずかしいのに、それが仁王先輩の手元にいくなんて…!

私の返事待ちの間、ちらっちらっと、二人して目を合わせては逸らす、そんな変なやり取りが続いた。


「じゃ、じゃあ、それで…」

「いいんか?」

「はい…他にもみんなで撮ったものもピックアップしますんで…」

「ああ、よろしく」


仁王先輩は変な人だ。丸井先輩や赤也、映美とは普通に話すけど、私と二人だと全然。ほとんど無言。
顔見知りだったとはいえ、ちゃんと接するのは今日が初めてみたいなもの。だからしょうがないとは思ってたけど。
そんな私の写真を欲しがるなんて。からかってるのかな。


「…あ、次、私降りるので」

「ああ」


そう言って立ち上がると、仁王先輩も立ち上がった。乗り換えはないし…。


「仁王先輩も駅一緒ですか?」

「いや。もう通り過ぎた」

「……過ぎちゃったんですか!?」

「乗り過ごした。反対のホームに行かんと」


カメラいじってたからかな。私がなんか変な話しちゃったからかな。申し訳ない…!

仁王先輩の電車を見送って、ようやく私は気が抜けたようだった。仁王先輩といると、悪い意味じゃなくて気が張る。

変な先輩。だけど、文字通り素敵な先輩でもある。そんな先輩なだけに、うれしさ半分、私をこんなふうに戸惑わせて欲しくないなと思った。

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