18

「やぁ、みんなお待たせ」


やって来たのは幸村。今日の主役。その後ろに。


「お邪魔しまーす!」

「こんにちは」


マネージャーと、たった今話題になってた青木さんだった。

ついに見ちまった、青木さんと幸村のショット。かろうじてマネージャーが間に入ってるのが救いか。


「おー、なんだ、映美たちも来たのかよ」

「はい、幸村先輩の後追っかけてきちゃいました!」


そうマネージャーがにこやかに言うと、ブン太の顔がわずかに引きつった。同時に赤也が気まずそうにした。

ブン太の気持ちはわかる、わかり過ぎる。たぶんじゃけど、ブン太はマネージャーが好きなんだと思う。だから幸村と仲良くしてるのを見たくないんじゃ。そして赤也はそういう事情を知っとるんじゃな。俺のことをみんなにバラした腹いせに俺もぶっちゃけてやろうかと思ったが、まぁ今はかわいそうじゃき黙っといてやる。

そしてふと、青木さんと目が合った。青木さんは、ペコっと軽くお辞儀をした。俺もその仕草を返す。

青木さんと幸村のショットは正直、むちゃくちゃ気分は悪いが。
ただ青木さん、なんだか今日はやたらとかわいい気がする。俺個人(重要)に挨拶してくれたこともプラスして、少し心が明るくなる。

というか。青木さん、むしろ会う度にかわいくなってる気が……。


“恋するオーラってやつ?”


さっきの話が頭に浮かんだ。
そうか。俺だけじゃなくて、青木さんも……。


「あ」


幸村たちもこっちに来て一緒に飯を食うかと思ったが、幸村は少しうれしそうな声をあげて花壇に向かった。


「よかった、元気そうで」


そううれしそうに花を撫でた。そこに駆け寄ったマネージャーとは違い、青木さんは、少し離れて二人を見守ってるようだった。


「幸村先輩が大事に育ててたから丈夫なんですね、きっと」

「フフッ、そうかな。真田にも一応頼んでいたしね。真田のおかげでもあるかな」

「へー、真田先輩がガーデニングとか見たかった!」


ご愁傷様ナリ、ブン太。二人はまるで恋人のように楽しげに会話を弾ませとる。薄々感じてはいたが、マネージャーもきっと幸村が好きで……。

真田のおかげ?


「でも真田、花の区別もつかなくてね」

「そんな感じですねぇ」

「一つ一つ説明するのが大変で…」

「幸村」


思わずなのか、声が出た。俺が言わなきゃいけないって、勝手に思った。

この屋上にいるたった数人の中で、今わかっとる限りじゃまぁ大層な複雑具合の人間関係。ブン太はたぶんマネージャーが好き。マネージャーはたぶん幸村が好き。

青木さんもたぶん幸村が好き。俺は……。
なんて、そういう複雑な面倒臭い関係とか今はどうでもよかった。たぶんばっかで確実なことは一個もないかもしれない。

ただ一つ言えることは、言わなくちゃいけない、はっきりさせなきゃいけないことがあるってこと。


「どうした?仁王」

「違うぜよ」

「え?」

「真田じゃなくて、それは」

「仁王先輩!」


その、はっきりさせなきゃいけないことを言おうとした瞬間。青木さんに腕を掴まれた。


「…えっと、すみません」


青木さんも思わずだったんだろう、俯き加減で気まずそうにした。でも腕を掴んだ力は緩めない。

やっぱりかわいくなってる。俺はそれがうれしいのか、悔しいのか、わからん。


「どうしたの?ひかり」

「いやいや、なんでもない…」

「?」


マネージャーだけじゃなくて、幸村も、ブン太も赤也もジャッカルも、わけわからんじゃろ。
わかってるのは俺と青木さんだけ。


「…言わんのか?」


やがて昼休みも終わりに近づき、みんなで屋上を後にした。返却する食器もあるし、みんなでジュースでも買いに行こうと食堂へ向かった。

その途中、青木さんの袖を軽く引っ張って、俺と一緒に最後尾を歩かせた。マネージャーは幸村に夢中、ブン太はヤキモキしてて赤也はそんなブン太を励ますかのように明るい話題をとことん続けた。

だから俺と青木さんの会話は周りに聞こえてないはず。


「…花壇のことですか」

「そうじゃ」


言ったほうがいいんじゃないかって、付け足した。
そしたら青木さんは、ゆっくり首を横に振った。ノーってこと。


「マネージャーにも言っとらんかったんか?」

「はい。よく屋上に行くのは、空の写真を撮るからだって、言ってました」

「なんで」


ほんとに、なんで。言えばいいじゃろ。私がここ守ってたんですよって。幸村先輩のために私がって。
幸村のことじゃき、そう聞いたら素直にありがとうって礼を言うはず。そしたらうれしいはず、だって。


「幸村のこと好きなんじゃろ」


誰にも聞けなかったはずなのに、当の本人に聞いちまった。それほど俺はらしくもなく、動揺してた。


「違いますよ」

「嘘」

「本当です。ちょっと、移っちゃっただけです」

「……」

「映美が、あまりにも幸村先輩が素敵だって言うから。それで、確かにそうかもーって」


それだけです。そう言い切った青木さん。もうこれ以上、それは嘘だろうとは言えなかった。

そこまではっきり言い切られて、俺はうれしいはず。ブン太と違って、その危機は気のせいだったっちゅうことじゃから。誰にも聞けなかったモヤモヤ感がなくなったはず。

はずなのに。違う。うれしくない。
いつも青木さんが俺を見ない間はチャンスで、俺が青木さんを見れる。
でも見たくなかった。ぼんやりあの二人を見てる顔はちょっと、切なそうで。


「仁王先輩が知っててくれて、ありがとうって言ってくれて、それだけで満足です」


あ、真田先輩もでしたね、そう微かに笑いを含ませたけど。
俺にできることは何もないのかと、悲しくなった。

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