11 - 突然のお誘い



学期末テストも無事終わり夏休みが始まった。中学生最後の夏じゃき、ウキウキ楽しいイベントが俺を待っとる──はずはなく、むしろ学校のある日より休みが少ない。ていうかない。関東大会、その後の全国大会に向けて、毎日朝から晩まで部活があるから。

そしてさっそくその夏休み一日目の今日、朝から日が傾くまで練習したあと。


「久しぶりに焼き肉食いにいかね?」


部室で着替えていると、ブン太がそう提案してきた。それに対しすぐさま赤也が「行くっス!」と返事。その後ジャッカルや柳生たちも乗っかり……。


「仁王も行くよな?」


制服の下を履きつつポケットからスマホを出すと、LINEの通知が目に入った。土屋からだ。その内容に一瞬眉間にシワが寄る。


“電話出ろやぁ!”


ずいぶんご乱心な言い方っちゅうか、やけにヒステリックじゃな。…ああ、電話もしとったんかと、着信通知にも気づいた。
さてと、“部活中だったんじゃアホ”とでも送り返すか……。


「おい、仁王ーって!」


返事を打ち込む隙に、ブン太が俺の真ん前まできていた。このトークの名前部分を見られたらまずいと思って、咄嗟にスマホを引っ込めた。いや、まずくはないが、なんとなく。


「焼き肉!行くだろい?」

「ん、ああ」

「よーっし、んじゃ行こうぜ!腹減って死にそう」


ブン太のその言葉と同時に、LINEの通知音。どうやらさっきの、引っ込めた拍子にうっかり送信ボタンを押しちまってたらしい。文章は途中の、“部活中”だけで終わっとったけど、意味は汲んでくれたようで。


“おつかれ!今日ごはん食べいかない?”


返信を見て固まる俺にはみんな気づかず、順に部室を出て行った。そして最後の柳生だけが、「仁王君?どうかしましたか?」と不思議そうな顔を向けた。


「…や、先行っててくれんか」

「?ええ、わかりました」


まだ部室には残っとる後輩もいたからとりあえずは俺も一緒に外へ。ブン太たちもちょっと離れたところで俺を待ってたみたいだったが、柳生が先に行くよう伝えてくれたようじゃった。
よしじゃあ返そうと、“すまんテニス部のやつらと飯行くから”と打ちだした…が、すぐにその文字を消した。いや、実際行くんじゃからそうやって返事せんと。でもなんでか躊躇う。

……行きたいって、思っとる。ちょっとだけな。ほんとにちょっとだけ。でもブン太たちと行くって決めたからのう。
文字だと送るのにまだ時間がかかりそうな気がして、結局電話にした。


『もしもーし』


2秒ぐらいで出た。余談だがこいつとはあんまりLINEとかせんが(席隣じゃきする必要がない)、まれに電話するとき、決まって出ない。逆もそう。俺も一発じゃ出ない。でも今に限ってすぐ出るんじゃな。


『部活おつかれ!』

「ああ」

『今終わったんだね。大変だねー』


しまった。やっぱLINEで返事すりゃよかった。声聞くと断りづらくなる。申し訳なさも出てくる。


「あのな、今日」

『これからテニス部でご飯?』


俺が言おうとしたことが、そっくりそのまま耳に入ってきてびっくりした。
こいつにしては勘が鋭すぎやしないかと、一瞬思ったが。


『あ、私は全然大丈夫だから。また今度行こう』

「ああ、また」

『早く行ったほうがいいよ!じゃあねー』


そのままプツリと切れ、スマホをポケットに戻した。残念だが断るしかないし、言いづらかったもののあっちから言ってくれたし。ものすごくベストだったはず。
けどなんか、なんか引っかかった気がした。行きたいとかそういうんじゃなく、なんか。いろいろ考えながら、みんなが向かった焼き肉屋に俺も急いだ。


「あ、仁王先輩、こっちっス!」


店に到着するとすぐに気づいた赤也に呼ばれ、店内を探し回らずに済んだ。もうすでに注文済みではあったが、俺の好きなもん、カルビとかカルビとかカルビとかを追加でまた頼み、すぐに来た冷たいウーロン茶で喉の渇きを癒す。喉だけじゃなく、暑さのせいで熱のこもった頭もスーっとする気がした。

そういえば、飯行こうって土屋に誘われたのは初めてだった。昼飯は俺が勝手に美術準備室に行くだけじゃし、なんちゅうか改めて“待ち合わせ”とか“飯の約束”をしたことはなくて。…そこが引っかかっとるんかの。


「肉!来た来た!焼いてくれジャッカル!」

「はいはい」


網の上に乗せられた肉たち。ブン太や赤也がスマホで写真を撮ったのを見て俺も撮ると、「珍しい」と柳生には驚かれた。自分でもそう思う。


“おいしそー!お腹すいた”


さっそく撮った写真を送ると、そんな返事がきた。時刻は19時過ぎ。まだ飯食っとらん家庭もたくさんある。それだけで判断はつかんけど。


“いま家?”


電話と違って即つく既読が、この返事にはしばらくつかなかったことで、ふわっと頭に浮かんだ“もしかして”が色濃くなった気がした。なんか引っかかると思っとった。変だと思っとった。

女を取ったわけじゃない。あくまで、1つの友情がもう1つの友情より緊急性を帯びたってだけ。そう、重要なのは“緊急性”じゃき。そうそう。
そんなことを自分に何度も言い聞かせながら、俺は席を立った。そしてかけた電話は予想通り、ちっとも取られる気配はなかった。

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