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これを先に読むこと推奨。
下の世界のレイドックに来るとオレが行方不明になってしまった王子にそっくりだとかなんとか言われて、勝手に皆が勘違いして、違うことがバレて偽王子なんて言われて、やっと尋問等から解放された時はもうクタクタだった。
「だいたいオレが王子なわけないだろ。」
「確かにな!噂だと本物の王子はもっとナヨナヨしてて可愛らしかったってよ。顔立ちも中性的だったって言ってたけどレックは完璧男だよな!」
ハッサンの言葉に表面上は頷いたが内心、少しだけ複雑な気持ちになった。完璧男って言われて嬉しいはずなのに、誇らしいはずなのに、喉に氷がつっかえたように痛くて冷たい。
「………王妃様が寝言で言っていたラーの鏡を探しに行こう」
ミレーユがすたすた、と先に進んでしまう。表情は氷のように無表情で少し怖かった。ハッサンも首を傾げている。なぜ、ミレーユがイライラしてるのかがわからない。
「ミレーユ、なにイライラしてんだよ」
ミレーユの背中をぽん、と叩くとようやくミレーユがこちらを向いた。
「レックは中性的な顔立ちでとても整っていると思う。だから、ハッサンの言うことは気にしなくていいよ」
「は……?」
ミレーユの言葉はまるでオレが女であることを知っているような口ぶりだ。いや、知っているわけがない。別に性別を隠さなくてはいけない理由はないが男である方が色々と便利だ。なにより自分が強い男であろうと望んだ。全てはターニアを守るためだ。
(女だって馬鹿にされんのはもう嫌なんだ)
***
月鏡の塔にラーの鏡を探しに来た時、一人の少女に出会った。男の格好をしている自分よりも何倍も女の子らしい女の子。
「あたしもついていってもいい…?ほら、あたしこれでも魔法使えるし、頼りになると思うの!」
「僕はいいと思うよ」
「オレもミレーユに賛成だな。男だらけでむさ苦しいしな。レックはどうよ?」
「むさ苦しくって悪かったな。でも、まぁ…別にいいとは思う。」
「リーダーが言うなら決まりだな!また騒がしくなりそうだな」
「えへへ…よろしくね、皆!」
「うん、こちらこそよろしくね」
ミレーユがバーバラに手を差し出すとバーバラは目をハートにして握手する。確かにミレーユは町を歩いていても女の子に声をかけられるほどモテるけど、でもなんか…面白くない。
「どうしたの、レック?そんな顔して」
「別に」
ミレーユはキョトン、と首を傾げている。
「レックもこれからよろしくね!」
「あ、あぁ…」
バーバラに握手を求められ、それに応える。バーバラの手は白くて小さくて柔らかい。それに対して自分の手は日焼けして少しゴツゴツしていて、豆だらけで固い。
「…えっと、」
ずっと手を握っていたらかバーバラが頬を染めて上目遣いで見つめてくる。オレが正真正銘の男なら一撃でやられてただろうな、なんて考えながら手を離すとクスクスと笑っているミレーユと目が合った。
「なんだよ」
「レックはバーバラみたいな子がタイプなんだね。なかなかのお似合いカップルだと思うよ」
なんだよ、それ。
「えー!そんなこと言われたら困っちゃうー!ねー、レック!」
バーバラがその場で跳び跳ねる。
「………………」
「おい、レックどうしたんだよ?」
ハッサンに肩を揺さぶられ、目の前には心配そうに見つめてくるバーバラがいる。ミレーユは先ほど手に入れたラーの鏡を袋に入れてリレミトを唱える準備をしている。
なんだよ、自分の言いたいこと言ってそれだけかよ。
「大丈夫。ちょっとボーッとしてた。ミレーユ、リレミトしてくれ」
ミレーユはその言葉に頷くとリレミトを唱え、月鏡の塔の前に一瞬でたどり着いた。バーバラはキョロキョロ、と辺りを見回してすごーい!とぴょんぴょんと跳び跳ねる。そんなバーバラを微笑ましそうに見つめるミレーユの顔を見て、何故か胸が痛くなったと同時に言い様のない大きな不安の波が押し寄せてきた。
(なんだよ、これ…!オレ、どうしちゃったんだよ…)
ミレーユといるとムカムカするし、自分の思い通りにはいかないし、たまに心臓が大きく跳ねる。
(オレ、きっとミレーユが苦手だ)
そして嫌いだ。
バーバラばっかり見るミレーユなんて嫌いだ。オレを見てくれないミレーユなんて、オレをわかってくれないミレーユなんて大嫌いだ。
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確かに恋だった(20140716)
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