好きな理由は好きだから 

*これを先に読むことを推奨。


初めて会ったとき、男にしては随分と小柄で華奢で中性的な顔立ちをしていると思った。彼はまだ変声期の前だからか声が女のように高く、背も自分の肩ぐらいしかない。そんな彼の秘密に気づいてしまったのは宿屋の一室に泊まったときだった。
三人とも男性だがハッサンという大柄な仲間がいるのでやはり二つ部屋を取ろうという話になった。彼は一人部屋がいいと言ったがイビキも寝相も悪いハッサンが一人部屋の方がいいと言うと彼はしぶしぶ承諾した。翌日の朝、物音が聞こえて目を覚ました。深い睡眠が出来ない自分は過去のことがあってか物音には敏感だ。薄目開ければこちらに背を向けて着替えているレックの姿があった。寝巻きを脱ぐと途端に露になる白い肌に巻かれているさらしに目を奪われる。


(まさか、彼は…)


レックは素早く私服に着替え、ストレートにおろしていた髪をしっかりと逆立てるとこちらに近づいてきた。すぐに目を閉じ、寝ているフリをする。


「ミレーユ、まだ寝てるの?起きてよ」


ゆさゆさ、と体を揺さぶられて体を起こす。まるで今、起きたように欠伸をしておはよう、と言えばレックもにっこりと笑っておはよう、と言った。その顔をジーッと見つめる。中性的な顔立ちだが女性と分かってから改めて見ると確かに少女らしさがある整った顔立ちだ。ぱっちりとした大きな瞳は睫毛が長くて人形みたいだ。薄ピンクな唇はしっかり手入れされているように荒れおらず、ぷるっ、としている。肌はマシュマロのように白く柔らかそうで弾力性もありそうだ。


「ボクの顔になんか付いてる…?」


「いや、なんでもないよ。おはよう、王子」


「だから、その呼び方止めてよ」


「ああ、そうだった」


すぐ近くに丁寧に畳んである私服に手を伸ばし、寝巻きを一気に脱ぐとレックは顔を真っ赤にして部屋から走って出て行った。


「女の子だなぁ」


クスクスと笑う。今の自分にはどこから見てもレックは女の子だ。自分もよく中性的な顔立ちで女のように美しい、と言われるがやはりレックと自分は違う。自分は鏡でよく見るとやっぱり男だ。そのことに嬉しく思いながら私服に着替える。


***


レックが男ではなく女であったことを知りながら自分は何も言わなかった。レックは今まで王子として過ごしてきたのだろう。レック王子は王女だった、という噂は聞いたこともないし、レック自身誰も気付かないだろうと、いや気付かせないと今まで生きてきた彼女の誇り高いプライドを傷つけるのは嫌だったから。ムドーによって実体と精神が別れ、彼女の精神体に会ったときも彼女は男の格好をしていた。自分が女性であることを偽って。彼女のことだから精神体は男の姿だと思っていたけどそれは思い違いだったようだ。男であることを煩わしく思いながら心の奥底では彼女も普通の少女として生活をしたかったのかもしれない。そんなことを推測しても本当のことは彼女自身にしか分からないのだろうけど。


「ハッサン、悪いけどもう少し歩くスピードを落としてくれない?」


前を歩く大柄な男に声をかける。自分は問題ないが隣を歩く彼女が心配だ。余裕なフリをしているが男のスピードに付いていくのが一苦労なのかさっきから一言も話さず、息を乱している。


「おー、早すぎたか?」


「うん、ちょっとね。先はまだ長いんだし、体力温存しないと」


「それもそうだな。後先考えて突っ走るのはオレの悪い癖だな!」


「ふふ、それもハッサンらしいけどね」


「……別に、大丈夫だろ!行くぞ!」


隣を歩いていたレックがハッサンの横に並び、大股で歩き始める。


「おいおいムキになんなって。おまえさんらしくねぇ」


「うっせぇな!この筋肉ダルマ!」


彼女がハッサンに暴言を吐くなんて初めて見た。それに彼女がイライラしているところも。体と心が切り離される前の彼女は温厚そのものだったのに。


「ミレーユも余計なこと言うな!」


レックはそう叫ぶと更に足を速めた。スピードを落としたハッサンに嫌われちまったな、オレら、という言葉に肩を竦める。


「反抗期、かもね」


「あぁ、なるほどなぁ。」


無意識に女の子扱いしてしまったことが彼女の感に障ったらしい。


(難しいな、女の子って)


それも好きな子となると尚更難しい。なぜ、レックなのか。今まで嫌というほど女性に声をかけられたのに心が動かされることなんてなかった。そんな中、レックだけは違った。レックと出会って自分の何かが変わった。恋は人を変えると聞いたことがあるが正にそれだ。彼女が本当に本当にどうしようもなく好きだ。





title*確かに恋だった
(20140715)

   end 
bkm

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