二度目の、お別れ (8/10)




昼間の賑やかなレイドックと違って静かな夜だった。
バーバラの鼓動の音が隣で歩いているレックに聞こえてしまうんじゃないかとぐらいに。


「…………」


「…………」


「あの、さ…。話って、なんだ?」


二人の間に流れる微妙な空気と沈黙にレックは焦れたように話を切り出した。


「…えっと、ね。レックと最後にちゃんと話しときたいの」


「最後…って、なんだよ…」


レックが歩みを止め、やや後ろを歩いていたバーバラに振り返るとバーバラもピタリと足を止めた。目をそらしたくなる気持ちを押さえてバーバラはレックを正面から見据える。

ーー逃げちゃいけない


「あたしね、今でもレックのことが大好きだよ。ミレーユに負けないぐらい、ずーっとずーっと大好きだし、この気持ちは昔から一ミリも変わらない。だから、ミレーユと婚約の関係になってるのも、キスがすっごく上手くなってるのも全部、ムカついた。勝手にさ、浮気されたような気分になってたんだよね。だから、あたし、テリーと…レックを裏切るような行為をした」


「…バーバラ」


何と答えれば最善策の答えなのか分からなかった。レックに今のバーバラを抱き締める権利はない。レックはぐっと何かを堪えるように拳を作る。


「それでも、やっぱ、レックのことが嫌いになれるわけなんてなくて、レックはあたしにとっていつまでも、一番大切な人で一番大好きな人だよ。それだけ、言いたかったんだ」


「オレ…」


「レックはミレーユが好き、なんだよね」


「…あぁ。オレがバーバラを失った時、一緒にいてくれたのはアイツなんだ。オレはミレーユが、好きなんだ」


「…だったら、ちゃんと安心させなくちゃ!あたしをフった分、愛してあげて、大切に…してあげて。」


深い悲しみを紛らわすようにバーバラは明るい声色でレックに言った。


「ありがとう、バーバラ」


「ミレーユと、幸せになって。あたしが、皆が羨ましく思うぐらいに幸せになってね。じゃないと、許さないから」


「あぁ、必ずミレーユを幸せにする」


約束だ、と二人は小指を絡ませて約束した。二人は今にも泣きそうなぐらいに眉を八の字に曲げ、きゅっと閉じた唇は僅かに震えていた。

ーーこれで終わり


「バイバイ」


「あぁ、またな」


「…うん」


城の方向へ帰っていくレックの背中を見送ってバーバラは小さくぽつりとさよなら、と溢し、その場に崩れ落ち、泣きじゃくった。

初恋だった。こんなにも大好きになった人はもう別の誰かのもので、一度失ったものを取り返すことが出来なかった。


「レック、いかないで」


伸ばした指先は届かない。レックが振り返ることは一度もなかった。

もし、自分が消える運命をレックに伝えていたら…、自分が夢の世界の住人ではなくレックや仲間たちと同じ世界の住人だったら、今もレックの隣で笑って生きていくことを許されていたのだろうか。
あぁ、でも、今更もう遅い。
レックが選んだのは自分ではなく金色の髪を持つあの女性なのだから。


『バーバラ、愛してるよ』


『あたしも、愛してる』


いつかの記憶が甦っては儚く弾けた。


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