恋が走り出したとき (9/10)
どれくらいの間、その場で泣きじゃくっていたのだろうか。泣きすぎて目が痛い。これからどこへ行けばいいのか。何を理由にして生きればいいのか分からなかった。
「帰るぞ」
「…テリー」
そんな風に途方に暮れていたバーバラはテリーに声を掛けられるとテリーに倣って静かに歩き始める。テリーが泊まっている宿屋に泊まらせてもらう理由なんてもうないのにもう少しここに居たいとも思う。
「………」
「………」
いつもなら口数の少ないテリーとの沈黙を気まずいと思い、くだらない話をするところだが今はむしろ好都合だ。
夜の冷たい風がテリーとバーバラの髪を揺らした。
***
バーバラはレックとちゃんと話せたのだろうか。それで二人のヨリが戻ったのなら潔く諦めよう、とそう思うのに気が付いたらレイドックの城の前まで歩いてきていた。
「ミレーユ?」
待ち焦がれていた声にミレーユは顔を上げた。そして、彼の隣にバーバラの姿がないことに密かに安堵した。
「バーバラとはちゃんと話せた?」
「……うん。ちゃんとケリをつけてきた」
レックはミレーユの言葉に驚きながらもそう答えた。
「泣いてたんでしょ?」
泣きたくなるぐらいに彼女のことが好きだったのならどうして私を選ぶの?と聞きたくなるのをぐっと堪えてレックの頬に指を滑らせる。
「やっぱバレちゃうか…。ほんっと敵わないな、ミレーユには。」
「ずっとレックを見てきたんだもの。すぐに分かるわ」
「…ホント、ありがとな。ミレーユ。」
レックはミレーユの体を引き寄せて抱き締めた。
「…レック」
ミレーユは外だということもあって恥ずかしがったが周りに誰もいないことが分かるとおずおずとレックの広い背中に手を当てた。
「なあ、ミレーユ」
「なあに?」
「オレと結婚しよう」
「うん」
突然のレックのプロポーズにミレーユは迷わずそう答えた。前に一度レックは周りに流されてプロポーズをしたが今回は本当の、本気のプロポーズだった。
「ありがとう、私を選んでくれて。本当に嬉しい…。」
「今まで待たせてゴメン」
「本当よ…!馬鹿レック!」
「うん、ゴメン」
感極まって涙をポロポロと流すミレーユの頭を不器用ながらもポンポンと優しく撫でた。
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