愛なんて所詮そんなもの (2/10)



未来が詰まっていた卵から小さいドラゴンが生まれた。ゼニスの話だと今は小さいが何日かすればすぐに大きくなるらしい。


「…やっと生まれたんだね」


まだ小さくてキュルルン、キュルルン!と鳴くドラゴンを指で突っつくと嬉しそうに鳴いた。
あれから二年が経った。旅をしていた時はあっという間に時間が過ぎていったのにここでの二年はとても長く感じた。心細かったし、寂しかった。何もかもの環境が変わって、バーバラの周りにはかつての仲間は誰一人いなかった。夢の世界の住人だったのはバーバラだけだったから当然といえば当然だ。今ではやっとこの環境に慣れたが寂しさが薄れることはなかった。眠れない夜はいつも恋人のレックの顔を思い浮かべた。虚しさに心がはち切れそうにもなった。でもそれももう今日で終わりだ。未来が詰まっていた卵からドラゴンが生まれたことによってバーバラたちは肉体を得た。どういう原理かは知らないがこれはこのドラゴンのほんの一部の力にしか過ぎないらしい。
かつての仲間に会いたいとバーバラが告げればゼニスは快く承諾の返事をした。ゼニス自身そのことに気にかけていた。バーバラは最近は全く使っていなかったルーラの呪文を唱える。もちろん行き場所は愛しの恋人がいるレイドックを頭に浮かべる。久しぶりの浮遊する感覚が心地よかった。


「よし!」


レイドックの城下町に着くとバーバラは両手で自分の頬をぱちん、と叩き気合いを入れる。二年ぶりに恋人と再会するのだから緊張するのは当たり前だ。懐から手鏡を取り出し、身だしなみを整える。バーバラは二年前と比べると綺麗な女性に成長していた。もともと素材が良かったのもあるだろう。高く結い上げていた髪はストレートにおろし、化粧も薄めにしていた。そんな彼女に年頃の男性がほっとくわけもなく何人もの男がバーバラにあの手この手で口説いたがバーバラは全て断っていた。


(なんでこんなに話しかけられるのかしら。ニ年前は全然だったのに)


旅をしていた頃、男に何かと口説かれていたのはミレーユだった。バーバラは少しばかり自分に目を向けてくれたっていいのに、と唇を尖らせて拗ねたこともあったがレックという恋人がいたから特に気にすることもなかった。
城に着けば、兵士たちはバーバラの顔を覚えていたようですぐに通してくれた。その兵士たちもバーバラの美しさについ目を奪われていたのだがバーバラはやはり気づかない。


(うわぁ、懐かしいなぁ…。)


レックは公務で忙しいらしく、兵士によって応接室に通された。
ニ年しか経っていないのにまるで十年ぶりに来たような感覚になり、キョロキョロ、と辺りを見回す。
レイドックの城内はどこかレックの匂いと似てる、とバーバラは思った。彼の実家なのだから当たり前だがその事実に鼓動が早くなる。早く会いたい、とバーバラの思いが叶ったのか予定よりも早くレックは姿を現した。


「…バー、バラ…」


ニ年ぶりに見た彼はバーバラと同じように成長していた。王子としての貫禄が感じられたからなのかどこか遠い距離を感じた。まるで住む世界が違うような、そんな感覚。


「……久しぶりだね、レック」


「…あぁ、久しぶり」


レックは何度も自分の頬を引っ張っては夢じゃない、と呟く。
彼のそんな仕草にバーバラは笑う。
見た目こそ王子らしくなったが中身はまるでそのまんまだった。
そのことに安堵するバーバラの目に飛び込んできたのはレックの左手の薬指に控えめに光っている指輪だった。
それを見た瞬間バーバラの顔が途端にこわばる。
レックはバーバラの視線が自分の左手の薬指の指輪だと分かった瞬間、しまった…、と思った。


「あ、あのさ…これは、違うんだよ」


「…違うって、なにが?」


レックはなんとか誤魔化そうとするがバーバラは苛立ちを隠さずにレックに迫る。
近くに控えていた兵士は自分が責められているわけではないのに汗をだらだら流しながら主を見る。
紅茶とお菓子を運んできた年若いメイドは興味深そうに二人の会話に耳をたてる。


「…じ、実はそのミレーユと、結婚することにしたんだ」


「…………そう、」


てっきり頬をひっぱかれると思っていたレックはバーバラの物分かりの良さに目を丸くする。
旅をしていたときのバーバラは恋人であるレックにわがままを言っては困らせていた。レックにはそのわがまますら愛しく思っていた。


「……帰る」


そう言うと椅子から立ち上がり、帰ろうとするバーバラの腕を掴んでレックはそれを止める。


「……バーバラ」


レックがバーバラの名前を呼びながら掴んでいた手に少し力をこめる。


「…離してってば!」


バーバラが大きく腕を振り払うと掴んでいたレックの腕は簡単に離れてしまった。それがバーバラには悲しかった。


「…ごめん」


「……謝って、ほしいわけじゃない。」


レックはバーバラに近づき、肩を掴むと唇を重ね始めた。固く閉じていたバーバラの唇を舌でこじ開けて舌を絡ませる。バーバラは久しぶりの感覚に戸惑った。そうしてる間にレックは口づけを深いものにしていく。


(や、やだ!)


バーバラはレックの薄い胸板を力一杯に押した。油断していたレックは呆気なく離れた。


「レックはミレーユが好きなんでしょ!結婚もするんでしょ!それでいいじゃない!だからあたしなんかほっといてよ!あたしなんかに、別れたつもりの女にキスなんてしないでよ!」


塞き止めていた感情が途端に溢れ出し、大きな瞳から涙をポロポロと流し、バーバラは泣き叫ぶ。


「オレはお前のことが…!」


「聞きたくない!」


レックの言葉を遮り、バーバラは外へと駆け出した。レックは追いかけなかった。そのことに悔しさを感じてしまっているバーバラはまた静かに涙を流した。


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