という夢をみたんだ。

 リトがいなくなる夢を見た。

 夢の中で僕は泣いていたけれど、起きて冷静に考えてみたら、リトはいついなくなっちゃうかわかんないんだ。だって、リトは迷子さんなんだもん。異世界から来たって言ってた。なんできたかわかんないんだって。だから、いつ帰るかもわかんない。
 しょんぼりしながら髪を整えてリビングに行くと、小さな丸い女の子がいた。
「おはようアディ。ご飯あとちょっとだから待っててね」
「うん、おはようリト」
 よかった。いなくなってなかった。
 ダイニングテーブルに座り、リトの後ろ姿を眺める。キッチンを僕の身長に合わせたせいで、リトはすごく作業がしづらそう。今度台を買ってあげなきゃ。
「今日の朝ごはん、なあに?」
「お味噌汁。こっちの世界、味噌はあるんだね」
「うん。でも、おみそしるって知らないなー」
 リトが異世界の人だなって感じるのはこんな時。リトはよくこうやって異世界のことを話す。例えば、あっちの世界では、キャベツとレタスが逆なんだって。だからリトはしょっちゅうごっちゃにしちゃうとか。教えてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと寂しい。リトが遠くから来た人なんだって思い出しちゃうから。本当は、ずっとここにいて欲しいから異世界のことは忘れて欲しい。でもリトは帰りたがってるんだもん。そんなわがままなんか、言えない。
 あとそれに、リトは大変だと思うの。食文化どころか家の作りまで違うらしい世界に突然来させられて。不安にならないわけがない。でもリトは大丈夫そう。平然と、僕らとおんなじ生活に順応している。多分、リトの中ですごく頑張ってるんだと思うの。そんな頑張ってるリトに、わがままなんか、言えない。
 でも言いたいの。
 そのはけ口が、これ。
「食べなさい」
「いやだ」
 お味噌汁は美味しかったけど、そこに入ってたおとうふが嫌い。目をつぶって鼻つまんで我慢すれば食べられるけど、ちょっとリトを困らせたいの。
「おとうふくらい食べなくったって死ななないもん」
「な、が一つ多い。好き嫌いは生死の問題じゃなくて世間体の問題です。その年になって嫌いなものの一つもクリアできないとか、恥ずかしいというかなめられるよ。食え」
「いや」
「このでっかい駄々っ子め」
 駄々っ子でいいもん。リトに構ってもらえるなら。
 それに、リトが僕を叱る理由が気持ちがいい。僕のことを考えて怒ってくれている。
 でも、困らせすぎちゃうかな。そろそろ折れよっか。
「…じゃあ、食べたら今晩一緒に寝て?」
「……」
 リトが固まっちゃった。
「え、どうしたの?」
「……いやいやいや、ここは異世界異世界。常識とか通用しないんだからさ」
 どうしちゃったんだろ。リトのいた世界では、誰かと一緒に寝ないのかな。
「あ、いや、ごめんアディ。私、普通、男女は一緒に寝ないものだと思うんだけれども」
「なんで?」
「んーっと、さ」
 リトは、何かを探すみたいに、宙に視線を泳がせた。
「あー…、赤ちゃんってどうやってできるか知ってるよね?」
「うん。お父さんとお母さんが仲良くしてたら、ペリカンさんが運んできてくれるんでしょ?」
「は?」
 リトがまた固まった。
「え、今、なんて?」
「だから、ペリカンさんg」
「いえ、もういいですごめんなさい」
 僕何か変なこと言ったのかな?リトが呆れてる。そうそう、どこかで言おうと思ってたんだけど、リトは無表情女とか言われてるけど、ちょっと表面に感情が出にくいだけなんだよ?ずっと一緒にいたらわかるもん。
「…もういいや。うん。いいよ。一緒に寝てあげるから、豆腐食べなさい」
「やった。じゃあおとうふ一個食べる」
「いや全部食えよ」

 その夜、リトは約束通り一緒に寝てくれた。
 リトがもこもこで暖かくて、枕よりも抱き心地が良かったから、すぐに寝ちゃった。僕いっつも寝る前にいろんなこと考えちゃって、寝つき悪いのに。だけど、もっとリトとお話がしたかったから、ちょっと残念。また一緒に寝てくれた時にしよう。

 ふわふわの雲の上で、リトと紅茶を飲む夢を見た。



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