世界移動は蔑ろ

[やほーレイヤだぞ(*°ヮ'*)]
 パァアン!
 リトがそれを音読してすぐに、いい音を立ててノートを閉じた。
「ちょ、ちょっとリト!一応私たちの大事な遺産なのですから、もっと丁重に!!」
「うるせえ!こんなテキトーな始まり方するノートなんか丁重にしてやるか。なんだよこの顔文字。なんで右目丸いんだよ何殴られたの?目の周りのアザとかそういう?」
「えー、レイヤ・ハーチェスは右目に片眼鏡をかけていたので、おそらくそれではないかと…」
「んなところで怪盗アピールかよ!」
 なだめる私の隣で父は、自分は関係無いかのようにお腹を抱えて大笑いしている。
「とっ、とりあえず全て読んでくださいますか、リト」
 リトは、まだ言い足りない様子ながらもしぶしぶと本を開いてくれた。

[書いてる時点では想像するしかねえが、お前は水なのかな、炎なのかな。もしくは両方か。多分水だと思うけど。炎はあいつ実家からでなさそう。
 どちらにせよ、これを読んでるっつーことは俺の子供達とその相方達に会ったんだろ?そいつらに、この世界のお前の知らないこととか教わったはずだ。どうだ。この世界は好きか?気に入ってくれてると嬉しいんだがな。なんならここに永住してもいいんだぞ。だめか。まあそうだよな。特に水。お前は家族とか学校とか気になるもんな。炎はこっちが実家だし別にいいだろ?あダメ?
 しゃあねぇなあ。じゃあ帰る方法を教えてやるよ。
 実は、このノートを開いたと同時に、生まれる前に水の魂に埋め込んでおいた、世界を行き来する能力を解除した。すげぇだろ(`・ω・´)(ここでリトはまた「すげぇよ!すげぇ超展開だよ!!」と怒ってノートを閉じた)方法は教えねぇぜ。想像にお任せするよ。というわけで今後、@水が体液を除く液体に触れていることA周りに任意の移動者以外の人の目がないこと、この二つの条件を満たしていれば自由に行き来することができる。人数制限は無いけど、騒ぎがおこっても当方は全く責任を負いませんので。
 あ、時間のことなら大丈夫。最初にこちらに来た時に、あちらの時間は止めてある。(ここでリトはまた「だからお前は何者なのかを先に言え」と怒ってノートを閉じた)今回はお前らにとっちゃ事故だしな。だからゆっくりしていっていい。ただし、注意しろ。どちらかが帰った時点であちらの時間は動き始める。それ以後止まることはないからな。ちなみに、時間の流れはほぼ同じと考えていい。多少時差はあるだろうが、そこらへんは自分でちゃんと調整しろよ。
 以下は水と炎が一緒にいなかった場合のことを考えての内容だ。でも炎に関してのアドバイスはないから、まあ、がんばれ☆。
 でさぁ、なあ水。お前は勝手に帰れるよ。帰れるけどさ。お前、探すのめんどくさいとか言って、炎をほってったりしそうなんだよな。確かに、お前自身にとってはどうでもいいことだろう。炎の実家がこっちなんだからなおさらだ。だが、…]
 不意に、リトの音読が止まった。
「リト?」
 また怒るのかとも思ったが、適当なことは今の所何も書いていないはずだ。なにがリトの音読を止めたのだろう。
「リト、読めない文字などありましたらなんとなくで読んでいただいて構いませんよ」
 父の助け舟が出た。
 なるほど、その可能性もありますが、それにしてはリトの表情が険しすぎる気がする。
 ややあって、リトの口が開いた。
「…まぁ、ここんとこは、水は炎を探して一緒に帰った方がいいよ、って話だよ」
 嘘。
 いやでも、完全な嘘では無い。困惑して、私は父を伺った。父は、笑みは絶やさないながらも、疑い追求しようとする目をリトに向けている。
「…困りますねぇリト。確かに逐語訳をしろというわけじゃありませんが、要約されてはのちに私たちが解読する時に困るでは…」
[なお、このノートは終了と同時に、自動的に消滅する(`・ω・´)]
「「??!」」
 リトが物騒なことをことも無げに音読する。慌てる私たち父子をよそに、リトは半目でページをめくった。
[…落ち着け、爆発なんかしねえって。だが、消えるのは本当だよ。ちょいと知られたらまずいやつがいてな。
 だから、折を見て俺が盗みにいく。忘れちゃないだろうが、俺は初代怪盗ハーチェスだ。まさか防げるなんて思ってないよな?]
 盗みに?!
「というわけで、解読はできないね」
 私はどうでもいいけど、といった表情で、リトは残りのページが白紙であることを確認している。
 それは困ると父を見ると、まるで子供のようにキラキラと目を輝かせていた。
「と、父さん?!状況わかってる??」
「ああ!初代怪盗ハーチェスの盗みが見られるってことだよね?」
 でもその代償に資料が一つなくなるんだよ?!!
「一つくらい資料がなくなるくらい我慢しなさいな。あんたらがハーチェスと組んで盗んだ物のツケが回ってきたと思えば、安いもんでしょ」
「そうそ。それにあのトラム様やロイル様のご先祖からこのノートを守り切れるとは思えないでしょう」
 そうですが!そうですけれども!!
「盗まれるまでの間に解読なんて無理ですよねぇ…」
「まあ私たちに当てた内容じゃない様だし」
「あんたらには関係無いのに逐一音読してた私が馬鹿みたい」
 リトがそう言い、とりあえず写真撮っとこ、となにやら四角い箱を触り始めた。
「しゃしん?」
「うん、今見えてる光景を切り取って保存する技術とでも言えばいいかな。あ、貸さないよ。ケータイ大事だし、私のケータイ、今時流行りのスマホじゃなくてガラケーだからカメラもしょぼいからせいぜいこのふざけた顔文字を残しとくくらいしか出来ないからね」
 それは残念…あ。
「そっか、写本すればいいんですよ!」
「私はやらないよめんどくさい」
 うっ。
「それに、その写本も盗まれると思うよ」
 ううっ。
 だから諦めなさい、と隣の父に肩を叩かれ、私は挫けた。


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