突拍子もないこと

「っつかおかしすぎるでしょこの内容。」
 ひとまずロイル様達にこのノートを見せることになり階段を上っている。その途中、リトがノートを読み直しつつ呟いた。
「まずこのレイヤ本当何者だよ。事態の収拾をこんな数ページで済まそうとするんじゃねえ。なんなんだよ水とか炎とか魂に埋め込むとか時間止めるとかさぁ。超展開すぎるわ。デウスエクスマキナかよ。」
「なんですかそれ?」
 リトの愚痴は最もであるから聞き流していたのだが、知らない単語はやっぱり知りたい。
「デウスエクスマキナのこと?えーっと、舞台がぐちゃぐちゃになったところに神様的なポジションの人が突然現れて一気に解決してくっての。」
 よくよく考えたら、デウスってゼウスだからこっちにそんな言葉無いか、とリトは一人で納得している。
「へぇ、じゃあ邪神伝説などもそれに当たるんですか?」
 父がリトに聞く。けどリトは邪神のこと知らないんじゃ無いかな。
「邪神?ああなんか死と闇のうんたら?」
「ハーディアのことですか?」
 ハーディアは私達が信じる神々8柱のうちの2柱目の神の名だ。
「確かに死と闇と言われれば暗いイメージがあるかもしれませんが、同時にハーディアは良心なども司っているので、あなたが思うほど悪神ではないのですよ。」
「ふーんじゃあ邪神って誰よそいつ。」
 神をそいつ呼ばわりですか…。
「邪神伝説とは、かいつまんでお話しすると、昔、豊かに暮らしていた私達の祖先の上に光の玉が突如現れ、文明などを壊して去ったという、口伝えの説話です。正体がよくわからないため名前もなく、ただ『邪神』と呼んでいるのです。」
 父が大分端折って説明してくれた。
「いやそれどっちかってーと解決に導くどころか壊してない?」
「そうですね。けれど邪神信仰というものもありまして、彼らはそれまで人が神を困らせていたその報いを受けただけだという考え方をしているのです。」
「へー。でも多分違う気がする。あとなんかもうどーでも良くなって来た。」
 リトが話を終わらせた、というより投げ出したところで、ちょうど階段が終わった。
 リトが強制的に話を終わらせたのは、面倒臭くなったのもあるでしょうが、おそらく階段が長くて疲れたのでしょう。
「はぁーあ長いな階段。長い上に踊り場もないとか。」
「踊り場がないことへの不満は同感です…。」
 かくいう私も体力がないことには自信がある。
「二階建ての図書館が、地面に埋まってるようなものですものねぇ。」
 父も少し息を弾ませている。
「図書館認めちゃったよ。あと地下だったんですか。書斎のくせに地下っすか。」
「あれ、気付いてませんでした?あの部屋窓が無かったでしょう?」
「本が日光に弱い的な意味でつけてないんだと思ってた。」
「それもありますがね。でもあの部屋は元々あんなに本がたくさん入る予定では無かったそうですよ。」
「そうです。別のところにも書庫ありますしね。」
「この屋敷、まだ本あるんだ…。」
 私も詳しくは知らないが、地下の書斎は元々私達の先祖であるフィルド・カシュアンが研究室として使っていたという。その研究資材が撤去されたのち、書庫から溢れ出しつつあった本をあそこに並べたのだそうだ。だから書斎には書庫よりも古い文献が並んでいる。
 私が知りたいのは、あの地下の書斎でフィルドがなんの研究をしていたのかということだ。そもそもレイヤ・ハーチェスと違いフィルドに関する情報が少なすぎる。父に聞いても、いずれ教えるとはぐらかされる。だから、これを知ることが私の目標でもあるのだ。
「さぁ、ここからトラム様の書斎に向かうため、もう二つ階段上がりますよ!」
「あっちも書斎なのかよ。書斎から書斎に行くのになんでこんなに階段あるんだよ不便すぎるわ。エレベーターつけろ。」
「なんですかそれ?」

 体力の無い三人でヒーヒー言いながらやっとロイル様のいる方の書斎についた。
 断りを入れて室内に入ると、想像を超えた光景が広がっていた。
 まず私の主ロイル様は、部屋の隅でつまらなさそうにコーヒーをすすっている。
 アディは部屋の真ん中のソファ。
 そして一番の問題。トラム様は、アディの後ろに立っていた。
「…………え、あれ、とトラム様?何をしてらっしゃるんですか?」
「あー終わった?ちょっと待ってこっちもあとちょっとで……ほい出来た。」
 アディの髪は、可愛らしくツインテールになっていた。当のアディは困惑顔で自分の髪を撫でている。
「しばらくな、お父様がアディを質問責めしてたんだよ。でそのうちお父様はアディのこと気に入っちゃったらしくてな。そこらへんから飽きて見てねえ。」
 ロイル様があくびしつつ教えてくれた。それにアディが驚いて、小声でロイル様に尋ねる。
「え?僕気に入られたの?」
「っぽいぜ。」
「なんで?」
「さあ?」
 二人の小声の会話もトラム様には聞こえているのだろうけれど、ニコニコと笑ったまま杖を弄んでいた。




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