世界観

 ぶっちゃけて言うと、ここは異世界である。
 この世界において、昔の日本とよく似た国、イセン。それが今俺たちがいるこの国だ。このイセンの政治体制はなかなかによくできている。
 言わずと知れた、政治と武力を司る「王」。
 大まかに言えば宗教を司る「皇」。
 そして、民衆が長年の苦労の末勝ち取った、事の善悪を判断し民衆の意見を取りまとめる「判」。
 王は、判が反対すれば何もできないので、判に弱い。
 判は、立ち上げる際皇の協力を仰いだため、皇に弱い。
 皇は、王の軍に守ってもらっているため、王に弱い。
 こうして上手く王皇判の力関係が釣り合い国が回っている。多少の混乱はあれど、この国は長く続いていた。
 そして俺、白廉は、皇のトップである皇の長の二人の息子のうちの、弟だ。その時の癖で、今でも気を抜くと一人称が私になり、口調が固くなってしまう。
 さて、俺の所属する皇についてだ。先程「大まかに言えば宗教」といったが、厳密には仏教やキリスト教などとは全く異なる。やっていることは、いわば除霊だ。近い言葉で「霊媒」といっても良いが、霊媒師というものはその身を媒体として霊の言葉を聞くものである。我々皇族もできないことはないが、それよりも霊を祓うだけの方が圧倒的に多い。民に迷惑をかける悪霊だけでなく、ただふわふわと漂うだけの霊も出来るだけ成仏させる。この世界の輪廻の輪のシステムを崩さないように、と教育された。要するに、皇族の多くはただただ現世にて彷徨う霊を成仏させることにのみ特化しているのだ。
 話を戻す。っと、なんの話をしていたか…。あぁ、皇の説明の途中だったな。
 皇の血を引く者たちは、多かれ少なかれ除霊能力を持っている。それを修行で完全に開花させ、15あたりで大人と認められて初めて除霊を行うことができる。
 普通は。
 だが、どういうわけか俺は違った。
 俺は、除霊能力が異常に強く、修行せずとも除霊を行えたどころか、自分や他人の魂を壊しかねないほどに強く生まれてきた。危険で、普通とは逆、つまり抑える修行をしなければならなかった。
 抑えるのは苦しい。感覚としてももちろん苦しいのだが、何より意識の一部を常にそのことに使わなければならなかったのが辛かった。他のことに満足に集中することもできない。
 しかしそれが何故か、なみが近くにいてなみの意識が俺に向かっていると、それが楽になるのだ。俺の中で常に俺のスキをうかがい暴れだそうとする能力がおとなしくなる。かと言って弱くなったわけでもなく、俺の意思に従順に動いてくれるようになった。
 それがわかって以来、俺は出来るだけなみと共に行動するようにしている。
「はい、何か質問は?」
「白廉が楽になるってことは知ってたけどさぁ…」
 俺たちは今、用意された敷布団に入り暗いままで話をしている。門番の詰所は、多少の人は停めることができるようになっていて、食事と湯と寝床をもらったのだ。
 隣の布団で寝ているなみから、もぞもぞという衣擦れの音が聞こえてくる。眠れないのだろうか。時計はないが、まだ10時ほどだから無理もない。などとぼんやり考えていると、
「ぅぐぉぁ!」
「なんで異世界出身とか言ってくんなかったの?!」
 なみが、仰向けの俺の腹に全体重をかけて乗ってきた。正しく言おう。飛び乗ってきた。
「げほっ。いや、だって、頭おかしいやつとか…」
「今更だよ」
 ひどくないか?
「まあいい。ほら。明日も歩き回るんだろうから、とっとと寝ろ」
「ええー?歩き回るって、なんで?」
「さっき、門番の竹中さん言っていただろ?ふるい分けの話だ」
「あぁ、あれ」
 “ふるい分け”というのは、要約すると「除霊能力を確かめるためにどこかの例を成仏させてこい」だった。
「なみも予選参加しなきゃなの?」
「お前、さっきの話聞いていたか?お前がいないと満足に能力が使えないと言っただろう。あと予選ってなんだよ」
「そかー、じゃあなみがちゃんといたげないとね!ちなみに本選は白廉兄ちゃんとのご対面」
「それは面接じゃないか?よっと」
 まだ俺の上に乗っていたなみの体を持ち上げ、隣の布団に転がしてやる。
「…ちびのくせに馬鹿力だよね」
 俺は、優しくなみの蹴飛ばした布団を引き上げ、それでもってなみの顔までかぶせる。鼻と口を塞ぐように。
「〜、〜〜!〜〜〜〜〜〜!!」
「あまり騒ぐな、周りに迷惑だぞー」
 面白いから、もう少しこのままでいてやろう。




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