現状分析

 目の前には、見知らぬ森が広がっていた。
「びゃくれーん、ここどこ?」
 困惑する俺の目の前を飴色の髪が揺れる。
「共に行動していたなみがわからないのだから、俺にもわかるわけがないだろう。」
「確かに。」
 このモコモコ髪の持ち主は沢本南という、高校の親友だ。俺は「なみ」と呼んでいる。髪を長めにしたり化粧をしたりスカートを履いたりしているが、俺の通う高校は男子校。つまりなみは、女装男子というやつだそうだ。女装の理由がなにやらあるらしいが、俺は知らん。
「白廉、どっか行かないでね?髪色は目立つけど、草木に埋もれて見つけづらいからさ。」
「どういう意味だ。ヒールへし折るぞ。」
「ぴゃー!これオキニだからやめてー!」
 そして、先程から話している「俺」の名は、八江白廉。白とかいう目立つ髪色に153cmとかいう目立たない身長をした、ごく普通……では無いな我ながら。クラスでも残念ながら大分浮いている男子高校生だ。
 さて、ここに至る経緯を説明しよう。
 時間は放課後、夕方と夜の間頃。なみが街で買い物に付き合えというので、学校から街に降りているところだった。俺達の学校は山の上で、街から歩いていくのは大変だからと寮がある。なみは寮生だが、俺は諸事情により街で一人暮らしだ。
 ところで、今日は昼まで大雨だった。
 ということは当然、道にはたくさん水溜りがある。
 なみがふざけて、俺に大きな水溜りの水を蹴ってきた。水が苦手な俺は全力で避けつつ目をつぶりながらも、俺もなみにブーツの厚底を利用して同じことをしてやる。もちろん、倍返しでだ。
 なんとも和やかな光景だったことだろう。
 しかし、目を開けてみると、景色は一変し、とても和やかでいられる状況ではなかった。
 まず、街灯がない。
 次に、道もない。あるにはあるが、獣道だ。
 山道とは言え通学路なのだから、今まで俺たちが騒いでいた道はちゃんと整備されていた。
 それで慌てて思考回路の停止した俺に、なみが話しかけ、冒頭に至るというわけだ。
「ねえ白廉!これからどうすんの?」
 なみが定期的に脱色しているという髪をふわふわさせながら、俺の顔を覗き込んだ。
「とりあえず、山を降りるぞ。」
「なんで?」
「人を探すためだ。」
「降りたらいるかな?」
「山中よりはいるだろう。」
「そか。んじゃ、れっつらごー!」
 なみが足取り軽く獣道を下っていく。あまり離れるなと言いながら、考える。
「なみお前……。」
「うん?」
 小首をかしげて斜面の下にいるなみが見上げてくる。女装しているからかなり様になっている。
「……楽しんでるだろ。」
「うんっ!」
 なんかさ、非日常きたー!ってかんじ?とかほざいてやがる。
 その能天気ななみを軽く叩いて流すあたり、俺もたいがい能天気かもしれない。



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