ペダル | ナノ


  憂鬱を飲み下す、



数年振りに出来た彼氏は年下の高校生でまだ子供と呼ばれる部類の男の子だった。
それにしては年齢に不相応に落ち着いた子供である。いや、子供扱いすると彼はとても機嫌が悪くなるのだから"大人ぶっている"と言う方が正しいのかもしれない。

久し振りに定時で仕事を終えることが出来た私はマンションに戻ると着替えもそこそこに風呂に入ることにした。
終日だから彼が泊まりに来るかもしれないという期待に胸を膨らませ少しでも身綺麗にしておきたいという気持ちからの行動であるが、年下の少年にここまで夢中になっている自分はやはり変人なのだろうか。

浴槽に浸かると少しだけ眠くなる。

浴室の戸棚には華や蝶々、フルーツなどの形を模した入浴剤やボトルが置いてあり、女性らしさの欠片も無い自分には不釣り合いだと思った。

全く使いもしないのに後生大事に取ってある洒落た入浴剤は全て今年の誕生日に女友達から頂いたもので、プレゼントの半分が入浴剤だった私はどうして女というものは贈り物に入浴剤ばかり選ぶのだろう?と首を傾げたものだ。


せっかくの終日だというのに何故だか憂鬱は私の胸をモヤモヤと包んでいて、折角の彼との時間が楽しくなくなってしまうし気分転換に良いかもしれないと思い全く手のついていなかった友人からの贈り物に手をつけた。

桜の華の形の入浴剤は浴槽の中でブクブクと泡を吹き、お湯を乳白色に染めた。

それから携帯でお気に入りのシンガーの歌をエンドレスで流すと時間が流れては巻き戻され延々と繰り返しているような気分になった。

曲が6曲目に入った頃浴室のドアが開き素っ裸の彼が入ってきた。

「キミィ、風呂入るん長過ぎやろ。」

「あれ、翔くん来てたの?」

「大分前に来とったわ。」

翔くんは浴槽に浸かると私を後ろから抱えるように座り、温いわ。と文句を溢して蛇口を捻ってお湯を足した。

「翔くんいっつも突然泊まりに来るからおねえさん大変なんだけどなー。」

「おねえさんとか、キモッ!たかが数年早く産まれただけで威張るのキモいで?それにボク今日だって何回も電話したやん。」

キミ、電話に出なかったら携帯電話の意味無いで?そもそも携帯しとらんやろ。

翔くんは捲し立てるように私に説教を始めた。

「ごめん、ごめん。気付かなかったんだよ。」

「……謝ればええと思っとるやろ。」

「思ってない思ってない。」

翔くんは呆れたように溜め息を吐くと狭いから早く上がれと私を浴室から追い出した。

私は仕方なく服を着て髪の毛を乾かし、翔くんが風呂から上がって来るのを待った。

タオルを肩にかけた翔くんが出てくると彼の髪の毛をドライヤーで乾かすのは私の仕事。
髪の毛を乾かしたあと、じっとソファに座ってテレビを見る彼の首筋に顔を埋めるとほんのり桜の香りがして、翔くんに擽ったいからやめえ。と怒られた。

「なぁ、ナマエチャン。」

「んー?」

「ボク眠たいわ。」

「はいはい。」

そう言って翔くんの隣に座ると彼はコテン、と私の膝に頭を乗せて大きな瞳を閉じた。
元々他人に甘えるのが得意でない彼の最大限の甘えはこの時だけで、私はそんなこの一時がとても愛しい。

頭を撫でると閉じていた瞼が薄く開いて私を見上げる。

「子供扱いせんといて、」

翔くんの左手が彼の頭を撫でる私の右手を掴むと、長い指がスルスルと私の指に絡んで手を繋ぐような形になってしまった。


しばらくすると翔くんからは寝息が聞こえてきて、繋いだ手や寝顔が愛しすぎてこれだから甘やかしたくなるんだよなぁと一人苦笑した。















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