欠陥人間


計画には一週間を費やした。
無駄に警備の固い我が家を抜け出す為には緻密な計算と臨機応変な対応が要されるのだ。

私は決意したのだ。どうせ死ぬなら、偉大なる空に抱かれて逝くのだと。

脱走のチャンスは住み込みで働いている看護師や医者が唯一帰宅する第二金曜日の夕方。



計画は案外あっさりと成功した。そしてあっさりと見つかった。
警報が鳴り響く我が家からの必死の逃走。
空を見る暇なんてものはない。
走って、走って、走って。
今まで走ったことなどかぞえるほどしかないのに、それでも私は足の裏が擦り傷だらけになってもただずっと走り続けた。

森を抜けると街らしきものが見えてきた。すでに辺りは暗くなっていて、私は生まれてはじめて夜と言うものを体感した。
本や写真で見た通り、看護婦が話した通り、チカチカと光輝くネオンは見事なものだった。

そして、見上げた夜空の美しさも。
逃げるために夢中だったのでいままでまともに見てはいなかった。
頭上に広がる空の広さに私は言い知れぬ不安と己の弱さと儚さに涙を流した。




流れる涙も治まった頃、私は宛てもなく建物と建物の間に挟まれた小さ道を歩いていた。

「少し、無理をしすぎたみたい。」

誰へともなく呟いた。
少し熱っぽい。急激に激しい運動をしすぎたせいか、その反動が今現れたのだ。
覚束無い足取りで歩いていると人にぶつかった。

「、ごめんなさい。」

とても背の高い男だった。
見上げると恐ろしく容姿の整った顔であることがわかった。

「君、少し聞きたいことがある。」

私の謝罪を受け流すと男は酷く甘美な声でそう言った。
道にでも迷ったのだろうか?
私はこの街の地理については全く知らないので力になどなれない。

「ごめん、なさい。私ここら辺の地理については、」
そう言おうとすると全身の力が抜け倒れる。
私はそのまま意識を手放した。








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