青いベンチ
次の日の朝、私は買い物の為にテレンスさんの許に向かった。
ブランドーさんが話を通しておいてくれてるらしいので、私は少し早めに朝食をとって準備をしていたのだ。
彼とは玄関で落ち合うことになっている。広い屋敷を未だに道に迷いそうになる私は、大分不安になりながらもなんとか玄関に辿り着くことが出来た。
玄関には何故か不機嫌そうな顔のヴァニラがスーツ姿で立っていた。
「お早う、テレンスさんは?」
「急用で行けなくなったから私が来た。」
ヴァニラは手短に説明すると私に行くぞ、と促すと外に出た。
街は強い日差しが降り注いで遠く彼方に蜃気楼が見えた。
「ところで、貴方いつも着てるブル、…服はどうしたの?」
「あれはレオタードだ。テレンスに目立つから着替えろと言われた。」
「…そうなんだ。」
「行くぞ。私もそれほど暇じゃない。」
「うん。」
街にはいろんなものがあった。ショッピングなんてしたことがないから自然と足が軽くなる。
「ねぇ、ヴァニラあれは何て言うの?」
ヴァニラの腕を引きながら興奮気味に尋ねると迷惑そうな顔をしながらもちゃんと質問に答えてくれる。
一通り買い物をしたあと私はヴァニラに無理矢理アイスを買わせて食べた。
ヴァニラにも勧めたけど彼は甘いものを好かないらしく拒否された。
照り付ける太陽に当てられて少し気分が悪くなる。
自分が病人だと言うことをすっかり忘れていたのだ。
「おい。そこに座るぞ。」
暫く無言だったヴァニラが私の手を取り公園の日影へ連れていく。
昼間の公園は平日だからか人が少なく青いベンチにはヴァニラと私だけしか居なかった。
「気分が悪いなら、早く言え。」
「ご免なさい。楽しかったからついはしゃぎすぎちゃったの。」
冷たい瞳が私を射止めた。その瞳には少しの嫉妬と限り無い虚無が広がっている。
きっと彼は私がブランドーさんと毎晩語り明かすのをよく思っていない。
「『調子に乗るなよ。お前はあの方の暇潰しの道具でしかないんだ。』って言いたいんでしょう?」
図星だったのかヴァニラは目を丸くして私を凝視した。
「私人の目でその人がどんなこと考えてるか解るの。」
ヴァニラは悪びれもするわけでもなく平静に戻った。彼にとっては私がなにをどう思おうがどうでも良いのだ。
私は深く溜め息を吐いた。
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