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「悪いな……風邪、引いちまったみてえだ」

まだ熱を帯びた身体をいそいそと起こすと横になっててください、そう制される。程なくして近くにいい香りが漂い始めた。

「おかゆ!作ったので食べてください!」
「ああ……」

風邪を引いていると言うのに女という生き物は平気で側に寄ってくるんだな、そう思ったが、せっかくの気持ちに感謝しながらおかゆを頬張った。期待はしていなかった分、自分の口に合ったことで、自然と顔がほころぶ。

「よかった……、お口にあって……」

えへへ、と微笑むかなこはまるで太陽のようで。そんなクサい台詞を思い浮かぶ時点でいよいよヤバいんだなと自覚しつつも、幸せだと思う気持ちは止まらない……が。

「ありがとよ、かなこ。薬飲んで横になるからよ、おまえはもう帰れ」
「……えー、まだ来たばっかりじゃないですかぁ」

大方予想通りの答えだが、まさか風邪を移すわけにもいかない。それこそかなこの母親の言う“変な真似”な気がしないか。

「おまえに風邪移したくねえんだ、わかれよ、な?またすぐ会えっから」

鋭い眼光で睨んでもぶんぶんと首を横に振るばかり。こいつのド根性は大したもんだと感心しつつも、心を鬼にしなければならない。

「じゃあ、早くグズマさん寝てください!ちゃんと寝たらあたし、帰りますから!」

……。そう来たか、グズマは思った。まさか二度も寝顔を見られることになるとはなぁ、などと考えていても仕方のないことで。夜になるにつれ次第に身体の熱に犯されはじめ、考えを巡らせてる余裕がなくなってきた。

「そうかよ。……なら、こっち来いや」
「え……?」

今度はかなこがグズマを睨む番だった。確かに恋人っぽいことがしたい…だが、風邪を引いているグズマに無理をさせたくないし、元気な時にすればいいことだと思う。病人が騒ぐな、とまでは言えないが、そんな気持ち。

「ほら、早くしろや。そしたら、大人しく寝てやるよ」
「………」

本人たちが自覚していないだけで、言い出したらきかないところは二人似ている。観念するとそろりとベッドに腰かけた。


bkm
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