「…かなこ…」
恐らく風邪ですね、サラリと言われる。それも…、そうだよな…。あんな格好のまま、彼女を連れ回してしまったんだ…ボクのせいである事は明らかだ。目を閉じたままの彼女の手をぎゅっと握る。早く目覚めてくれ……それを願うばかりだった。
「ん…」
…!!目覚めた…!!
「ダイゴ…さん…?」
かなこちゃんは手が握られている事に気づくと、すいません…と眉をひそめた。
「良かった…すまない、ボクのせいで…」
「ううん…私が早く…言ってればよかったんです…何となく体調がおかしいって…」
「…きみのせいじゃないよ。ボクが…無理させたんだ…」
なおもぎゅっと手を握ると、答えるように握り返してきた。
「…良かった…」
安心したら…何でだろう、力が抜けてしまったんだ。気づいたら、ボクは夢の中にいたようだ。
ダイゴさんが眠ってしまって少ししたら、ナースさんがやってきた。ただの風邪…と診断されて、今日はここに泊まりなさい、そう言われた。
「薬も出しておくわね。…ねえ」
少し緩んだ顔をしたナースさん。…ダイゴさんの事かな?
「…何、でしょうか」
「…この人、ホウエン地方のチャンピオンのダイゴさんよね…?」
「は、はあ…」
やっぱり…!!こんな離れたところにもファンがいるなんて…。でも次の瞬間…驚くべき言葉を発した。
「…貴女の事、よっぽど大切なのね!」
「…え!?」
思わず大きな声を出してしまって慌てて口を押さえた。てっきり…、ファンなの、って言うと思ったのに。
「…そうでしょ?だってこの人、貴女を抱きかかえたまま急患ですって叫んで、もう…、ただの風邪なのに大袈裟じゃない?…ねえ?」
「…」
え…?もう慌てちゃってー!とひとりで盛り上がってる。こっちはもう…恥ずかしくてしょうがないのに…!!
「でも安心してね!服を着替えさせたの、私だから」
…!!ふふふ、とか言って笑ってる。完全にからかわれてる…。しかしそんな雰囲気にも関わらず、隣で私の手を握っている人…ダイゴさんは眠っている。それを見て、何だか温かい気持ちになると、いつしか私も眠ってしまっていた。