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「わ……!」

ネズさんの周辺を嗅ぎ回っていた人たちから逃げていた時はまるで気づかなかったけど、ネオン街の中でも控えめで、素敵なエリアが目の前に広がっていた。デートと言われて一瞬ドキッとしたけど、こないだの居酒屋のように入りやすい場所へ促されたら、緊張なんてどこかへ行ってしまう。

「……一人で来るのはおすすめしませんが」
「はい……」
「どうです?スパイクタウンも悪くはないでしょう?」

ニヤッと、でもにっこりと笑うネズさんは心からこの街が好きなんだと思う。ダイマックスがなくても十分魅力的で、さらに自分のライブが外部からここを訪れるきっかけになればいいなって思ってる…、面倒だのなんだの理由はつけてるけど本心では熱い人。……でもたぶん、孤独な人なんだと思う。いつも心のどこかでは不安を抱えてる…そんな気がしてならない。あたしじゃその寂しさを埋められないんだなって思うと、胸は痛むばかりだ。

「酒は勧められませんが、これならきみも満足でしょう」
「これは……?」
「ノンアルコールカクテルです、おれなりの防衛成功おめでとう、ですかね」

……やっぱり優しい。それは、あたしがそう思いたいだけかもしれないけど。やたらと頬に熱が集まるのは、全部全部あなたのせい。…この笑顔があたしだけのものになればいいのに。

「……ネズさんの隣に並ぶ人が、うらやましい」

今思えば、どうしてこんな本音を呟いてしまったんだろう。聞こえるか聞こえないかの小さな声だったからたぶん、ネズさんの耳には届いてないけど。…その証拠に、何も返答なかったし。

「……送りますよ、かなこ」

お言葉に甘えて、列車に乗り込んでブラッシータウンまで二人旅。駅に着くなりやっぱり田舎ですね、なんて言うから軽く腕を叩いてやった。きみの家の前まで行きます、当たり前のようにそう言われたけど…、こんなところ見られたら近所の人に何言われるか。だってまるで釣り合わないでしょ?あたしとネズさんじゃ。

「まどろみの森にでも行きますか?」
「………えっ?」

家に近づくにつれて早まる鼓動。決して並んで歩いてるわけじゃないけど…、この時間の静けさがあたしたちの存在を際立たせる。そんなことをぼんやりと考えていたら提案されたそれは、肝試しにでも誘うつもりなの?それとも、あくタイプらしく、意地悪したいだけ…?

「それとも、酔わせちまいますか」

…なに、まさかまたあのグダグダな感じを見たいってことなの?天才なんて自分で言うほどでもないって思ってたけど、こゆとこで発揮するなんてさすがだ。半ば呆れるように溜息をつくと、ちゃんと家の前でお別れしようとしてくれた。

「おやすみ、かなこ。よい夢を」
「おやすみなさい。あと、ありがとうございました、送ってくれて」
「おれは男だから当然です。また誘いますよ」

ひらひらと手を振りながら去っていく背中はどこか嬉しそうな気もして、自然と頬が緩む。ほら、やっぱりネズさんに下心なんてないでしょ?キバナさんの思い過ごしだよ。幸せに浸りながら、この日1日を終えた。


bkm
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