風の季節
5月、今の時期は気温もちょうどよく好きな月の1つだった。窓を開けると風が吹いて心地好い。
ーーーー放課後になり、誰もいなくなった教室でそう思った。
目を瞑ろうとするとガラリと教室のドアが開く音がする。
「なんや、まだ終わっとらんかったんかいな」
入ってきたのは部活中であるはずの忍足。カツカツと足音をさせ、俺の近くにまで来る。
氷帝テニス部のジャージ、肩に掛かったタオル。少し火照っている身体。さっきまで真面目にテニスをしていたということは一目瞭然だった。
「てめぇ…部活サボって何やってんだ」
さっさと戻れ、そういう意味も含めて言うと忍足は苦笑いをし、俺の前の席に座った。
「課題に手間取っとる部長さんの様子を休憩がてら見に来ただけやん。ちょっとだけ、な?」
「ちっ…しょうがねぇな」
今ここで部活をしていない自分が強く言える立場でもないので今日のところは見逃しておく。
ため息を吐き、もう一度窓の外を見る。既に集中力が切れ、やる気を失っている跡部を珍しく思いながらも、適当に済まそうとしないところが跡部らしいと忍足は心の中で呟いた。
跡部が今の今まで、こんな教室で何をしているのかというと今日、道徳の時間が久々に行われ、全員提出の紙を跡部は書けずにいるからだ。
確かに道徳の時は常識というものがない跡部にはしっかりと受けて貰いたい授業だとは思ったが、まさかここまで悩むとは思わなかった。
お題は『好きな場所』
癒される場所、心地好い場所、和む場所、疲れが取れる場所、そんな所を沢山でなくてもいいから作ると良いですよという、簡単に言えばそんな内容の話だった。
それでプリントの一番始めに書いてあった言葉がーーーー
「『あなたの好きな場所、お気に入りの場所を書きなさい。』…適当に書いとけばええやん。はよせんと部活終わるで」
他は全て埋めている(しかも長文)にも関わらず、そこだけが空欄で何も書いていない。消したような痕もないので本当に思い浮かばなかったのだろうか。
「こんなん、真面目に書いとる奴の方が珍しいで。自分の部屋とか、風呂とか、そんな感じで書いたらあかんの?」
「……なんかしっくりこねぇんだよ。適当に終わらすなんて俺様がんなこと出来るわけねえだろ」
「跡部さまだから?」
「生徒会長だからだ。全校生徒の手本にならねえとな」
全校生徒がお前みたいな奴やったら嫌やな。そう思った言葉は口には出さずに終った。出したところで睨まれるだけだろう。
「ほな、彼氏んとこ……とかはどうなん?」
そこでようやく窓を見ていた跡部と目があったと思うと足を蹴られた。
「いったぁ〜…何すんのや」
「てめぇが下らねぇこと言うからだろうが!」
「うわ、下らんとか。アイツが聞いたら悲しむで」
「うるせぇ!」
「…口が悪い姫さんや…っ!!」
そう言い終わるとまた足が飛んできた。まったく同じところを狙う辺りが本当に性格が悪い。
…まぁ、顔を真っ赤にしているしただ単に恥ずかしいだけだろう。
「(確かにホンマに書いたらサムイわな。正直引くわ。)」
自分で言っておいて何だがそんなことを思う。
…それにしても困った。
俺がここに来たのは、からかいもあるが一番は早く部長の仕事をしてもらいたかったからだ。
跡部のいない今、3年のレギュラー達でカバーをしているが、やはりどこか士気が上がらないとこがあった。それだけ跡部の存在感が凄いってことだが、引退したときを考えると不安だ。
「…………」
何を思ったのか、跡部は急にペンを走らせ字を書いていく。書き終わると同時に席を立ち、教室のドアの方に歩き出した。
「…何て書いたん」
「ほらよ」
意外と素直に紙を渡してくれ、難無く紙に書かれた内容を見ることができた。
そこに書かれていた内容は…
「……………えー」
「…何だよ、何か文句でもあるってんのか。アーン?」
「…いや、別にあらへんけど」
「ならいいじゃねえか」
「……何でここなん」
「…風が気持ち良かったから」
『好きな場所』
今の席
相変わらず綺麗な字でそう書いてあった。隣の席の子が見たら勘違いしそうな内容で、俺の予想のはるか上に行く跡部は今更ながらに流石だと思う。
正直、そこ以外に一番大切な場所があるはずなのだが、ようやくテニスが出来ると張り切っている跡部を見てまぁいいかと俺もその後ろをついて歩いた。
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最近暑くなって思い付いたネタ
道徳の授業とか懐かしい
攻めは特に決めてません
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