第二章
・俊祐宅
恵 「ねぇ先生。入れられるのってどんな感じー?」
恵、ソファに寝そべっている
その向かいに座っている渚
渚 「はぁ!?」
恵 「先生ネコでしょ?どんな感じ?」
渚 「ど、どんなって…っ」
渚、困っていると俊祐が買い物袋を持って帰ってくる
俊祐 「なに、どうしたの」
恵 「入れられる側の感想を聞いてんの」
渚、俊祐に助けを求める視線を送る
俊祐 「お前そこまでそいつのこと好きなの?」
俊祐、ソファに座って煙草に火をつける
恵 「好きだよ。ほら、見て」
恵、指輪を見せる
渚 「……」
俊祐 「物に釣られたか」
笑う俊祐
恵 「違ぇよ。俺ホントにあの人のこと好きだよ。あの人だったらいいと思う。セックスなしでも一緒にいるだけで楽しいし、そういうのが普通なんじゃないの?」
恵、ソファに寝転びながら左手を見ている
俊祐 「お前がいいんだったらそれでいいんじゃねぇの」
渚 「……」
・実家
リビングに入る恵
母 「あら、お帰りなさい」
恵 「ただいま」
母 「丁度いいとこに来たわ。これ春くんに渡してきてくれない?」
タッパーに入った煮物を出す
恵 「えぇ?何で俺が」
母 「いいじゃない、家近いんだから」
恵 「……」
母 「何か用事でもあるの?」
恵 「別に」
母 「だったらお願い。ね?」
恵 「分かった」
恵、タッパーを取るとリビングの壁に飾ってある写真を見る
恵 「母さん、あれ外せって言っただろ!?いつんなったら外すんだよッ!」
母 「あら、いいじゃない。滅多に帰って来ないだから」
恵 「そういう問題じゃねぇ!絶対外せよ!」
恵、リビングを出て行こうとする
母 「恵。何か用事があったんじゃないの?」
恵 「別に。顔見に来ただけ」
母 「そう」
母、微笑む
・街
歩きながら携帯を取り出して電話をかける
恵 「もしもし?」
春 『恵ちゃん?どうしたの?』
恵 「母さんが煮物持ってけって。今家?」
春 『そう。今ちょっと出先なんだ。でももう帰るから家入ってて』
恵 「あー、分かった。ちーは?」
春 『まだ幼稚園』
恵 「なら俺迎えに行くわ。あぁ、うん。じゃあ」
電話を切って歩いていく
・街
幼稚園から出てくる恵と千尋
手を繋いで歩く
千尋 「ねぇ、恵ちゃん。今日はご飯一緒?」
恵 「え?」
千尋 「恵ちゃんいっつも今度ばっかりなんだもんー。三人でご飯食べようよ」
恵 「あー、うん…」
千尋 「今日はお仕事ある日ー?」
恵 「……ううん。ないよ」
千尋 「だったら今日はダメ?」
恵 「……」
千尋 「恵ちゃん?」
恵 「うん。分かった。一緒に食べよっか」
恵、微笑む
千尋喜ぶ
千尋 「わーい」
恵 「……」
恵、左手を握る
千尋 「あー!たぬきさんだー」
千尋、手を離して走っていく
恵 「狸!?っておいちー、一人で行くな!」
千尋、戻って来て恵の左手を引っ張る
千尋 「あそこ!たぬきさーん」
千尋の指差す方を見ると塀の上にフサフサの猫がいる
恵 「ちー、あれは猫だ」
笑う恵
千尋、恵の左手を見ている
恵 「?」
千尋 「恵ちゃん。これパパに貰ったの?」
千尋、恵を見上げる
恵 「え?」
千尋 「これ、パパに貰ったの?」
千尋、指輪に触れる
恵 「…ううん。違う人」
千尋 「ダメだよ。ここは特別の指なんだよ?好きな人に貰った物しか付けちゃダメなの」
恵 「うん。好きな人に貰ったんだよ」
千尋 「え?」
千尋、不安気に恵を見る
千尋 「違うでしょ?恵ちゃんの好きな人はパパだもん。パパに貰った物しか付けちゃダメ」
恵 「……ちー」
恵、千尋の目線にしゃがむ
恵 「俺春のこと好きだけど、そういう好きじゃないんだ」
千尋、首を振る
千尋 「違うもん。恵ちゃんはパパのこと好きだよ」
恵 「ちー。俺には別の恋人がいるんだ」
千尋、涙目になる
千尋 「いないよ。そんなの違うもん。恵ちゃんはパパのこと好きなんだもん」
恵 「ちー…」
千尋 「じゃあパパは一人ぼっちになっちゃうよ」
千尋、零れる涙を両手で拭く
恵 「ちー、泣くなよ。一人ぼっちなんかじゃないだろ?ちーだっているし、ママがいるじゃん」
恵、千尋の頭を撫でる
千尋 「違うもん。パパは恵ちゃんのことが好きなんだよ」
恵 「え…?」
千尋 「ずっとずっと、恵ちゃんが好きだったんだもん」
千尋、声を上げて泣き始める
恵 「ちー…」
千尋、恵に抱きつく
恵、千尋を抱き上げると歩き出す
恵 「……」
・春宅前
家の前に春がいる
恵に抱かれたまま眠っている千尋
春 「おかえり。寝ちゃったの?」
恵 「うん…」
春、千尋の顔を見て頬に伝う涙跡に触れる
春 「何かあった?」
恵 「ごめん。俺が泣かせた…」
春 「喧嘩でもしたー?」
笑う春
玄関のドアを開ける
恵 「…うん。狸か猫かで…」
春 「狸か猫?なーにそれ?」
笑う春
・リビング
ソファに座っている恵
寝室から春が出てくる
俯いている恵
恵 「俺今日飯食っていい?」
春 「え?うん。いいよ」
驚く春
恵 「ちーと約束したんだ。起きて俺いなかったら約束破っちゃうじゃん。ちーに嫌われたくないしさ」
春 「嫌わないよ。丁度良かった。今日はお鍋にしようと思ってたんだ」
春、キッチンへ行く
・キッチン
冷蔵庫を開けている春
そこへ恵が来る
恵 「俺も手伝うよ」
春 「そう?恵ちゃん料理上手いから助かるなー」
微笑む春
恵、袖をまくって手を洗う
隣に立つ春
左手の指輪に気がつく
春 「それ……」
恵 「え?あ、あぁ…。こんなのつけて料理しちゃダメだよな」
恵、笑いながら指輪を外してポケットに入れる
春 「……」
恵 「ほら、鍋だろ?何すんの?」
恵、笑う
・リビング
テーブルの上には食事の用意が出来ている
ソファに座っている二人
何も話さず、時計の音だけが響いている
春 「どうしたの?その指輪」
恵 「え…?」
春 「貰ったの?」
恵 「……うん」
春 「そう」
恵 「お、俺好きな人できたんだ。付き合ってんの。その人と」
恵、笑う
春 「……」
恵 「今度紹介するよ。すげぇいい人だか──」
春、恵の左手を引き寄せてキスをする
恵 「っ─!何すっ…ん……んっ!」
春、恵を抱きしめる
春 「他の人のものになんかならないで」
恵 「何言って──」
春 「君が好きだ」
恵 「っ!」
恵、春を突き飛ばす
恵 「今更何言ってんだよ…最低だ」
恵、出て行こうとする
春 「恵ちゃん─」
その左手を掴もうとするが届かない
家を飛び出していく恵
春、その場で俯く
絨毯の上に落ちている指輪を見つける
拾い上げて玄関の方を見る
春 「……」
指輪を握り締める春
・街
夜の道を歩いている恵
泣いている
恵 「っ……ぅ……ぅぅ…」
春 『君が好きだ』
恵M 「なんであんなこと言えるんだよ……どうして春があんなこと言うんだ──…」
恵M 「俺の嘘の意味ってなんだったんだ──」
左手で涙を擦る
指に違和感を感じる
恵 「っ…!指輪……」
恵、来た道を振り返る
・自宅
ベッドに寝そべっている恵
棚の上に置いてあるシルバーのピルケース
恵M 「きっと忘れてきたんだ。でも取りに戻るなんかできるわけないだろ。どんな顔して会えばいいんだよ」
ピルケースを見る恵
恵 「……」
千尋 『ねぇ、恵ちゃん。今日はご飯一緒?』
千尋 『わーい』
恵M 「ちー…。ごめん。もう約束守れない」
・春宅
ソファに座って頭を抱えている春
物音がする
春 「……ちー」
千尋、眠い目を擦って出てくる
千尋 「パパ?泣いてるの?」
千尋、春の傍に駆け寄る
春 「ううん。泣いてないよ」
春、微笑む
千尋、春に抱きつく
千尋 「恵ちゃんは?」
春 「ごめんねちー。恵ちゃん怒らせちゃった」
千尋 「ご飯一緒じゃないの…?」
春 「…うん。ごめんね。でも──」
千尋 「パパのせいじゃないよ。僕のせい。パパごめんね」
千尋、胸に顔を埋めて泣いている
春 「え?」
千尋 「僕が言っちゃったの」
千尋、春から離れて涙を拭きながら話す
千尋 「パパが恵ちゃんのこと好きなの、恵ちゃんに言ったの。ごめんなさい」
春 「ちー…」
春、千尋の頭を撫でる
千尋 「だって恵ちゃんもパパのこと好きだもん。それなのに違うって言うの」
春 「そっか」
千尋 「パパ恵ちゃんのこと嫌いにならないで。僕、恵ちゃんに謝るから」
春 「ちー。さっきね、恵ちゃんに好きって言っちゃった」
微笑む春
千尋 「え?」
春 「パパ振られちゃった」
春、千尋を抱き寄せる
千尋 「嘘だ」
春 「ううん。ほんと。でもねちー。僕恵ちゃんのこと嫌いになんかなれないんだ。小さい頃からずっと好きだったから。恵ちゃんがパパのこと嫌いだって言っても、僕は嫌いになんかなれないんだ」
千尋 「パパ恵ちゃんのこと捕まえにいってよ」
春 「……」
ぎゅっと抱きしめる
千尋 「パパ」
・俊祐宅
ドアを開けると恵が立っている
俊祐の後ろに渚がいる
恵 「あ、先生もいたんだ…ごめん。邪魔しちゃ悪いから今度でいいわ」
恵、去っていこうとするが俊祐腕を取る
俊祐 「入れよ」
恵 「……」
俊祐 「今更俺に遠慮とかすんな。気持ち悪ぃ」
恵 「……ごめん」
・リビング
ソファに座っている三人
恵 「春に好きって言われた」
渚 「え?」
俊祐 「……」
俊祐、煙草をふかす
俊祐 「で?俺もだよって?よかったじゃん。おめでとう」
渚 「俊祐」
渚、俊祐を睨む
恵 「俺はもう春のこと好きじゃねぇんだ。そんなことあるわけないだろ」
俊祐 「だったらなんだよ。断ってざまあみろって?」
恵 「違う」
恵、頭を抱える
俊祐 「何がそんなに悲しいんだよ?相模さんとよろしくやってんだろ?そこで永久に告られて気持ちでも揺らいだ?」
恵 「違うッ!」
渚 「俊祐。なぁ加々見。君は本当にその相模さんって人が好きなのか?」
恵 「うん」
俊祐、鼻で笑う
恵 「なんだよッ!?何が言いたいんだ!」
俊祐 「それはこっちの台詞だ。お前の気持ちってなんなんだよ」
恵 「俺はただ普通に人を好きになりたいだけだ。俺はもう春のことなんか好きじゃないし、あいつのことなんか今更なんだよ」
俊祐 「じゃあどうしてそんな顔して悩んでんだ?どうでもいいなら笑って済ませりゃいい話だろ」
恵 「だってあいつは姉ちゃんと……」
俊祐、ため息をつく
俊祐 「そんなことだろうと思った。お前は結局未だに姉ちゃんに囚われてるだけだろ。何が嘘を本当に変えただ。お前はまだ永久のこと好きなんだよ。姉ちゃんから逃げて、永久からも逃げて。そこで手差し出してきた相模さんに逃げ込んでるだけだ」
恵 「違う。俺はもうあいつのこと好きじゃないッ!」
俊祐 「だったらなんなんだよ!永久はこれから一生お前の姉ちゃん以外の人と、一緒になっちゃいけないって言うのか!?」
恵 「そうじゃない…」
恵、涙を流す
渚 「……加々見。誰かを好きになることを、君が一番分かってるんじゃないのか?」
恵 「え…?」
渚 「君はずっと、永久のこと好きだったんじゃないか。小さい頃からずっと、君は恋をしていたんだ。会えて嬉しいとか、声を聞けるだけで嬉しいとか、そういうのを傍にいたから気づかなかっただけで、君はその喜びを知ってたはずだ」
恵 「……」
渚 「それは今感じているものと同じなのか?相模さんにも同じように思えているのか?君を見てるとただ素直になれていない様にしか見えないよ。恋に恋して自分を見失ってるんじゃないのか?」
恵 「違う…俺はただ……」
渚 「もう嘘を吐く必要なんかないんだ。お姉さんはもういないんだから」
恵 「いるよ…」
渚 「え…?」
恵 「姉ちゃんはずっといるんだよ。消えることなんかないんだ。この先一生。何があっても」
・街(回想)
学校の帰り道、前を歩いている春を見つける恵
恵 「あっ、春!」
駆け寄る
春 「恵ちゃん。帰り?」
恵 「うん!春も?」
春 「うん。一緒に帰ろうか」
恵 「うん!」
恵、笑っている
・実家(回想)
恵と春、床に座って絵を描いている
そこへ美紀が来る
美紀 「けーいちゃん。私もお絵かき見せて?」
恵 「えー、だーめ」
美紀 「どうしてー?」
恵 「俺の描いてる姿は見せられないから」
美紀 「もーう。いいじゃない」
剥れる美紀
恵 「また今度ね」
・俊祐宅
恵 「会える喜びも、嫉妬することも知ってる。俺は春が好きだったよ。でももう本当に今更なんだ。姉ちゃんが春の中からいなくなることなんか絶対にないんだから。あいつが俺のこと好きだって言っても、それは絶対に変わらないんだ」
俊祐 「よく分かってんじゃねぇか」
恵 「分かってるよ。分かってるからこそ今更だって言ってんだ」
俊祐 「言ってろよ」
俊祐、呆れて煙草を消す
恵 「逃げてるって言われようが、俺はもう春の元に行くつもりはない…」
渚 「加々見……」
・暁宅
窓辺に座って外を見ている恵
雨が降っている
暁 「指輪のこと、そんなに気にしないでいいんだよ?」
暁、コーヒーを持ってくる
恵に渡す
恵 「……うん」
暁 「それにしても君が料理好きだとは思わなかったな」
恵 「そう?」
暁 「今度僕にも何か作ってよ」
恵 「うん。いいよ」
恵、カップを持っているだけで口をつけない
暁 「……」
暁、窓辺にカップを置くと恵の顎を引いてキスをする
恵 「…んっ……」
暁 「指輪のことだけじゃないみたいだね」
恵 「……」
暁 「悩みがあるんなら聞くっていっただろ?それとも僕には言えないこと?」
恵、首を振る
恵 「ちーとの約束破っちゃったんだ」
暁 「約束?」
恵 「うん。一緒にご飯食べようっていっつも言ってくれてたのに、食べるって言って結局食べなかった」
暁 「また次の機会に食べればいいじゃないか」
恵 「ううん。もう無理なんだ。きっとちーは俺のこと嫌いになったと思うから」
暁 「喧嘩でもしたのか?」
恵 「…狸と猫かで……」
暁 「狸と猫?」
恵 「……」
恵、外を見ている
暁 「恵──」
恵、暁の言葉を遮るように暁の手を引きキスをする
恵 「ねぇ、暁さん。抱いて?」
暁 「恵……」
恵 「お願い…」
暁を見つめる恵
外は雨が降っている
・寝室
ベッドの上で裸で座っている恵
暁、部屋に入ってくると電気を消す
外の明かりが窓の雫を部屋の中に映す
暁、ベッドに上がると恵にキスをする
恵 「…っ…ん…」
キスをしながら押し倒す
首筋にキスをし、だんだんと下へ向かう暁
恵 「っ……ぁ…」
恵、快感に表情を歪ませながら天井を見ている
・街(回想)
春 「ずっとずっと僕が傍にいるよ。だから恵ちゃん寂しくないよ」
・バー(回想)
春 「そっか」
・春実家(回想)
春 「左手は結婚するときね」
・春宅(回想)
春 「恵ちゃん紅茶でいいー?」
・実家玄関前(回想)
春 「まだ持っててくれたんだ」
・路地(回想)
春 「約束したでしょう。僕が君の傍にずっといるって。一人になんかさせないって」
・手術室前(回想)
春 「愛してるよ」
・春宅(回想)
春 「どうして起こすの?」
・キッチン(回想)
春 「それ……」
・リビング(回想)
春 「他の人のものになんかならないで」
・寝室
春 『君が好きだ』
暁 「……恵」
暁、恵の方を見る
暁 「そんなに約束守れなかったことが悲しい?」
恵、泣いている
恵 「っ…ぅっ……」
暁、恵の涙を拭いてやる
暁 「焦ることないんだ」
恵 「ごめんなさい……」
暁 「謝らないでくれ」
恵 「ごめんなさい…」
暁、恵にキスをする
暁 「君が僕のことをまだ好きでいてくれると信じているよ」
・街
夜の道を一人、傘を差しながら歩いている恵
俊祐 『何が嘘を本当に変えただ。お前はまだ永久のこと好きなんだよ』
渚 『君はずっと、永久のこと好きだったんじゃないか』
恵 「……」
恵M 「結局俺はどうしたいんだ。暁さんとなにも出来ずに、あの人傷つけて。でも春のところになんか絶対行けない。それなのに、どうして浮かんでくるのは春のことばっかりなんだ」
家の前に誰かがいる
恵 「……」
雨に濡れている春
恵に気がつく
春 「恵ちゃん…」
恵 「何してんだよ……」
春、何も言わずに恵に駆け寄り抱きしめる
恵 「っ……」
春 「どこ行ってたの」
恵 「……どこだっていいだろ…」
春 「恵ちゃん愛してる」
恵 「っ──」
春 「君が誰かのものになるだなんて耐えられない。僕を嫌いだって言っても君を手放すことなんかできないんだ」
恵、涙を流す
春 「僕を嫌いでもいい。お願いだから誰かのものになんかならないで」
恵 「……」
春 「僕の傍にいて」
恵 「なんで…なんでそんな勝手なこと言えんだよ…」
春 「君が好きだから」
恵 「俺だってあんたのこと好きだった。でもあんたが俺のこと手放したんじゃねぇか。俺の傍から離れて、姉ちゃんのとこ行ったのは誰だよ!」
春 「僕だ…」
恵 「なんで…最初から俺のこと好きでいてくれなかったんだ……」
春 「ごめん…」
恵 「春…」
恵、春から離れて頬に触れる
春、恵にキスをする
恵 「…んっ……っ…」
春、雨に濡れた恵の髪を撫でると首筋にあるキスマークに気がつく
春 「……」
春、突然恵の手を取ると何も言わずに手を引いていく
恵 「春…?」
・自宅
二人とも濡れたまま家に入る
相変わらず何も言わないまま手を引いていく春
ベッドに恵を突き飛ばす
恵 「っ!」
春、恵に深くキスをする
恵 「っ…ん……は、る……ん」
恵、それを受け入れて首に手を回す
春、恵の服を捲り上げ体中にキスを落とす
恵 「んっ……」
快感に顔を背ける
目に入る棚の上のピルケース
恵 「っ!」
恵、咄嗟に春を見ると春と目が合う
恵 「嫌だ……」
春 「恵ちゃん…?」
恵 「嫌だッ!」
恵、春を突き飛ばすと家を飛び出す
春 「恵ちゃんッ!」
・街
雨の降る中を走っていく恵
恵M 「俺は姉ちゃんじゃない──」
しばらくするとゆっくり立ち止まる
恵M 「消えることなんかないんだ」
・繁華街
雨上がりの街
俊祐と渚が歩いている
渚 「いなくなるなんか絶対にない、か……」
俊祐 「え?」
渚 「加々見が言ってたことだよ」
俊祐 「あぁ…」
渚 「どうしてあの時あんなに突き放すような言い方したんだ?この間は応援するって言ってたのに」
俊祐 「幸せならな」
渚 「だったら…」
俊祐 「だってあいつ幸せな顔してねぇじゃん。嘘でも好きな人出来たって言って、それでそのまま幸せなら何にも言わなかったよ。でももう顔に出てんじゃん。永久のこと好きだって」
渚 「……」
俊祐 「あいつ素直じゃねぇし、自分が一番じゃなきゃすぐ拗ねるし。強がってるけど傷つくことから逃げ回ってる馬鹿なんだよ。昔から。今までどうでもいい奴らとやりまくってたこともそう。永久への当て付けだろ?」
渚 「……」
俊祐 「でも今回のはもうどうしようもない。死んだ人を怖がって逃げて。俺があいつに何言ったって、もうはいそうですかじゃすまないんだよ。あいつが自分でなんとかしないと。俺に逃げてきたって今回はもう何も言えない。助けてやれないんだ」
渚 「…君は加々見のこと本当によく分かってるんだな」
俊祐、渚を見て少し笑い、鼻でため息をつく
俊祐 「なに、やきもちでも妬いてくれてんの?」
渚 「え?あ、いや…」
俊祐 「ふっ、俺とあいつはただの親友だ。もう昔から」
渚 「……」
俊祐 「馬鹿なのは永久もそうなんだよ。あいつ昔──」
俊祐、突き当たりの路地を見ながら言葉を止める
渚 「俊祐?」
俊祐、走っていく
俊祐 「恵!」
・路地
路地の隅に壁に寄りかかって座り込んでいる恵がいる
俊祐、恵を抱きかかえる
俊祐 「恵!しっかりしろ!何してんだこんなとこで!」
恵、ゆっくりと目を開けると俊祐を見て微笑む
恵 「ははっ、春かと思った」
俊祐 「……」
渚 「加々見」
恵 「あー、先生もいる…。また邪魔したな。ごめんな」
恵、相変わらず笑っている
俊祐 「アホか。お前凄い熱あるぞ。こんなびしょびしょで。とりあえず家に──」
恵、俊祐の服を掴む
恵 「嫌だ…。帰りたくない……」
恵、涙を流す
渚 「何かあったのか?」
恵 「帰れない…。春がいるから……」
恵、気を失う
渚 「加々見!?」
俊祐 「何があったかわかんねぇけど、とりあえず俺んち連れて行こう。先生鞄持って」
渚 「あぁ。分かった」
・俊祐宅
寝室のベッドに寝ている恵
渚 「病院に連れて行かないで大丈夫かな……」
俊祐 「とりあえず様子見よう」
渚 「それにしてもどうしてあんな…。永久と何が──」
恵 「…ん……」
恵、目を覚ます
渚 「加々見」
恵 「先生……。ここどこ…?」
渚 「俊祐の家だよ」
恵 「そっか……よかった…」
苦しげに微笑む恵
俊祐、ベッドに座る
俊祐 「恵。何があったんだ。永久と喧嘩でもしたのか?」
恵、目に涙を一杯溜めて首を振る
俊祐 「……」
俊祐、恵の髪を撫でる
恵 「あいつ…きっと俺が帰ってくるの待ってるから……」
恵、両腕で顔を隠して泣いている
恵 「もう俺…誰のとこにもいけないよ……」
俊祐 「…永久のことが好きか?」
恵 「うん…」
俊祐 「…なぁ、恵」
俊祐、恵の腕を取って目を見る
俊祐 「そろそろ素直になれよ。思ってること全部話してみろ。自分のことだけ考えればいい。お前もう十分我慢したよ。姉ちゃんのことも、全部あいつに話せ。それでちゃんと逃げずにあいつの話も聞いてみろ」
恵 「……」
俊祐 「お前の言うとおり、姉ちゃんがいなくなることなんかないよ。お前らが生きてる限りずっとどこかにいる。でもそれは仕方のないことだろ?恵も姉ちゃんのこと好きだったし、永久も好きだったんだ。そこから逃げることなんか絶対に出来ないんだ。乗り越えるしかねぇんだよ。最後にちょっと頑張ってみろ」
恵 「俊祐……」
俊祐 「お前にだったら出来るよ。俺が保証してやる。言っただろ?お前の我侭くらいいくらでも聞いてやるって。なんかあったら俺んとこ来い。お前を一人になんかさせねぇよ」
恵 「…ぅっ……な、んで……お前そんな……」
俊祐、笑う
俊祐 「親友だろ?」
恵 「ばーか……」
・リビング
渚 「……」
渚、一人テーブルの前に立っている
俊祐が寝室から出てきて渚を振り向かせキスをする
渚 「しゅん…すけ…?」
抱きしめる
俊祐 「勘違いすんな。俺が好きなのはあんただけだ」
渚 「……」
渚、涙を流す
俊祐 「泣くなよ」
渚 「でも…好きだったんだろ…?」
俊祐 「昔の話だ。あいつが好きになるのは今も昔も永久だけなんだよ」
渚 「……俊祐」
渚、俊祐を見上げる
渚 「愛してる。俺のことだけ見ててくれ。やきもちなんか妬かないから」
俊祐 「寂しいこと言うなよ。愛してるよ」
キスをする
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