第二章


・俊祐宅

恵  「ねぇ先生。入れられるのってどんな感じー?」

恵、ソファに寝そべっている
その向かいに座っている渚

渚  「はぁ!?」
恵  「先生ネコでしょ?どんな感じ?」
渚  「ど、どんなって…っ」

渚、困っていると俊祐が買い物袋を持って帰ってくる

俊祐 「なに、どうしたの」
恵  「入れられる側の感想を聞いてんの」

渚、俊祐に助けを求める視線を送る

俊祐 「お前そこまでそいつのこと好きなの?」

俊祐、ソファに座って煙草に火をつける

恵  「好きだよ。ほら、見て

恵、指輪を見せる

渚  「……」
俊祐 「物に釣られたか」

笑う俊祐

恵  「違ぇよ。俺ホントにあの人のこと好きだよ。あの人だったらいいと思う。セックスなしでも一緒にいるだけで楽しいし、そういうのが普通なんじゃないの?」

恵、ソファに寝転びながら左手を見ている

俊祐 「お前がいいんだったらそれでいいんじゃねぇの」
渚  「……」



・実家

リビングに入る恵

母  「あら、お帰りなさい」
恵  「ただいま」
母  「丁度いいとこに来たわ。これ春くんに渡してきてくれない?」

タッパーに入った煮物を出す

恵  「えぇ?何で俺が」
母  「いいじゃない、家近いんだから」
恵  「……」
母  「何か用事でもあるの?」
恵  「別に」
母  「だったらお願い。ね?」
恵  「分かった」

恵、タッパーを取るとリビングの壁に飾ってある写真を見る

恵  「母さん、あれ外せって言っただろ!?いつんなったら外すんだよッ!」
母  「あら、いいじゃない。滅多に帰って来ないだから」
恵  「そういう問題じゃねぇ!絶対外せよ!」

恵、リビングを出て行こうとする

母  「恵。何か用事があったんじゃないの?」
恵  「別に。顔見に来ただけ」
母  「そう」

母、微笑む



・街

歩きながら携帯を取り出して電話をかける

恵  「もしもし?」
春  『恵ちゃん?どうしたの?』
恵  「母さんが煮物持ってけって。今家?」
春  『そう。今ちょっと出先なんだ。でももう帰るから家入ってて』
恵  「あー、分かった。ちーは?」
春  『まだ幼稚園』
恵  「なら俺迎えに行くわ。あぁ、うん。じゃあ」

電話を切って歩いていく



・街

幼稚園から出てくる恵と千尋
手を繋いで歩く

千尋 「ねぇ、恵ちゃん。今日はご飯一緒?」
恵  「え?」
千尋 「恵ちゃんいっつも今度ばっかりなんだもんー。三人でご飯食べようよ」
恵  「あー、うん…」
千尋 「今日はお仕事ある日ー?」
恵  「……ううん。ないよ」
千尋 「だったら今日はダメ?」
恵  「……」
千尋 「恵ちゃん?」
恵  「うん。分かった。一緒に食べよっか」

恵、微笑む
千尋喜ぶ

千尋 「わーい
恵  「……」

恵、左手を握る

千尋 「あー!たぬきさんだー

千尋、手を離して走っていく

恵  「狸!?っておいちー、一人で行くな!」

千尋、戻って来て恵の左手を引っ張る

千尋 「あそこ!たぬきさーん

千尋の指差す方を見ると塀の上にフサフサの猫がいる

恵  「ちー、あれは猫だ」

笑う恵
千尋、恵の左手を見ている

恵  「?」
千尋 「恵ちゃん。これパパに貰ったの?」

千尋、恵を見上げる

恵  「え?」
千尋 「これ、パパに貰ったの?」

千尋、指輪に触れる

恵  「…ううん。違う人」
千尋 「ダメだよ。ここは特別の指なんだよ?好きな人に貰った物しか付けちゃダメなの」
恵  「うん。好きな人に貰ったんだよ」
千尋 「え?」

千尋、不安気に恵を見る

千尋 「違うでしょ?恵ちゃんの好きな人はパパだもん。パパに貰った物しか付けちゃダメ」
恵  「……ちー」

恵、千尋の目線にしゃがむ

恵  「俺春のこと好きだけど、そういう好きじゃないんだ」

千尋、首を振る

千尋 「違うもん。恵ちゃんはパパのこと好きだよ」
恵  「ちー。俺には別の恋人がいるんだ」

千尋、涙目になる

千尋 「いないよ。そんなの違うもん。恵ちゃんはパパのこと好きなんだもん」
恵  「ちー…」
千尋 「じゃあパパは一人ぼっちになっちゃうよ」

千尋、零れる涙を両手で拭く

恵  「ちー、泣くなよ。一人ぼっちなんかじゃないだろ?ちーだっているし、ママがいるじゃん」

恵、千尋の頭を撫でる

千尋 「違うもん。パパは恵ちゃんのことが好きなんだよ」
恵  「え…?」
千尋 「ずっとずっと、恵ちゃんが好きだったんだもん」

千尋、声を上げて泣き始める

恵  「ちー…」

千尋、恵に抱きつく
恵、千尋を抱き上げると歩き出す

恵  「……」



・春宅前

家の前に春がいる
恵に抱かれたまま眠っている千尋

春  「おかえり。寝ちゃったの?」
恵  「うん…」

春、千尋の顔を見て頬に伝う涙跡に触れる

春  「何かあった?」
恵  「ごめん。俺が泣かせた…」
春  「喧嘩でもしたー?」

笑う春
玄関のドアを開ける

恵  「…うん。狸か猫かで…」
春  「狸か猫?なーにそれ?」

笑う春



・リビング

ソファに座っている恵
寝室から春が出てくる
俯いている恵

恵  「俺今日飯食っていい?」
春  「え?うん。いいよ」

驚く春

恵  「ちーと約束したんだ。起きて俺いなかったら約束破っちゃうじゃん。ちーに嫌われたくないしさ」
春  「嫌わないよ。丁度良かった。今日はお鍋にしようと思ってたんだ」

春、キッチンへ行く



・キッチン

冷蔵庫を開けている春
そこへ恵が来る

恵  「俺も手伝うよ」
春  「そう?恵ちゃん料理上手いから助かるなー」

微笑む春
恵、袖をまくって手を洗う
隣に立つ春
左手の指輪に気がつく

春  「それ……」
恵  「え?あ、あぁ…。こんなのつけて料理しちゃダメだよな」

恵、笑いながら指輪を外してポケットに入れる

春  「……」
恵  「ほら、鍋だろ?何すんの?」

恵、笑う



・リビング

テーブルの上には食事の用意が出来ている
ソファに座っている二人
何も話さず、時計の音だけが響いている

春  「どうしたの?その指輪」
恵  「え…?」
春  「貰ったの?」
恵  「……うん」
春  「そう」
恵  「お、俺好きな人できたんだ。付き合ってんの。その人と」

恵、笑う

春  「……」
恵  「今度紹介するよ。すげぇいい人だか──」

春、恵の左手を引き寄せてキスをする

恵  「っ─!何すっ…ん……んっ!」

春、恵を抱きしめる

春  「他の人のものになんかならないで」
恵  「何言って──」
春  「君が好きだ」
恵  「っ!」

恵、春を突き飛ばす

恵  「今更何言ってんだよ…最低だ」

恵、出て行こうとする

春  「恵ちゃん─」

その左手を掴もうとするが届かない
家を飛び出していく恵

春、その場で俯く
絨毯の上に落ちている指輪を見つける
拾い上げて玄関の方を見る

春  「……」

指輪を握り締める春



・街

夜の道を歩いている恵
泣いている

恵  「っ……ぅ……ぅぅ…」

春  『君が好きだ』

恵M 「なんであんなこと言えるんだよ……どうして春があんなこと言うんだ──…」

恵M 「俺の嘘の意味ってなんだったんだ──」

左手で涙を擦る
指に違和感を感じる

恵  「っ…!指輪……」

恵、来た道を振り返る



・自宅

ベッドに寝そべっている恵
棚の上に置いてあるシルバーのピルケース

恵M 「きっと忘れてきたんだ。でも取りに戻るなんかできるわけないだろ。どんな顔して会えばいいんだよ」

ピルケースを見る恵

恵  「……」

千尋 『ねぇ、恵ちゃん。今日はご飯一緒?』
千尋 『わーい

恵M 「ちー…。ごめん。もう約束守れない」



・春宅

ソファに座って頭を抱えている春
物音がする

春  「……ちー」

千尋、眠い目を擦って出てくる

千尋 「パパ?泣いてるの?」

千尋、春の傍に駆け寄る

春  「ううん。泣いてないよ」

春、微笑む
千尋、春に抱きつく

千尋 「恵ちゃんは?」
春  「ごめんねちー。恵ちゃん怒らせちゃった」
千尋 「ご飯一緒じゃないの…?」
春  「…うん。ごめんね。でも──」
千尋 「パパのせいじゃないよ。僕のせい。パパごめんね」

千尋、胸に顔を埋めて泣いている

春  「え?」
千尋 「僕が言っちゃったの」

千尋、春から離れて涙を拭きながら話す

千尋 「パパが恵ちゃんのこと好きなの、恵ちゃんに言ったの。ごめんなさい」
春  「ちー…」

春、千尋の頭を撫でる

千尋 「だって恵ちゃんもパパのこと好きだもん。それなのに違うって言うの」
春  「そっか」
千尋 「パパ恵ちゃんのこと嫌いにならないで。僕、恵ちゃんに謝るから」
春  「ちー。さっきね、恵ちゃんに好きって言っちゃった」

微笑む春

千尋 「え?」
春  「パパ振られちゃった」

春、千尋を抱き寄せる

千尋 「嘘だ」
春  「ううん。ほんと。でもねちー。僕恵ちゃんのこと嫌いになんかなれないんだ。小さい頃からずっと好きだったから。恵ちゃんがパパのこと嫌いだって言っても、僕は嫌いになんかなれないんだ」
千尋 「パパ恵ちゃんのこと捕まえにいってよ」
春  「……」

ぎゅっと抱きしめる

千尋 「パパ」



・俊祐宅

ドアを開けると恵が立っている
俊祐の後ろに渚がいる

恵  「あ、先生もいたんだ…ごめん。邪魔しちゃ悪いから今度でいいわ」

恵、去っていこうとするが俊祐腕を取る

俊祐 「入れよ」
恵  「……」
俊祐 「今更俺に遠慮とかすんな。気持ち悪ぃ」
恵  「……ごめん」



・リビング

ソファに座っている三人

恵  「春に好きって言われた」
渚  「え?」
俊祐 「……」

俊祐、煙草をふかす

俊祐 「で?俺もだよって?よかったじゃん。おめでとう」
渚  「俊祐」

渚、俊祐を睨む

恵  「俺はもう春のこと好きじゃねぇんだ。そんなことあるわけないだろ」
俊祐 「だったらなんだよ。断ってざまあみろって?」
恵  「違う」

恵、頭を抱える

俊祐 「何がそんなに悲しいんだよ?相模さんとよろしくやってんだろ?そこで永久に告られて気持ちでも揺らいだ?」
恵  「違うッ!」
渚  「俊祐。なぁ加々見。君は本当にその相模さんって人が好きなのか?」
恵  「うん」

俊祐、鼻で笑う

恵  「なんだよッ!?何が言いたいんだ!」
俊祐 「それはこっちの台詞だ。お前の気持ちってなんなんだよ」
恵  「俺はただ普通に人を好きになりたいだけだ。俺はもう春のことなんか好きじゃないし、あいつのことなんか今更なんだよ」
俊祐 「じゃあどうしてそんな顔して悩んでんだ?どうでもいいなら笑って済ませりゃいい話だろ」
恵  「だってあいつは姉ちゃんと……」

俊祐、ため息をつく

俊祐 「そんなことだろうと思った。お前は結局未だに姉ちゃんに囚われてるだけだろ。何が嘘を本当に変えただ。お前はまだ永久のこと好きなんだよ。姉ちゃんから逃げて、永久からも逃げて。そこで手差し出してきた相模さんに逃げ込んでるだけだ」
恵  「違う。俺はもうあいつのこと好きじゃないッ!」
俊祐 「だったらなんなんだよ!永久はこれから一生お前の姉ちゃん以外の人と、一緒になっちゃいけないって言うのか!?」
恵  「そうじゃない…」

恵、涙を流す

渚  「……加々見。誰かを好きになることを、君が一番分かってるんじゃないのか?」
恵  「え…?」
渚  「君はずっと、永久のこと好きだったんじゃないか。小さい頃からずっと、君は恋をしていたんだ。会えて嬉しいとか、声を聞けるだけで嬉しいとか、そういうのを傍にいたから気づかなかっただけで、君はその喜びを知ってたはずだ」
恵  「……」
渚  「それは今感じているものと同じなのか?相模さんにも同じように思えているのか?君を見てるとただ素直になれていない様にしか見えないよ。恋に恋して自分を見失ってるんじゃないのか?」
恵  「違う…俺はただ……」
渚  「もう嘘を吐く必要なんかないんだ。お姉さんはもういないんだから」
恵  「いるよ…」
渚  「え…?」
恵  「姉ちゃんはずっといるんだよ。消えることなんかないんだ。この先一生。何があっても」



・街(回想)

学校の帰り道、前を歩いている春を見つける恵

恵  「あっ、春!」

駆け寄る

春  「恵ちゃん。帰り?」
恵  「うん!春も?」
春  「うん。一緒に帰ろうか」
恵  「うん!」

恵、笑っている



・実家(回想)

恵と春、床に座って絵を描いている
そこへ美紀が来る

美紀 「けーいちゃん。私もお絵かき見せて?」
恵  「えー、だーめ」
美紀 「どうしてー?」
恵  「俺の描いてる姿は見せられないから」
美紀 「もーう。いいじゃない」

剥れる美紀

恵  「また今度ね」



・俊祐宅

恵  「会える喜びも、嫉妬することも知ってる。俺は春が好きだったよ。でももう本当に今更なんだ。姉ちゃんが春の中からいなくなることなんか絶対にないんだから。あいつが俺のこと好きだって言っても、それは絶対に変わらないんだ」
俊祐 「よく分かってんじゃねぇか」
恵  「分かってるよ。分かってるからこそ今更だって言ってんだ」
俊祐 「言ってろよ」

俊祐、呆れて煙草を消す

恵  「逃げてるって言われようが、俺はもう春の元に行くつもりはない…」
渚  「加々見……」



・暁宅

窓辺に座って外を見ている恵
雨が降っている

暁  「指輪のこと、そんなに気にしないでいいんだよ?」

暁、コーヒーを持ってくる
恵に渡す

恵  「……うん」
暁  「それにしても君が料理好きだとは思わなかったな」
恵  「そう?」
暁  「今度僕にも何か作ってよ」
恵  「うん。いいよ」

恵、カップを持っているだけで口をつけない

暁  「……」

暁、窓辺にカップを置くと恵の顎を引いてキスをする

恵  「…んっ……」
暁  「指輪のことだけじゃないみたいだね」
恵  「……」
暁  「悩みがあるんなら聞くっていっただろ?それとも僕には言えないこと?」

恵、首を振る

恵  「ちーとの約束破っちゃったんだ」
暁  「約束?」
恵  「うん。一緒にご飯食べようっていっつも言ってくれてたのに、食べるって言って結局食べなかった」
暁  「また次の機会に食べればいいじゃないか」
恵  「ううん。もう無理なんだ。きっとちーは俺のこと嫌いになったと思うから」
暁  「喧嘩でもしたのか?」
恵  「…狸と猫かで……」
暁  「狸と猫?」
恵  「……」

恵、外を見ている

暁  「恵──」

恵、暁の言葉を遮るように暁の手を引きキスをする

恵  「ねぇ、暁さん。抱いて?」
暁  「恵……」
恵  「お願い…」

暁を見つめる恵
外は雨が降っている



・寝室

ベッドの上で裸で座っている恵
暁、部屋に入ってくると電気を消す
外の明かりが窓の雫を部屋の中に映す
暁、ベッドに上がると恵にキスをする

恵  「…っ…ん…」

キスをしながら押し倒す
首筋にキスをし、だんだんと下へ向かう暁

恵  「っ……ぁ…」

恵、快感に表情を歪ませながら天井を見ている



・街(回想)

春  「ずっとずっと僕が傍にいるよ。だから恵ちゃん寂しくないよ」



・バー(回想)

春  「そっか



・春実家(回想)

春  「左手は結婚するときね」



・春宅(回想)

春  「恵ちゃん紅茶でいいー?」



・実家玄関前(回想)

春  「まだ持っててくれたんだ」



・路地(回想)

春  「約束したでしょう。僕が君の傍にずっといるって。一人になんかさせないって」



・手術室前(回想)

春  「愛してるよ」



・春宅(回想)

春  「どうして起こすの?」



・キッチン(回想)

春  「それ……」



・リビング(回想)

春  「他の人のものになんかならないで」



・寝室

春  『君が好きだ』

暁  「……恵」

暁、恵の方を見る

暁  「そんなに約束守れなかったことが悲しい?」

恵、泣いている

恵  「っ…ぅっ……」

暁、恵の涙を拭いてやる

暁  「焦ることないんだ」
恵  「ごめんなさい……」
暁  「謝らないでくれ」
恵  「ごめんなさい…」

暁、恵にキスをする

暁  「君が僕のことをまだ好きでいてくれると信じているよ」



・街

夜の道を一人、傘を差しながら歩いている恵

俊祐 『何が嘘を本当に変えただ。お前はまだ永久のこと好きなんだよ』
渚  『君はずっと、永久のこと好きだったんじゃないか』

恵  「……」

恵M 「結局俺はどうしたいんだ。暁さんとなにも出来ずに、あの人傷つけて。でも春のところになんか絶対行けない。それなのに、どうして浮かんでくるのは春のことばっかりなんだ」

家の前に誰かがいる

恵  「……」

雨に濡れている春
恵に気がつく

春  「恵ちゃん…」
恵  「何してんだよ……」

春、何も言わずに恵に駆け寄り抱きしめる

恵  「っ……」
春  「どこ行ってたの」
恵  「……どこだっていいだろ…」
春  「恵ちゃん愛してる」
恵  「っ──」
春  「君が誰かのものになるだなんて耐えられない。僕を嫌いだって言っても君を手放すことなんかできないんだ」

恵、涙を流す

春  「僕を嫌いでもいい。お願いだから誰かのものになんかならないで」
恵  「……」
春  「僕の傍にいて」
恵  「なんで…なんでそんな勝手なこと言えんだよ…」
春  「君が好きだから」
恵  「俺だってあんたのこと好きだった。でもあんたが俺のこと手放したんじゃねぇか。俺の傍から離れて、姉ちゃんのとこ行ったのは誰だよ!」
春  「僕だ…」
恵  「なんで…最初から俺のこと好きでいてくれなかったんだ……」
春  「ごめん…」
恵  「春…」

恵、春から離れて頬に触れる
春、恵にキスをする

恵  「…んっ……っ…」

春、雨に濡れた恵の髪を撫でると首筋にあるキスマークに気がつく

春  「……」

春、突然恵の手を取ると何も言わずに手を引いていく

恵  「春…?」



・自宅

二人とも濡れたまま家に入る
相変わらず何も言わないまま手を引いていく春
ベッドに恵を突き飛ばす

恵  「っ!」

春、恵に深くキスをする

恵  「っ…ん……は、る……ん」

恵、それを受け入れて首に手を回す
春、恵の服を捲り上げ体中にキスを落とす

恵  「んっ……」

快感に顔を背ける
目に入る棚の上のピルケース

恵  「っ!」

恵、咄嗟に春を見ると春と目が合う

恵  「嫌だ……」
春  「恵ちゃん…?」
恵  「嫌だッ!」

恵、春を突き飛ばすと家を飛び出す

春  「恵ちゃんッ!」



・街

雨の降る中を走っていく恵

恵M 「俺は姉ちゃんじゃない──」

しばらくするとゆっくり立ち止まる

恵M 「消えることなんかないんだ」



・繁華街

雨上がりの街
俊祐と渚が歩いている

渚  「いなくなるなんか絶対にない、か……」
俊祐 「え?」
渚  「加々見が言ってたことだよ」
俊祐 「あぁ…」
渚  「どうしてあの時あんなに突き放すような言い方したんだ?この間は応援するって言ってたのに」
俊祐 「幸せならな」
渚  「だったら…」
俊祐 「だってあいつ幸せな顔してねぇじゃん。嘘でも好きな人出来たって言って、それでそのまま幸せなら何にも言わなかったよ。でももう顔に出てんじゃん。永久のこと好きだって」
渚  「……」
俊祐 「あいつ素直じゃねぇし、自分が一番じゃなきゃすぐ拗ねるし。強がってるけど傷つくことから逃げ回ってる馬鹿なんだよ。昔から。今までどうでもいい奴らとやりまくってたこともそう。永久への当て付けだろ?」
渚  「……」
俊祐 「でも今回のはもうどうしようもない。死んだ人を怖がって逃げて。俺があいつに何言ったって、もうはいそうですかじゃすまないんだよ。あいつが自分でなんとかしないと。俺に逃げてきたって今回はもう何も言えない。助けてやれないんだ」
渚  「…君は加々見のこと本当によく分かってるんだな」

俊祐、渚を見て少し笑い、鼻でため息をつく

俊祐 「なに、やきもちでも妬いてくれてんの?」
渚  「え?あ、いや…」
俊祐 「ふっ、俺とあいつはただの親友だ。もう昔から」
渚  「……」
俊祐 「馬鹿なのは永久もそうなんだよ。あいつ昔──」

俊祐、突き当たりの路地を見ながら言葉を止める

渚  「俊祐?」

俊祐、走っていく

俊祐 「恵!」



・路地

路地の隅に壁に寄りかかって座り込んでいる恵がいる
俊祐、恵を抱きかかえる

俊祐 「恵!しっかりしろ!何してんだこんなとこで!」

恵、ゆっくりと目を開けると俊祐を見て微笑む

恵  「ははっ、春かと思った」
俊祐 「……」
渚  「加々見」
恵  「あー、先生もいる…。また邪魔したな。ごめんな」

恵、相変わらず笑っている

俊祐 「アホか。お前凄い熱あるぞ。こんなびしょびしょで。とりあえず家に──」

恵、俊祐の服を掴む

恵  「嫌だ…。帰りたくない……」

恵、涙を流す

渚  「何かあったのか?」
恵  「帰れない…。春がいるから……」

恵、気を失う

渚  「加々見!?」
俊祐 「何があったかわかんねぇけど、とりあえず俺んち連れて行こう。先生鞄持って」
渚  「あぁ。分かった」



・俊祐宅

寝室のベッドに寝ている恵

渚  「病院に連れて行かないで大丈夫かな……」
俊祐 「とりあえず様子見よう」
渚  「それにしてもどうしてあんな…。永久と何が──」
恵  「…ん……」

恵、目を覚ます

渚  「加々見」
恵  「先生……。ここどこ…?」
渚  「俊祐の家だよ」
恵  「そっか……よかった…」

苦しげに微笑む恵
俊祐、ベッドに座る

俊祐 「恵。何があったんだ。永久と喧嘩でもしたのか?」

恵、目に涙を一杯溜めて首を振る

俊祐 「……」

俊祐、恵の髪を撫でる

恵  「あいつ…きっと俺が帰ってくるの待ってるから……」

恵、両腕で顔を隠して泣いている

恵  「もう俺…誰のとこにもいけないよ……」
俊祐 「…永久のことが好きか?」
恵  「うん…」
俊祐 「…なぁ、恵」

俊祐、恵の腕を取って目を見る

俊祐 「そろそろ素直になれよ。思ってること全部話してみろ。自分のことだけ考えればいい。お前もう十分我慢したよ。姉ちゃんのことも、全部あいつに話せ。それでちゃんと逃げずにあいつの話も聞いてみろ」
恵  「……」
俊祐 「お前の言うとおり、姉ちゃんがいなくなることなんかないよ。お前らが生きてる限りずっとどこかにいる。でもそれは仕方のないことだろ?恵も姉ちゃんのこと好きだったし、永久も好きだったんだ。そこから逃げることなんか絶対に出来ないんだ。乗り越えるしかねぇんだよ。最後にちょっと頑張ってみろ」
恵  「俊祐……」
俊祐 「お前にだったら出来るよ。俺が保証してやる。言っただろ?お前の我侭くらいいくらでも聞いてやるって。なんかあったら俺んとこ来い。お前を一人になんかさせねぇよ」
恵  「…ぅっ……な、んで……お前そんな……」

俊祐、笑う

俊祐 「親友だろ?」
恵  「ばーか……」



・リビング

渚  「……」

渚、一人テーブルの前に立っている
俊祐が寝室から出てきて渚を振り向かせキスをする

渚  「しゅん…すけ…?」

抱きしめる

俊祐 「勘違いすんな。俺が好きなのはあんただけだ」
渚  「……」

渚、涙を流す

俊祐 「泣くなよ」
渚  「でも…好きだったんだろ…?」
俊祐 「昔の話だ。あいつが好きになるのは今も昔も永久だけなんだよ」
渚  「……俊祐」

渚、俊祐を見上げる

渚  「愛してる。俺のことだけ見ててくれ。やきもちなんか妬かないから」
俊祐 「寂しいこと言うなよ。愛してるよ」

キスをする






第三章へ

mainへ
topへ戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -