第三章


・リビング

渚  「か、加々見って料理するんだ……」

テーブルに広げられた料理を見て驚く渚

恵M 「あれから一週間。俺は熱が下がらなくてずっと俊祐の家に世話になっていた。でももう今ではすっかり元気になった」

恵  「俺の料理は世界一なんだよ?これだけは誰にも負けない自信がある!」
俊祐 「どうでもいいから早く食おうぜ。腹減った」

いいながら席につく俊祐

恵  「食え食え。ホラ、先生も座って
渚  「あぁ」



・リビング

食事をしている三人

渚  「ホントに美味しいね。凄いな…」
恵  「わーいありがとっつかさ、涼子は〜?この一週間一度も見なかったけど」
俊祐 「だーいぶ前に出てった」
恵  「今度は何?」
俊祐 「なんだったかな…。スペインのフラメンコダンサーだったっけ…?」
恵  「とうとう国外かよ」
俊祐 「いや、都内在住」
恵  「ハハハッ」

恵、箸を止める

恵  「あのさ、今日帰るわ」
俊祐 「そりゃこれだけ元気なんだ、帰ってもらわないと困る」

俊祐、笑う

恵  「ははっ、ほんとだよ。これだけ元気だったら大丈夫だよな」

恵、少し俯く

俊祐 「大丈夫だよ。お前なら」

俊祐、食べながら話す

渚  「頑張って」

渚、微笑む

恵  「うん」



・街

歩きながら携帯を開く恵
着信履歴には春の名前が連なっている

恵  「……」

通話ボタンを押そうとすると電話がかかってくる

恵  「うわっ!」

自宅と表示されている

恵  「母さん?」

出る

恵  「もしもし?」
母  『もしもし?あなた今どこにいるの?』
恵  「あー、俊祐んちにいた…」
母  『もう。また急にどこか行っちゃうんだから。春くんも探してたわよ?』
恵  「うん…。ごめん」
母  『ちゃんと生きてるならいいの』
恵  「生きてるよ」

笑う

母  『今日ね、皆でご飯食べましょうって言ってるんだけど、恵も来れる?』
恵  「皆って春も?」
母  『当たり前でしょう』
恵  「そっか。うん。行くよ」
母  『あなた、春くんが来なかったら来ないつもりだったの?』
恵  「いや、そういうわけじゃないけど」
母  『嘘おっしゃい。恵はもう生まれたときから春くんばーっかりに懐いてたもの』
恵  「そーか?」
母  『そうです。まぁいいわ。何か甘いものでも買ってきて頂戴』
恵  「あー、分かったよ」

笑う恵

恵  「うん。うん。分かった。じゃ後で」

電話を切ると微笑んで歩いていく恵



・暁宅

暁  「上がって」

暁、恵の顔を見て微笑む

恵  「暁さん…。ごめんなさい」
暁  「もう家にも上がってもらえないのかな」

暁、悲しげに微笑む
その表情を見て首を振る恵

暁  「だったら座って話そう」
恵  「うん…」



・リビング

ソファに座っている恵と暁

暁  「君の顔見てたら言われなくても分かってしまうな」

悲しげに微笑む暁

恵  「暁さんのこと、ホントに好きだったよ」
暁  「それは今でも?」
恵  「うん。春がいなかったらあなたとずっと一緒にいたと思う」
暁  「結局、僕は敵わなかったわけだ」
恵  「…あの時暁さん、言ったじゃん。嘘が本当に嘘かもしれないって。あの意味、今だったら分かる気がする。俺には嘘を本当に変えることなんか出来なかったんだ。自分自身を騙そうとして必死だった。結局出来なかったんだけどね」

悲しげに微笑む

恵  「こんな馬鹿な奴に付き合ってくれてありがとう」
暁  「僕は遊びなんかじゃなかったんだよね?」

暁、恵を抱き寄せる
腕を回す恵

恵  「うん。俺、ほんとにあなたが好きだったよ」
暁  「だった…ね。ふふっ、今の君が本当の君なんだな」

暁、離れる

暁  「ねぇ、今写真撮らせてくれないか?」
恵  「あー…」
暁  「急ぎの用事がある?」
恵  「うん。ちゃんと伝えなきゃいけない奴がいるから」

微笑む恵

暁  「そうか。なら一枚だけ」

暁、机の上に置いてあったポラロイドカメラを取る

暁  「君の本質がやっと掴めたよ」

シャッターを切る
暁、もう一度恵を抱きしめる

暁  「これからは自分に正直に生きるんだよ。幸せになって」
恵  「うん。ありがとう」
暁  「君は本当に綺麗だな」

笑い合う二人



・実家

庭で遊んでいる千尋と哲平(てっぺい)
千尋、ハーモニカでかえるの歌を吹いている

千尋 「あー、たぬきさんだ」

塀の上の猫を見る

哲平 「ちー、あれは猫」
千尋 「……ねぇ、てっちゃん」

千尋、哲平の服を掴む

哲平 「んー?」
千尋 「今日恵ちゃんも来るの?」
哲平 「恵ちゃん?さぁ分かんない。なんで?」
千尋 「僕ね、恵ちゃんに謝らなきゃいけないの」

千尋、俯く

哲平 「恵ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
千尋 「ううん。僕がね、怒らせちゃったの」
哲平 「そっか。あ、でもこの間父さんが恵ちゃんまたいなくなったって言ってたなー」
千尋 「え…?」
哲平 「でもきっと来るよ。だって恵ちゃんちーがいる時は絶対来るし。な?」
千尋 「うん…」



・庭

戸口に座っている千尋、その隣に哲平が座っている

千尋 「……」
哲平 「俺トイレ」

哲平、トイレへ
千尋、哲平の後ろ姿を見送ると立ち上がる

千尋 「……」

千尋、走って家を出て行く



・街

夕暮れ時
ケーキの箱を持って歩いている恵

恵M 「春になんて話せばいいんだろう。今どんな顔してるのかも分からない。会ってまずはごめんなさいか?きっとあいつのことだから、自分が悪いって言うんだろうな」

実家が見えてくる

恵M 「俺の正直な気持ちを言うなら、好きだとしか言えないけど──」

実家の門に手を掛ける
玄関に哲平がいる

哲平 「恵ちゃん!」

駆け寄ってくる哲平

恵  「哲平…どうしたんだよ?なんかあったのか?」
哲平 「ちーがいなくなった!」

哲平、目に涙を溜めて言う

恵  「え?どういうこと?」

恵、哲平の目線にしゃがむ
哲平、涙を擦りながら話す

哲平 「俺がトイレから帰ってきたらどこにもいなくて…皆探しに行ってる…ごめんなさい。俺のせいだ…」
恵  「心配すんな。俺も探しに行くから。お前一人か?」
哲平 「ううん。母さんが中に」
恵  「あとは皆出て行ってるんだな?」
哲平 「うん」
恵  「ちー何か言ってなかった?」
哲平 「わかんない…普通に遊んでて…」
恵  「そうか。分かった。俺行ってくるから、コレ冷蔵庫に入れとけ」

恵、哲平の頭を撫でてケーキを渡すと出て行こうとする

哲平 「恵ちゃん!」
恵  「なに?」
哲平 「あの、ちーが恵ちゃんに謝らなきゃいけないって言ってた…」
恵  「え?」
哲平 「僕が怒らせちゃったからって…」
恵  「そうか!わかった!お前中入ってろ!」

恵、走っていく



・街

走っている恵

恵M 「あの馬鹿。なんで自分のせいだと思ってんだ…!」

千尋 『いないよ。そんなの違うもん。恵ちゃんはパパのこと好きなんだもん』

恵M 「あいつはちゃんと分かってたのに!全部俺のせいだ!」



・街

恵  「ちー!どこだー!?」

住宅街を走っている恵

恵  「ちー!」

夕日が沈みかけている

稔  「恵!」

前から自転車に乗った稔(みのる)が来る

恵  「兄貴!」
稔  「お前も探してたのか!」
恵  「そっちはいない?」
稔  「あぁ、幼稚園にも行ってみたけどいなかった」
恵  「あの歳の歩きでそう遠くには行けないだろ」
稔  「もう日も沈むし、早くしないと」

哲平 『ちーが恵ちゃんに謝らなきゃいけないって言ってた…』

恵  「!」
稔  「行きそうなとこ分かったのか!?」
恵  「俺を探してるんだって言ってた…俺の家…」
稔  「電車に乗らなきゃいけないだろ」
恵  「あいつだったら歩きでもいくよ!俺行ってみる!」

恵、走っていく

稔  「家の方に春が行ってる!連絡しろ!」
恵  「わかった!」



・街

夕日が沈んでいく
走っている恵

恵M 「お願いだから無事でいてくれ…!」

恵  「ちー!いるなら返事しろ!」



・公園

夜の公園
遊具の階段に千尋が泣きながら座っている
ハーモニカを握り締めている

千尋 「……っう……ぱぱ…」

泣いていると目の前を猫が通る

千尋 「たぬきさんだ……ねぇ、たぬきさん。恵ちゃんのお家知らない…?」

猫、鳴く

千尋 「僕ね、恵ちゃんにごめんなさいしないといけないの……そうじゃないとパパが泣いちゃうからね。でもね、恵ちゃんのお家が分からないの……」

猫去っていく

千尋 「あっ……たぬきさん…待ってよー…恵ちゃんのお家教えて…?」

千尋、立ち上がって猫の行く方を見る
真っ暗な公園
誰もいない

千尋 「パパ……ここどこ…?怖いよ……」

また泣き出す千尋
烏が鳴く
驚いてまた遊具の階段に座る
ハーモニカを見る

千尋 「大丈夫。寂しくなったらハーモニカを吹くんだ……そしたら寂しくなくなるんだ…」

千尋、鼻水をすすってハーモニカを吹く
たどたどしいきらきら星



・街

夜の街を走っている恵

恵  「ちー!どこだよ!返事しろ!」

立ち止まって息を整える

恵  「クソッ…どこいったんだ……」

道の先を見る
微かにきらきら星が聞こえてくる

恵  「ハーモニカ……ちー…?!」

走っていく恵



・公園前

恵  「ちー!どこだ!?」

ハーモニカの音が途切れる
公園の中を見る恵

千尋 「恵ちゃん……?」

千尋、遊具から下りて入り口の方を見る

恵  「ちー!」

恵、走って行く
千尋も駆け寄る

千尋 「恵ちゃん!」

抱きとめる

恵  「お前っ…なんでこんなとこっ…」

泣いている恵

千尋 「ごめんなさい……っ…ごめんなさい」
恵  「謝らなくていい。良かった…無事で…」
千尋 「恵ちゃん…僕恵ちゃんにごめんなさいしなきゃいけないの」
恵  「いいよ。お前は悪くない」
千尋 「パパは悪くないの。だからパパを嫌いにならないで…」
恵  「うん。俺春が好きだよ。俺の好きな人は春しかいないよ」
千尋 「ほんと…?」
恵  「うん。俺もちーに謝らなきゃな。あの時ちーはちゃんと教えてくれたのに。ごめんな。俺、春のこと愛してるよ」
千尋 「僕に言うんじゃないよ。パパに言わなきゃ」

千尋、笑っている

恵  「うん」

公園の入り口に立っている春

千尋 「恵ちゃん」
恵  「ん?」

千尋の指差す方を見る

恵  「春…」

春、無言で歩いてくる

恵  「あの──」
春  「どれだけ心配したか……」

春、泣いている

春  「二人共いなくなったら…僕一人でどうすればいいんだ……」

千尋、駆け寄り春に抱きつく

千尋 「パパ泣かないで。ごめんなさい。僕、恵ちゃん探しに行ってたの」
春  「っ…ぅぅ…」
千尋 「でもね、恵ちゃんパパのこと好きだって。ねぇ?」

恵の方を見る

恵  「……うん…」
春  「もういなくなったりしないで…」
恵  「…うん……ごめんなさい…」

恵、涙を流す
春、千尋を抱き上げると恵の方へ行って抱きしめる

春  「二人とも無事でよかった」



・街

千尋、春に抱かれて眠っている
二人、手を繋いで歩いている

恵  「俺、春が好きだよ」
春  「……うん」
恵  「あんたしか好きになれない」
春  「うん」
恵  「多分もう、死んでも好きなんだと思う」

春、ため息を吐く

恵  「なっ!人が真剣に…!」
春  「恵ちゃん、この状態でそんなこと言わないでよ…」
恵  「なんで」
春  「キスできない」
恵  「……」

恵、立ち止まって春の頭を持つ

恵  「俺がすればいいんだろ?」

恵、春にキスをする
春、微笑む

春  「愛してるよ」
恵  「俺も」

もう一度キスをする
笑い合う二人

千尋 「恵ちゃん僕はー?」
恵  「うわっ、起きてたの?」
千尋 「ふふっ、僕にもキスして?」

恵、鼻で笑うとキスをする

恵  「ほら、帰ろう。皆待ってる」

また手を繋いで歩き出す
笑いながら帰る三人



・実家前

皆家の前で待っている
三人の姿を見て安心して泣き出す母
笑っている父、胸をなでおろす稔
哲平、母親と手を繋いでいたが離れて千尋に駆け寄る

千尋 「てっちゃん!」

千尋、哲平に抱きつく

哲平 「どこ行ってたんだよ!?」

哲平、泣いている

千尋 「ごめんね」
哲平 「心配したんだからな…」
千尋 「もうどこにもいかないよ。だってホラ、パパと恵ちゃん仲直りしたから」

笑う春と恵
皆で家の中に入っていく



・客間

ベッドで手を繋いで眠っている千尋と哲平



・恵の部屋

ベッドに二人座っているが不自然に間が開いている

春  「恵ちゃん、遠い…」
恵  「い、いいんだ!これくらいで!あんたには言いたいことが山ほど!」

春、微笑む

春  「なに?」
恵  「……」
春  「?」
恵  「……」

恵M 「何から話せばいいんだ……」

春  「恵ちゃん?」
恵  「……俺、一番じゃないと嫌…」

恵M 「言いたいことはこれでいいのか…?!」

春  「一番だよ」
恵  「そうじゃなくて…」
春  「美紀のこと?」

恵、俯く

恵  「だって春にとって姉ちゃんは一番だろ…?それはいつまでたっても変わらない。俺、姉ちゃんの代わりは嫌だ…」
春  「…こんなこと弟の君に言うのはどうかと思うんだけど」
恵  「え…?」
春  「僕にとっての一番は昔から君しかいなかったんだよ」

恵、春を見る

春  「僕は美紀を君の代わりにしたんだ…」

俯く春

恵  「どういう…」
春  「怒ってくれても構わない。ううん、きっと君は怒ると思う」



・春実家(回想)

春M 「僕はもうずっと君のことが好きだった」

中三の恵と高一の春
春の部屋でくつろいでいる恵
ベッドに寝そべっている
床に座っている春

恵  「なー、高校楽しいー?」
春  「え?うん。楽しいよ」
恵  「俺さー、男子校行こうかと思ってんだよねー」
春  「えぇ?同じとこ受けるんじゃなかったの?」
恵  「うん。そう思ってたんだけどさー、春んとこ共学じゃん?」
春  「そうだけど…どうして?」
恵  「やー、俺本気で女に興味無いみたい
春  「えっ!?」

恵、寝返りを打つ

恵  「そう考えたらやっぱ男子校のが楽しいかなーって

恵の首筋にキスマークを見つける春

春  「恵ちゃん…それ…」
恵  「え?なに?」
春  「キスマーク…?」
恵  「ん?あぁ、付いてた?ふふっ、俺やっちゃった

ショックを受ける春



・恵の部屋

へこんでいる春
頭を抱える恵

春  「それから恵ちゃんは高校生になったら、見るたび見るたび違う男の子連れて歩いてて…」
恵  「〜〜〜〜っ」
春  「僕は恵ちゃんも僕のこと好きなんだと思ってたのに、あぁ違うんだなってその頃から思い始めてて」
恵  「当て付けだってことくらい分かってくれ……」
春  「本気で好きだったんだよ?」
恵  「ぅっ…」
春  「でも嫌いになんかなれなかった…」
恵  「……」



・春実家前(回想)

玄関を出ると美紀がいる

春M 「美紀が大学入ってすぐのころ。好きだって言われたんだ」

美紀 「あのね、春くん。私、春くんのこと好き」
春  「え……」

春M 「君にそっくりな顔で、そう言われて、今考えたら僕も君への当て付けだったんだろうね」



・恵の部屋

恵  「最低……俺の姉ちゃん…」
春  「はぁ……。その後恵ちゃんは前よりも増して男の子をとっかえひっかえ。僕三人で部屋にいるのも見たことあるなぁ……」

悲しい顔をしている春
頭を抱える恵

恵  「〜〜〜〜っ」
春  「でもその後は本気だったよ。ほんとに美紀のこと愛してた」
恵  「……」
春  「君の代わりなんかじゃなくね」
恵  「……そう」
春  「でも一度美紀に泣かれたことがあった」
恵  「え…?」
春  「僕には恵ちゃんしか見えてないんだって」

美紀 『春くんの右手は恵ちゃんのことずっと捕まえてたから。それは今も変わらないの。春くんが落ち込んでしまう時は恵ちゃんが原因でしかなかったんだよ』
    
恵  「……」
春  「でもそれは違うんだって言った。僕はただ執着で君から離れられないんだと思ってたから。好きとか、そういうんじゃもう無くなってたと思ってたんだ」
恵  「執着……」
春  「うん。でもね、ちーが生まれて、美紀が亡くなって、だんだん、昔の気持ちが沸いてくるんだ。君が帰って行く後姿が愛しく見えて、でもどうすればいいか分からなかった」
恵  「……」
春  「指輪を見たときはもう絶望的だったな。恵ちゃんが指輪なんかしてるの見たこと無かったし、本気なんだなって。嫉妬心で気が狂いそうだった」

恵、春を見る

春  「指輪。落としてたよ」

春、ポケットから指輪を出して恵に渡す

恵  「もう…」
春  「もっと早くに返すべきだったんだけど。僕のささやかな反抗」

笑う

恵  「馬鹿」
春  「ねぇ、あの雨が降ってた日、一度は僕を受け入れてくれたよね?それともあれは僕の勝手な思い違い?」

恵、首を振る

恵  「ううん。あのまますんなり行ってたかもしれない」
春  「だったら…」
恵  「ピルケース」
春  「え?」
恵  「ピルケースが目に入って、姉ちゃんのこと思い出したんだ。そしたら怖くなって……」
春  「そっか…」
恵  「俺知らないうちに春のこと好きになって、無意識のうちに当て付けなんか馬鹿なことしてて、それで姉ちゃんと付き合うって聞いてもまだ好きだって認めなかった。そこで俺も好きだって言ってたら何か変わってたのかな……」
春  「きっと言わなかったよ。恵ちゃんは」
恵  「なんで」
春  「だって恵ちゃんは素直じゃないもん」
恵  「悪かったな…」
春  「でももういいよ」

春、恵を抱きしめる

春  「もう過去なんか振り返らない。もうすれ違うのは嫌だ」

恵、笑う

恵  「何年すれ違ってんだよ」
春  「君が生まれた時からだよ」

春、笑ってキスをする

春  「恵ちゃん。愛してる」
恵  「うん」

キスをする二人
ベッドに押し倒す春
服に手を滑り込ませる

恵  「待った待った」
春  「何」

春、ちょっと剥れる

恵  「俺ちゃんと話しろって俊祐に言われてんだよ。今のは春の話聞いただけじゃん」
春  「もういいよ。だいたい分かるから」
恵  「そんなじゃダメだって。俊祐に怒られる」
春  「恵ちゃんが素直じゃなくて、自分の気持ちちゃんと理解しようとしなくて、僕から逃げてたって話でしょ?」
恵  「……大体そうだけど…」
春  「だったらもういい」

胸にキスをする

恵  「っ…俊祐になんて言えばいいんだよ…」
春  「恵ちゃん、こういう時に他の男の名前ばっかり言う?」
恵  「…俊祐は友達だもん……」
春  「もう、恵ちゃんはホントに鈍いんだから…」
恵  「はぁ?どういう意味」
春  「いいから。僕のことだけ考えててよ」
恵  「親子そろって……んぁっ!」

春の頭を咄嗟に持つ

恵  「何今の!?」
春  「ふふっ、お仕置き
恵  「っつーか、ちょっと待て。なんで春が上なわけ?」

起き上がる恵

春  「まだ喋るの?」
恵  「これは一番大事な話だろッ!」

春、ため息をつくとシャツを脱ぐ

恵  「は、春…?」

恵の顎を引く

春  「喋れなくしてあげる」

春、意地悪く笑うとキスをする

恵  「んっ……は、るっ……」

離れると恵の目を見ながら髪を撫でる
目が離せない恵

恵  「……」
春  「最初に僕に好きだって言ったのは君だったのに」
恵  「え……?」
春  「僕も素直に君のこと、抱きしめていればよかった」
恵  「……春…?」

春、優しく恵にキスをするとゆっくりとベッドに押し倒す
下から見る春に言葉を無くしている恵
体中にキスをする春

恵  「あ、あの…っ…」
春  「ん?」
恵  「どうすればいいか…分からなくなった……」

恵、固まっている

春  「恵ちゃんはこんなことなれてるんじゃなかったの?」

少し笑って言うと恵、腕で顔を隠す

恵  「だって…こういう気持ちでしたことないんだッ」
春  「ふふっ、どういう気持ち?」
恵  「ど、どういうってッ……その…」
春  「うん?」
恵  「……ほんとに好きな奴とするのは…初めてだから……」
春  「へぇ…」

春、恵の腕を剥がす
真っ赤になっている恵
キスをする

恵  「〜〜〜ッ」
春  「でも、僕の体なんか見慣れてるでしょー?」
恵  「そ、そうだけどッ!……なんか…いつもと違う……」
春  「それは僕が可愛い君に興奮してるからだよ」

照れを通り越して切ない顔をする恵

春  「君に触れたくてしかたなかった」
恵  「……っ」

恵、春を押しのける

春  「恵ちゃん…?」

驚く春

恵  「入れてもいいから、先にやらせろ……」

照れながら春のズボンに手をかけ、咥える恵

春  「恵ちゃん……」

恵の髪を撫でる

恵  「んっ……んぅ……気持ち…いい…?」
春  「うん……っ…もう恥ずかしくないの…?」
恵  「ばか……噛むぞ」

恵、目を逸らす

春  「いいよ…恵ちゃんにだったら何されても気持ちよくなるだけだから」
恵  「〜〜〜っ!ほんとに噛むぞッ!」

恵の照れている顔を見て微笑む春

春  「おいで」
恵  「え…?」
春  「僕もしてあげるよ」



・恵の部屋

恵、春を咥えながら春の上に被さっている
春、恵を咥えながら指を入れている

恵  「あっ、やだ……んっ……それ…やめ…っ」
春  「んっ……んぅ……これ…?」
恵  「はぁっ!……なに…やぁっ……」
春  「恵ちゃん……あんまり声出すと下まで聞こえるよ…?」
恵  「うるさ…いっ……春の、口んなか…んぅっ……どうなってんだよっ……あぁっ」
春  「ふっ……ん……皆と同じだよ……」
恵  「う、そ…だ……ぁっ……」
春  「ん……はぁっ……恵ちゃん」

春、言いながら指で中を抉る

恵  「あぁっ…!」
春  「ここに誰も入ってないの?」
恵  「はいってな、いっ……てめぇだけだばーか!」

春、笑う

春  「そんなに可愛いこと言われるともっと良くしてあげたくなるな」
恵  「うるさいっ……入れるんならさっさと入れろっ……」

春、鼻で笑うと恵を上から退かせて寝かせると上に被さる

春  「もう我慢できないから入れてくださいじゃないの?」
恵  「〜〜〜〜ッ」
春  「ほんとに君は素直じゃないんだから」
恵  「嫌ならやめろよ…っ」

拗ねる
その顔を見て笑うと恵から離れる春

恵  「え……?」
春  「じゃあやめよっか」

恵、春の腕を掴む

恵  「や、やだっ……ほんとに我慢できないからもう入れて……」

春を見つめる恵
その顔を見てもう一度ベッドに押し倒す

春  「素直になるとこれだから…」
恵  「ごめんなさい…」
春  「こっちが我慢できなくなる」

キスをすると恵に触れる

恵  「んぅ……はる…さわんな…ぁっ……もう…っ」
春  「まだダメだよ」
恵  「はぁっ……や、なんで……っ…」
春  「一緒にイこうね

春、恵の中に入る

恵  「んっ!……あぁっ…やだ…っ……手…やだぁっ」
春  「だめだよ…離したら恵ちゃん……先に出しちゃうでしょ」
恵  「だって……あぁっ…んっ…もう、むりっ……」
春  「だーめ」
恵  「はるっ…」

恵、春の頬に触れ見つめる

恵  「おねがいっ……お、れ…おかしくなっちゃうっ……」
春  「……君はホントに……」
恵  「なっ、に……ぅっ…んぁッ…」
春  「無意識なの?計算?」
恵  「わかん、なっ……やだっ……はる……あぁっ」
春  「もういいよ……ほら、イって」

手を離す

恵  「あぁっ……やっ…もう…んんっ……あぁっでる…やぁっ…ん…イくっ…んぁっ…あ、ぁ、…ぁっ、あぁっ────っ!」

春、恵にキスをする

恵  「んぅ……んっ…はぁっ…はぁ…はる……」
春  「んー?」
恵  「すき……はぁ……愛してる」

恵、キスをする

春  「うん。じゃあもうちょっと頑張ろうね
恵  「やっ…もう……あぁっ……



・恵の部屋

ベッドで寝ている二人

恵  「なぁ、さっき言ってた俺が先に好きだって言ったって何?」
春  「覚えてないならいいよ…」
恵  「五年前の話じゃなくて?」
春  「君が素直だった時の話」
恵  「俺が…?いつだよ……」
春  「はははっ、自覚あるんだ?」
恵  「……そりゃあ…」
春  「僕も素直じゃなかったんだよね…だから今まですれ違ったままだった」
恵  「ふっ、多分春が素直に俺に好きだって言っても逃げ回ってたんじゃねぇ?」
春  「分かってるならどうにかしてよ」

笑う

恵  「うん」
春  「でも恵ちゃんは素直じゃないと恵ちゃんじゃなくなる気がする…」
恵  「どっちだよ」
春  「もう素直じゃなくても僕の傍にずっと居てくれればそれでいい」

恵、寝返りを打つ

恵  「んじゃずっとこの手離すなよ」

恵、春に被さると左手を右手に重ねる

春  「もう死んでも離さないよ」
恵  「うん。愛してるよ春」
春  「愛してる」

キスをする



・自室(回想)

恵  「……あぁ。なに、報告でもしようと思ってきたのかよ」
春  「うーんと…うん、一応。その、大切にするから」

恵、春を見る
微笑んでいる春

恵  「……」
春  「…恵ちゃん……」

俯いている恵

春  「僕、帰るね……」

出て行こうとドアノブを掴む

恵  「嫌だッ……」

恵、春に抱きつく

春  「恵ちゃん…」
恵  「嫌だ…行かないで…」
春  「……」
恵  「俺、春が好きだ…」

恵M 「ふふっ、確かに俺はこんな素直なこと言えないだろうな」



・恵の部屋

手を繋いで眠っている二人

恵M 「きっと初めて会ったときから好きだった。それに気がついたのは随分経ってからだったけど、ずっとずっと、春しか好きじゃなかった」

恵M 「寄り道ばっかりして、素直になれなくて、思ってもないこと言ったりなんかして。ここまで来るのに時間がかかった。でもいつだって春の手からは離れられなくて、見えないモノに掴まれていた気がする」

恵M 「それは春の手だったのか、それとも俺の素直じゃない気持ちだったのか──」

恵、目を開けて春を見つめる

恵M 「今なら素直に言えるよ」

恵、左手を握ると微笑む

恵  「愛してる」

恵、目を閉じる



・恵実家(回想)

インターホンが鳴り、玄関を開ける四歳の恵
門の前に五歳の春がいる
走っていく恵

笑い合うと自然とどちらからとも無く手を繋ぐ二人
歩いていく

恵  「春」

恵、春を見つめる

春  「なーに?」
恵  「俺、春が好きだよ」

微笑む春

春  「うん。僕も恵ちゃん大好きだよ」

笑い合う二人








おわり

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