第一章


・展示館

ガラスケースの前に立っている渚(なぎさ)
中には春(はる)が作った『渚』がある
『1983年10月7日、最優秀賞。作、永久(ながひさ)春』
と書かれている
その隣に置かれている渚が描いた『春』が飾られている
『1984年4月16日、最優秀賞。作、渚隼人(はやと)』
と書かれている

渚M 「五年前、心から愛した人がいた」



・展示館

出口に向かって歩いている渚

渚M 「あの別れの日から、彼が今どこで何をしていて、元気でやっているのかも俺は知らない」

渚M 「彼はもうここには戻らないと言った。それなのに、俺は夏がくるたびに、彼のことを思い出す。あの指先の体温を、あの力強い腕の感触を、あの、美しい目を──」



・展示館前

正面玄関から外に出る
夏の厳しい日差しに空を見上げる渚

渚M 「終わったはずのこの思いは、五年経った今でも、ずっと宙を舞って地に足をつけられないでいる」

セミの声

渚  「……」

道の先の陽炎が舞う中
春の姿を見る

渚M 「あの日から一度も忘れたことなんかなかった──」



・会場裏

生徒A「それで幻まで見たってわけですか」
渚  「いや、まぁ、そうだけど……」

生徒A、その他生徒二人、渚が座っている

生徒B「夏の暑さにでもやられたんじゃないですか?今頃になって現れますかねぇ」
渚  「俺だって…」
生徒A「せんせの気持ちも分からんでもないですよ。この五年間、正直見てられなったし」
渚  「……」
生徒C「でもなぁ。私分からないんですよねー。どうして二人とも好きだってのに、別れなきゃなんないのか…。私だったら待っててって言うな。だって先生待ってるって言ったんですよね?」
生徒A「ちっちっちっ。分かってないなぁ」
生徒C「えぇ?」
生徒A「あたしもね、あの直後はそう思ってたよ。あの時せんせに言ったもん、どうして追いかけなかったんですかって。それほど好きなら全部捨ててでも追いかけるべきだって」
生徒C「やっぱり」
生徒A「うん。でもね、それって違うんだよね。というか、永久春には頭上がらないわ。今の歳になってやっと分かった」
生徒C「どういう意味ですか?」
生徒A「永久春も心の奥底では先生を連れ去ってでも行きたかったんだよ。でもそれは絶対出来なかった」
生徒C「うーん」
生徒A「まだ自分は成人もしてない子供で、今は認められてても、この先どうなるかわかんない。ましてやまったく安定なんかしてない道だよ。そんな道を行く自分にせんせにすべてを捨てて付いてきてなんか言えなかった。あたしがその頃だったら何も考えずにきっと付いてきてって言ったよ。あれだけ実力あればせんせの一人や二人養ってやる!って思ったと思う。でも永久春は大人だったんだろうね。それにせんせもね」
渚  「……」
生徒C「なるほど……。あーでも私にはまだそんなこと考えられないなぁ。やっぱり好きな人とはずっと一緒にいたいし…」
生徒B「現に今どうしてるかもまったくわからないですしね。イタリアの賞に名前も出ない。音沙汰なし。生きてるかどうかもわかんない」
渚  「そういうこと言う?」
生徒B「でも先生幻みたんでしょう?」
渚  「うーん……」

渚M 「たしかにそうだ。彼はあれ以来、本当に生きているのかも分からないほど消息不明になってしまっている。元気でやっているのか…それとも…」

生徒A「せんせ分かりやすいから見てるこっちが辛くなってくるんですよ。せっかくこんな大きな個展開けてるんですからもっと元気にしてくださいよね」
渚  「いや、俺はそんなにわかりやすくないと思うよ?君が鋭いんだ」
生徒A「えぇ!?何を言ってるんだかこの人は!あのデッサンの授業中のせんせ見てたら誰でもわかりますよ…」
生徒B「そんなに分かりやすかったんですか?」
渚  「そんなこと──」
生徒A「分かりやすいもなにも垂れ流しだったよ。目が違うもん目が!それにあのデッサンは別格だった」
生徒C「あぁ!私もそのデッサン見たことあります!あの事務室に飾ってあったあれでしょう?びっくりしました私も」
生徒A「あたしこれでもせんせのファンだったんですよ?あの時から言ってたじゃないですか。あのデッサンはホントに愛がこもってたもん」
渚  「……」

照れている渚
そこへ生徒Dが入ってくる

生徒D「うぃっす」
渚  「おぉ、久しぶり。君も来てくれたんだ」
生徒D「そりゃ先生の個展ですもん。来ますよ。でも先生の絵ってどうしてだかこう、エロ本見てるような気分になるんですよね…」
渚  「どういう意味だ…」
生徒B「あ、それ私も分かります」
渚  「なっ…今回ヌードはメインしかないぞ」
生徒D「いや、そうじゃなくてね。なんか色気があるというかなんというか…。そんなことより、あのメインの『時枷(ときかせ)』あのモデルって誰なんですか?」
生徒A「あ、それあたしも知りたかった!」
生徒C「綺麗ですよね…あんな男性見たことないです」
渚  「え?気づかなかった?君たちも多分知ってると思うけど…」
生徒B「?」
渚  「哉家俊祐(かないえしゅんすけ)なんだけ──」
生徒全「哉家俊祐ぇ!?」

全員立ち上がる

渚  「あ、あぁ…」
生徒D「あ、あの…あの服飾科の……帝王…が…」
生徒A「あたしでも知ってるよ!」
生徒B「確かに綺麗だけど!」
生徒C「あの人があれ!?」
渚  「そんなに…?」
生徒全「もう一回見てくる!」

生徒全員会場へ出て行く

渚  「騒ぐなよ……」



・会場

一番奥に飾ってある『時枷』
裸で横たわっている俊祐が描かれている
目は黒い布で隠されている
その絵を囲っている生徒全員

生徒A「まさかこれが…」
生徒D「あの哉家…?」
生徒B「あの人こんな顔できるんだ…」
生徒C「綺麗ー…」
俊祐 「そんなに俺が珍しいか」

全員振り返る

俊祐 「どうでもいいからさ、先生どこ?」
生徒全「……」



・会場裏

生徒A「食ったの…?」
渚  「えぇ!?何を!?」
生徒A「せんせ…永久春のこと忘れられないとか言っておいてちゃっかり…」
渚  「ど、どういう意味だよ!」
生徒A「だってせんせ、モデルに手を出す──」
渚  「人聞きの悪いこと言うな!」
俊祐 「へぇ、やっぱり忘れられないんだ?永久のこと」

どかっと座っている俊祐

渚  「……」
生徒A「あぁ、なるほどね。でも残念だったね!」

生徒A、俊祐の肩に手を置く

生徒A「せんせがただのバイだったらあんたにも望みあっただろうけど、永久春を忘れない限りこの人のことは諦めた方がいいよ」

肩をポンポン叩く

俊祐 「大きなお世話だ」

手を払う

生徒B「まぁでも、幻見てるようじゃねぇ…」
俊祐 「へぇ、幻ね…」
渚  「な、なんだよ…」

俊祐、笑う

俊祐 「俺さっき見たよ。その幻とやらを」
生徒全「えぇ!?」
渚  「ホントに?どこで?」
俊祐 「ここで」
生徒A「み、見間違いじゃないの…?」
俊祐 「俺が見間違うはずねぇよ。こんなに覚えてる男あいつしかいねぇ」
渚  「嘘だろ?」
俊祐 「疑うんなら見てくれば?いけ好かないことにしっかり記帳もしてやがったぞ」
生徒A「せんせっ…」
渚  「っ──」

渚、出て行く

俊祐 「……」



・会場

来客帳簿を見る渚

渚  「……そんな…」

春の名前を見つける

渚M 「名前を見ても信じられなかった。でもあの時と同じ字で書かれているこの名前が、彼の手で書かれたのだとしても、どんな顔して会えばいいんだ……。終わらせたはずの気持ちを引きずったまま、彼には会えない…」



・居酒屋

渚、俊祐、生徒Aが飲んでいる

生徒A「でもさぁ、戻って来たってことは、やっぱりせんせ迎えに来たとしか思えないね。あたしは」
俊祐 「そうかぁ?いくらあっちに住んでてもいろんな用事あるだろうが。あいつがもう戻ってこないって言ったのは、先生のところにってことだろ?」
渚  「……」
生徒A「あんたねぇ、あたしはあんたの二個先輩なのよ〜?話し方に気をつけなさいよ」
俊祐 「はいはい」
生徒A「なっ!やっぱりいけ好かない奴なのよあんたは!いくら売れてるからって!」
渚  「まぁまぁ…」
生徒A「せんせもせんせですよ!五年もうじうじ考えてるほどなら会いに行けばいいじゃないですか!会いに行ってやっぱり友達だって言われたら諦めなさいよ!」
俊祐 「先生、この女どうにかしろよ…」
渚  「いやぁ…ははは…」



・居酒屋

生徒A寝ている

俊祐 「そんなに永久のこと好きだったの?」
渚  「……うん…」
俊祐 「そりゃそうだろうな、好きじゃなかったら男になんか手出さねぇか…」

俊祐、煙草に火をつける

俊祐 「俺あいつのこと大っ嫌いだった」
渚  「え…?」
俊祐 「大学入って初めてすげぇと思った奴だった。大学のインフォメーションに展示されてた人形がすっげぇ綺麗な服着てたんだよ。それ作ったのがあいつだって知って、どれだけ凄い服飾の先輩なんだって思ってた」
渚  「あぁ…そういう…」
俊祐 「そうだよ。そしたらどうだ。服飾専門じゃねぇって。なんでだよって思ってさ。悔しかったな」
渚  「俺も絵では勝てなかったよ。はははっ」
俊祐 「知ってるよ。『青空』だろ?」
渚  「知ってたのか」
俊祐 「あの頃俺は嫌いで嫌いで仕方なくてあいつの情報ならなんでも知ってたんだよ」
渚  「それって……」
俊祐 「馬鹿なこと言うなよ?」
渚  「……」
俊祐 「あの頃の俺、あの人形の服を超えることしか頭になかった。肝心の服飾科の先輩に超えたいと思う奴なんかいなかったからな」
渚  「だから帝王……」

俊祐、渚を睨む

渚  「ごめん…」
俊祐 「今でも忘れないよ。あんな綺麗な服。忘れたくても忘れられねぇ。俺はそれだけを見て服を作り続けてたんだ。でも一番いい賞を貰ったって嬉しくなかった」
渚  「……」
俊祐 「どうしても超えらんなくてさ。なんでなんだって。周りは褒めてくれるのに、俺の中では納得いかねぇんだ。あの人形には適いもしない」
渚  「うん」
俊祐 「それであの『渚』だよ。悩んでる俺にまだ追い討ちかけんのかって。ビックリして笑った」

煙草を吸いながら笑う俊祐

俊祐 「あんな綺麗なドレス見たこともねぇ。それになんだよあの幸せそうな表情。あれ全部あいつが作ったなんか信じられねぇよ。どんだけ天才なんだよってな」
渚  「あぁ、彼も自分の才能を恨んでるって言ってたな」

笑う

俊祐 「それなのに、いつの間にかいなくなってんだもん。追い求めるもんも何もなくしてさ。どうしていいかわかんなかったな、あの頃」
渚  「あ、俺知ってるよ。あの頃の君のこと」
俊祐 「えぇ?」
渚  「君のお姉さんに聞いたよ。弟がどうしようもなく暴君になりそうで怖いんだって」

笑いながら話す

俊祐 「クソ姉貴…」
渚  「あの歳であんな才能開花されちゃ姉としてどうすればいいかわかんないってさ」

微笑む渚

俊祐 「……」
渚  「君は彼のお陰で成長していってるんだよね。驚くほど」
俊祐 「……」
渚  「でも俺は分からないんだ。あの後夢だった賞を手にして、今でもこんな風に個展だって開けてる。講師をしながら仕事だってもらえてるけど、それでも成長できたのか分からない。どこかでやっぱり彼のこと考えてて、今になってあの時言えなかった言葉を言いたくてしかたないんだ……」
俊祐 「……」
渚  「前を見て進もうとしてるのに、足を出しても後ろにしか進まない。ずっと同じところで足踏みしてて、どこにも進んでいけない」

俊祐、煙草を吹く

俊祐 「なぁ、先生」
渚  「……」
俊祐 「俺今でも永久のこと好きじゃないよ。まだ超えられてねぇし、それにちゃんとあいつと闘ってもねぇ。一人相撲のまんま。それにきっとこのままだったらずっと負けることになるから教えてやるよ」
渚  「え?」
俊祐 「今日、あの『時枷』の前であいつを見た」
渚  「……」
俊祐 「他に誰もいなくて、俺声かけてやろうかと思ったけど、かけれなかった。すっげぇ悲しい目してんの。俺あいつのあんな顔見たことない」
渚  「……」
俊祐 「そしたら俺に気が付いてさ──」



・会場(回想)

『時枷』の前にいる二人

春  「君……」
俊祐 「どうも…」

春、微笑む

春  「このモデル、君でしょう?」
俊祐 「あ、あぁ…」
春  「凄く綺麗だね」
俊祐 「そりゃどうも」
春  「ふふっ、それじゃあ僕はこれで」

去っていこうとする

俊祐 「待てよ!」
春  「?」

振り向く

俊祐 「会っていかないのか…?先生に」
春  「……」
俊祐 「今日来てるって」
春  「……」
俊祐 「……会えないんなら、せめて名前だけでも残して行けよ。それくらいできんだろ」
春  「…そうだね」



・居酒屋

俊祐 「で、俺が名前書かせたわけ」
渚  「……」
俊祐 「あいつ、今でも先生のこと好きだよ」
渚  「……」
俊祐 「なぁ、先生。会いに行けよ」

渚、俯いて首を振る

渚  「違うよ。彼はきっと俺のことを思って会わなかっただけだ。俺が情けないこと知ってるから」
俊祐 「はぁ…。じゃあもう忘れろよ」
渚  「……」
俊祐 「うじうじして、忘れることも出来ない。五年だぞ、五年。ずっとこんな調子で、後ろばっか見て。今会いに行かないなら一生そうしてればいい」
渚  「……」
俊祐 「俺が忘れさせてやろうか?」
渚  「え…?」

俊祐、渚の腕を引き、押し倒す

渚  「ちょ、ちょっと!哉家!」
俊祐 「先生、溜まってるだけじゃねぇの?だからさ、あいつのことばっか考えてんだよ。そんなによかったの?あいつとのセックス…」

耳元で囁く

渚  「哉家!やめっ──」
俊祐 「俺が忘れさせてやるよ…な?」

キスしようとする

渚  「や、やめろ!嫌だ!」

渚、泣く

俊祐 「……」
渚  「そんなんじゃない……俺は、ホントに…春のことが好きで…会いに行ってもし…なんでもない顔されたらどうすればいいんだよ…それこそ…俺……」
俊祐 「はいはい」

起き上がり、渚の手を引いて起き上がらせる

俊祐 「分かってるよ。なんもしねぇって。泣くな」
渚  「かな…いえ…?」

渚の頭をぽんぽん撫でる

俊祐 「それだけ好きなら永久に言ってやれって。あんな顔して俺の絵見てる奴があんたのこと好きじゃねぇわけねぇ。な?」
渚  「……でも…」
俊祐 「それにいつ日本からまた居なくなるかしんねぇぞ?会うだけでも行って来いよ。それとも先生は別れた奴とは完全に縁切っちゃうタイプ?」
渚  「そんなことは…」
俊祐 「なんかあったら慰めてやるよ」

俊祐、笑う

渚  「……分かった…」
俊祐 「よし!んじゃこの女家まで送ってくか!」
渚  「うん」

笑う

俊祐 「それにしても本気で寝やがって…おい、起きろ」
生徒A「う〜ん……」
俊祐 「ったくしょうがねぇな…」



・街

夜中の道を歩いている二人

俊祐 「あの天才野郎も何考えてんだかなぁ…」
渚  「え?」
俊祐 「俺があいつなら、有無を言わさず連れ去っていくんだけどな」
渚  「そう?」
俊祐 「あーでも、こういうところの違いなのかもなぁ。俺があいつに追いつけないのは」
渚  「君がそんなに彼のこと根強く思ってるとは知らなかったな」

笑う

俊祐 「あー……」
渚  「ん?」
俊祐 「俺先生に偉そうなこと言える立場じゃねぇじゃん…」
渚  「えっと…」
俊祐 「俺も結局あいつの影に怯えてんだよな。もういない背中追っかけて、一人で鬼ごっこでもしてる気分だ…」
渚  「君はそうやって成長してきたんだろ?知ってるよ。今度ブランド立ち上げるんだって?」
俊祐 「なっ!」
渚  「秘密だった?」
俊祐 「…姉貴だな……」
渚  「君がモデルになってくれてやっぱり正解だったな」
俊祐 「それはどうも…」
渚  「そういえばさ、皆気がつかなかったんだって。あれ。そのまま君なのに」
俊祐 「馬鹿じゃねぇの?俺でも気づかねぇよ!」
渚  「えぇ?どうして?」
俊祐 「はぁ……。俺先生にも勝てる気がしねぇ…」
渚  「え?」



・自宅

電話の前に立っている渚

渚  「……」

渚M 「あの時見たのはやっぱり幻だったんじゃないかと何度も思った。なんて言えばいい?元気だった?何してた?俺のこと覚えてる?時間はただただ、過ぎるだけ。頭の中には馬鹿みたいな言葉が回る」

電話が鳴る

渚  「!は、はい!もしもし?」
俊祐 『先生?出んの早っ』
渚  「あ、いや、丁度前にいたから…」
俊祐 『ふーん。で?電話したの?』
渚  「今から…しようと…思ってて…」
俊祐 『あーなんだ。じゃあ切るわ。頑張れ』
渚  「あー!待って待って!」
俊祐 『何?』
渚  「な、なんて言えばいいと思う…?」
俊祐 『なーに、そんなことでずっと悩んでたのかよ。別に何でもいいんじゃない?個展見に来てくれてありがとうとかさ』
渚  「あ、そっか。そうだね。あとは?」
俊祐 『はぁ…。先生』
渚  「う、うん?」
俊祐 『俺の伝言あいつに伝えるわけじゃねぇんだから。あんたが言いたいこと言えばいいよ。会いたいって言えば?』
渚  「い、いきなりそれ言うのか!?」
俊祐 『じゃあ何のために電話するんですか…。会いたくてしかたないんだろ?』
渚  「ぅぅ……」
俊祐 『あいつに最後、何言われたのか覚えてる?』
渚  「……愛してる…」
俊祐 『ハハハッ!あぁー聞くんじゃなかった』
渚  「えぇ…?」
俊祐 『大丈夫だよ。安心しろ。っつかさ、永久は先生が落ち込むようなこと言う奴だったのか?違うだろ』
渚  「うん…」
俊祐 『だから胸張って電話してみろって。俺ずっと待っててやるから、なんかあったら電話して?すぐに行って慰めてやるからさ』
渚  「…うん…ありがとう…」
俊祐 『あー俺絶対馬鹿だ。なんであんな奴の手助けしてやってんだか』
渚  「え?どういう──」
俊祐 『まぁいいや、んじゃ頑張れよ。じゃーな』

切れる

渚  「え?哉家?もしもし?」

切れた受話器を見て首をかしげる

渚  「……」
渚  (よし!頑張れ俺!何も告白するわけじゃないんだから!)

頬を叩いて番号を押す
呼び出し音が鳴る

渚M 「機械音が耳元で響く中、この時間がずっと続くような気がしてしかたなかった。もう帰ってしまってるんじゃないかとか、もしかすると出てくれないんじゃないかとか。そんなことばかり考えていた」

春  『はい。永久です』
渚  「あ、あのK大の──」
春  『先生……?』

渚M 「あの懐かしい声が耳元で響く」

渚  「あ、あの!えっと……」

渚M 「頭の中が一気に真っ白になって、せっかくアドバイスしてくれた哉家の言葉もどこかに飛んで行った」

春  『ふふっ』

渚M 「控えめに、俺を笑うあの声を聞いた途端、すべてが甦って目の前が一気に滲んで見えた」

春  『先生。お久しぶりです。元気でしたか?』
渚  「う、うん。元気だったよ。その、君は?」
春  『えぇ、元気でやってます』
渚  「そうか…よかった…。あの…」
春  『はい』
渚  「昨日は来てくれてありがとう」
春  『いえ。とても素晴らしかったです』
渚  「そ、そうかな…」

照れる渚

春  『……』
渚  「……」
春  『先生?』
渚  「は、はい」

渚M 「姿が見えなくてよかった。目の前に、彼がいなくてよかった」

春  『会いたいな』

渚M 「必死になって抑えた震える声は、君にはばれずに済んだだろうか」

渚  「俺も…」

渚涙を零す



・バー

カウンターの隅に座っている二人
春、静かに飲んでいる
渚その隣で固まっている

渚  (ど、どうしよう…)



・街(回想)

待ち合わせをしていた二人
駅前の街路樹の下に春が立っている
それを見つけた渚

渚  「……」

渚M 「五年という歳月はこんなにも人を成長させてしまうのかというほど、彼の変貌は俺を驚かせた」

渚  「は、春。ごめん。待った…?」
春  「先生。お久しぶりです。今来たところですよ」

微笑む春
渚、それをぼけっと見る

渚M 「彼のあの美しさは大人の落ち着きを加え、もう見たこともないほどで。街を行く人々が何度も彼に振り返った。とんでもない人だったんだと、再認識させられた」



・バー

渚  (俺も老けたってことだ……どうしよう…絶対残念に思われてるっ…)

青くなる渚

春  「ふふっ。先生?」
渚  「は、はい?」
春  「先生は変わりないですね。あの頃のまま」
渚  「えぇ!?そ、そんなことないよ…五年も経って、ふ、老けただろ?」
春  「いいえ。やっぱり先生は若く見えるんですよ。あの頃言ってたじゃないですか」
渚  「あ、あぁ…。まぁ、ガキ臭いってよく…」
春  「いや、やっぱり変わったかな?ふふっ」

春、渚を見て笑う

渚  「そりゃ…俺ももう三十超えて…」
春  「違いますよ。あの頃よりなんだか幼く見える」
渚  「え?」
春  「今の恋人のおかげかな」

春、渚を見ずにグラス片手に言う

渚  「こ、恋人?」
春  「えぇ、あの絵の中の」
渚  「か、哉家!?ち、違うよ!哉家とはそういうんじゃ…」
春  「ほんとに?」
渚  「ほんとに!」
春  「そう。僕はてっきりそうだと」
渚  「違うよ。彼とは親しくさせてもらってるけど、別にそういうんじゃない…」
春  「へぇ…」

渚、春の方を見る

渚  (な、なんか…怒ってる…?)
渚  「あ、あの!その…」
春  「ん?」
渚  「日本にはどうして?」
春  「あぁ、両親に呼び出されたんです。帰ってくるつもりは無かったんですけどね」
渚  「え?あ…そう、だよね…」

渚M 「やっぱり俺だけが舞い上がってたんだとこの時はっきり分かった。自分のこの馬鹿みたいな感情が、急に恥ずかしくなって、できればもう彼の前からいなくなってしまいたかった。いまだにずるずる引きずってたのはやっぱり俺だけだった──」

春  「……」
渚  「いつまでいるの?」
春  「どうでしょう…。まだ分かりません」
渚  「そうか…」

渚、テーブルの上のグラスを両手で持って
それだけを見ている

春  「……」

渚M 「ふと、隣に置かれた彼の手を見て思う。あぁ、もう本当にこの指に触れられることは無いんだろう。あの優しいするりとした指先で、他の誰かに触れるのかと思うと嫉妬心でどうにかなりそうだ……。あの時すべてを捨てて行けばよかった。そしたらこの手はずっと俺のものだった。後悔ばかりが俺を包む」

渚  「ごめん、ちょっとトイレ…」

渚、席を立つ
春、後姿を見送る

春  「……」

テーブルに肘をついて
髪をくしゃっと掴み、ため息をつく



・トイレ前

涙目でトイレへ行く渚

俊祐 「先生?」

トイレから俊祐が出てくる

渚  「か、ないえ…?」

渚、涙を拭いて笑う

渚  「なんだ、君も来てたんだ」
俊祐 「先生、なんで泣いてんだよ」
渚  「ううん。なんでもないよ。少し酔ったから…」
俊祐 「そんな顔してなんでもないわけねぇだろ。永久も来てんのか?あいつに何か言われた?」
渚  「……」
俊祐 「先生」

俊祐、渚の腕を取り壁際へ寄せる

俊祐 「慰めてやるって言ったじゃん。俺に話してよ」
渚  「……」

渚、涙を零す

俊祐 「先生…」
渚  「や、やっぱり…今でも好きなのは俺だけだったんだ…」
俊祐 「そんなはず──」

渚、首を振る

渚  「帰ってくるつもりなかったって……言った…。やっぱり電話したのも迷惑だったんだよ。彼は俺に会うつもりも無かったんだ。俺だけ、気持ち引きずって…今でも…」
俊祐 「……」
渚  「こんなだったら…会わなきゃよかった……はっきり、分からないほうがよかった…夢見てる方が……」
俊祐 「先生…」

俊祐、渚の顎を持って上を向かせキスをする

渚  「─!っ……ん…っ」
俊祐 「もういいよ。忘れろよあんな奴。俺が一緒に居てやるから」
渚  「か、ないえ……」

もう一度キスをする

渚  「ふっ…ん…ちょ、ちょっと…やめっ」
俊祐 「俺はあんたを一人になんかさせないよ」
渚  「んぅ……っ…」
春  「先生…」

春が来る

渚  「!春!あの、これは!」

春、微笑む

春  「遅いから様子見に来たんだけど、彼がいるなら大丈夫かな。僕はこれで失礼します」

春、去っていく

渚  「春!待って!ちがっ──」

俊祐、追いかけようとする渚の手を掴む

渚  「哉家!離して!」
俊祐 「先生。ほんとにあいつでいいの?」
渚  「っ…」
俊祐 「……ごめん。分かってる。ほら、行けよ」

手を離す

渚  「哉家…。ごめん。ありがとう」

渚、春を追いかける
俊祐、後姿を見送ると、壁伝いに座り込む

俊祐 「あーあ。なーにしてんだよ……俺。くそっ…」



・街

渚  「春!待ってくれ!」

渚の声を聞かずに歩く春
走って行き、春の手を取る

渚  「春…話を…」
春  「……」
渚  「あの…」
春  「離してください」
渚  「でも──」
春  「やっぱり変わりましたね。先生」
渚  「え?」
春  「前はこんな嘘つく人じゃなかった…」
渚  「嘘?嘘なんか─」
春  「彼とキスする仲なんでしょう?」
渚  「違うんだよ!ホントに彼は友達で!」
春  「ふっ」
渚  「春…?」
春  「やめましょう」

渚の手を取って腕を離させる

春  「これじゃあまるで痴話喧嘩だ」
渚  「……」
春  「僕達、もうそういうんじゃないでしょう?」
渚  「っ……」

俯く渚

春  「先生が誰と愛し合っていようと、僕に何か言う権利はない」
渚  「……」
春  「先生だって、僕に言い訳なんかする必要ないんですよ」
渚  「……」
春  「僕達は五年前のあの日に終わってしまってるんだから」
渚  「っ……」
春  「……」
渚  「…終わって…ない…」
春  「…え?」

渚、泣いている

渚  「あの日から、終わらせようとずっと努力してきた。でも夏が来るたびに、君のこと思い出して、恋しくて、しかたなかった。君を忘れることなんか…少しもできなかった…」
春  「……」
渚  「今でも…俺はずっと君が好きなんだ…」
春  「……」
渚  「ごめん…ごめんなさい…。でも、迷惑はかけないから。もう君に電話だってしないし、会いたいだなんてことも言わない。でも、これだけは…君を好きでいることだけは…許して欲しい…」
春  「……」
渚  「じゃあ、帰るよ。迷惑かけて本当にすまなかった。元気で、頑張ってくれ」

渚、泣き顔で必死に笑う

渚  「さようなら」

背を向けて去っていく

春  「……」

渚M 「最後の顔が困った顔だなんて、それならやっぱりあの時のままの方がよかったのにな。愛してると言ってくれたあの愛しい彼はもう俺には思い出す資格さえも無くなったんだ。こんなことなら──」

渚、歩きながら泣いている

渚  「っ…ぅぅ……っず…」

腕を引かれ、抱きしめられる

渚  「……」
春  「さよならなんか…言わないでください…」
渚  「は、る…」
春  「ずっと我慢してたのに。僕が言えるわけないでしょう」
渚  「……」
春  「勝手に終わらせたのは僕だ。そんな僕にまだあなたのことを忘れられないと言う資格はあるんですか?」
渚  「うそ……」
春  「嘘なもんか。今日だってあなたに触れたくてしかたなかったんだ。それをずっと我慢してたのに、あなたは他の男とキスしてるんだから。初めて人を殴りたいと思いましたよ」
渚  「夢見てるのか?」

渚、春の胸を押して離れる

春  「信じてくれないんですか?」
渚  「だって…こんな夢みたいなこと…夢でしかありえない…」
春  「ふふっ、じゃあもう夢の中ででいいです。あなたにもっと触れていたい…」

もう一度抱きしめる

渚  「春……」
春  「先生、キスしてもいいですか?」
渚  「そっそういうことは……」
春  「だって他の男にされたままだなんて、いくら僕でも我慢できません」
渚  「〜〜〜〜っ…」
春  「ね?照れてないで」

春、渚に上を向かせる

渚  「あ、あの…じゃあ…うちに…」
春  「はい。じゃあ行きましょう」

手を取ってさっさと歩き出す春

渚  「は、春!?」



・自宅

入ってくる

渚  「掃除しとけばよかったな──」

扉を閉めると同時に渚を壁に押さえつけキスをする

渚  「んぅ……っ…は、る…」
春  「なに……」

抱きつく

春  「先生」
渚  「何度も夢に見たんだ。君にこうして触れられることを。何度も何度も。この五年の間、気が狂うほど君が恋しかった。今でもまだ信じられない……」
春  「先生。泣かないで」

上を向かせて涙を拭い微笑む

春  「ごめんね。でも許してください」

渚を抱きかかえる

渚  「うわっ!は、春!?」
春  「今から五年分愛してあげるから」
渚  「なっ!」



・自宅

ベッドでキスをしている二人
渚の服を捲り上げて胸にキスをする春

渚  「んっ……」
春  「……」

動きを止める

渚  「は、春…?」
春  「先生、彼とはホントに何もしてないんですか?」
渚  「えぇ!?何って──」
春  「何ってナニですよ。あの絵を描いた時、セックスしたんですか」
渚  「〜〜〜っ」

渚、両手で顔を隠す

春  「先生!?」

焦る春

渚  「なんで皆そんなこと考えるんだ…俺がモデルに手を出したのは君が最初で最後だ!」
春  「……」
渚  「なんだよ、信じないって?それにあの時は君が誘ったも同然だぞ!?いくら俺がヌードデッサン得意だってもセックスしたくてやってるわけじゃないんだ…」

拗ねる渚
言葉をなくしている春

渚  「まだ信じない?俺女の人にも手出したことないよ?」
春  「……」

春、額を押さえて顔をそらす

渚  「春?」
春  「いや…あの…嬉しくて……」

渚、笑う

渚  「君って時々凄く可愛くなるよね。アハハハッ」
春  「笑わないでください」
渚  「ねぇ、キスしてよ」

春、鼻でため息をつくとキスをする

渚  「んっ……」
春  「キスもしてないんですか?」
渚  「あ……いや…その…」
春  「はぁ……したんですね」
渚  「えっと……」
春  「まぁしかたないから許します。先生だって男だし、あんなに可愛い子に迫られれば断れませんよね?」
渚  「そんなことっ!それにあれは──」

春、キスをして言葉を塞ぐ

渚  「っ…んぅ……はぁ…」
春  「今は僕のことだけ考えてて」
渚  「君が…言い出したんだろ…」
春  「ふっ、じゃあ僕のことも考えれないようにしてあげますよ」
渚  「なっ……!」

春、意地悪く笑うとズボンと下着を一気に脱がせ
渚の左足を持ち上げ口付ける

渚  「そ、そんなとこっ…汚いから……んっ」
春  「あなたに汚い場所なんかありませんよ…」

足の指を口に含み舐める

渚  「ぁっ……そんなっ…ん…だめ…」

渚、足を閉じようとするが
春に阻止される

春  「ふふっ、先生。何隠してるんですか」
渚  「だ、だって…ぅぁっ……ん…」
春  「こんなところ舐められて興奮するんだ?」

春、足で渚のものを触る

渚  「あぁっ……だめ、やだっ…」
春  「何がだめなんですか?足舐められてこんなにしてるのに」
渚  「ちがっ…!だって……ぁぅ…」
春  「ねぇ、ほら。気持ちいいの?」

渚の足を舐めながら足で強く擦る

渚  「んあぁっ…だめ、だって…つよ、い……」
春  「先生は足舐められるだけで、こここんなに濡らしちゃうんだ?もうイきそうなんでしょ?震えてるよ?」
渚  「あぁっ…やだ…っ…ん……なんで…?いじわる…なのっ……んぁっ……はる…」
春  「さぁ?」
渚  「やだっ…ほんとに、もう…だめっ…」

渚を触っていた足を離す

渚  「んっ……な、んで…?」
春  「まだ駄目ですよ…ん…」

舐めていた足を上に向かって這わせていく

渚  「んっ…ぁぁ……あっ、あっ…」
春  「先生、ほんとに足舐めてるだけでイけるんじゃないですか?」

笑う

渚  「そんなことっ…ない……あぁっ…やだ、はるっお願いだから…触って…っ…焦らさないで…っ…」
春  「ふふっ、触るだけでいいんですか?舐めて欲しい?」
渚  「あっ……な、なめて…ほしい……」
春  「じゃあお願いして?」
渚  「……は、はるの…ッ…口で…イかせて……っ…お願い…」

微笑む春

春  「良く出来ました。じゃあ僕の口にいっぱい出して…」

咥える

渚  「ぁっ!やぁっ……んっ…!」
渚  (ひ、久しぶりすぎて……おかしくなりそう…っ…)

後ろに指を入れる

渚  「あぁっ……んぅ…やぁっ…」
春  「ん…せんせ?……ほんとにずっとここに誰も入れてないの?」
渚  「んんっ……ほんと、に……はるっだけ…ッ…」
春  「ほんとかなぁ…」
渚  「や、ぁ、そこ…ッ…だめ…っ…」
春  「ここですか?」
渚  「あぁっ!だめ…もうっ…でちゃう…んっ……」
春  「あなたのこんな可愛い顔みれるのも僕だけなんですか?…ん……」
渚  「あっ…ほんとに……ほんとに、はるだけっ…だよ…あぁっ!だめ…っ」
春  「いいよ…もう…イって……出してください……」
渚  「あ、あ、あっ!んっ…はぁっ……はる、はるっ!……イくっ…でちゃ……っ…んっあぁっ!…あっあっ…あぁ───っ!」
春  「ん……んく……」
渚  「あっ……はぁっ……春……」

春の頭を撫でて引き寄せる
キスをする

渚  「んっ……春…愛してる……」
春  「まだ終わりじゃないですよ」

微笑むともう一度キスをして入れる

渚  「あぁっ……んっ、は、る…ッ」
春  「んっ……キツ……」
渚  「はる……っ…」

渚、涙を流す

春  「…先生……痛い?」

首を振る

春  「どうして…泣くんですか…?」
渚  「…嬉しくて……っ…ん…」
春  「っ──!」
渚  「あっ………はる…?」

渚に覆いかぶさる

春  「最悪だ……」
渚  「え?あの、俺…良くなかった…?」
春  「違いますよっ!」

春、悔しそうな顔をしている

春  「言葉でだけでイくなんか……今まで一度も無かったのに…」
渚  「……」

春、渚からどいてベッドの下に座り込む

渚  「春」
春  「……」
渚  「ハハハハッ!」
春  「笑わないでくださいよ……こんなの……」

渚、寝転がったまま春を後ろから抱きしめる

渚  「春、顔見せて?」
春  「嫌ですよ…こんな格好悪いところ見られたくないです……」
渚  「俺の言葉だけでイってくれるなんて、こんな嬉しいことないよ」
春  「僕はこんなに落ち込んでいるのにですか……」
渚  「なに、五年分愛してくれるんじゃなかったの?」
春  「自信がなくなりました……」
渚  「はははっ、じゃあ俺が五年分愛してあげるよ。ほら、立って」

渚、ベッドから下りて春の前に回る

渚  「お風呂でいっぱいしよ?」
春  「………」
渚  「嫌なのか?」
春  「あーもう…」

春、立ち上がって渚を抱きしめる

渚  「あれ?元気じゃないか」
春  「あなたが可愛い顔してそんなこと言うからですよ。ほら、お風呂でするんでしょ?行きますよ」

渚の手を引いていく

渚  「はははっ!」



・自宅

ベッドで寝ている二人

渚  「哉家のこと…そんなに嫌だった…?」
春  「何を言ってるんですか。僕は嫉妬の塊ですよ」
渚  「えぇ?ほんとに?あの時笑ってたじゃないか…」
春  「言ったでしょう。初めて人を殴りたいと思ったって。その後あの場所であなたを犯してやりたくなりました」
渚  「……」
春  「なんですか?今更嫌いにでもなりました?」
渚  「いや……」
春  「いいですよ。先生が嫌いだって言っても一生離れてあげませんから」

渚、起き上がって春を見る

渚  「君がこんなに可愛いとは思わなかったよ」
春  「それ本気で言ってるんですか?」
渚  「あぁ。本気も本気だよ。前より好きになった」

春、笑って抱き寄せる

渚  「それに君を怒らせると怖いってことは良く分かった」
春  「はははっ。怒ってませんよ?ただ意地悪してあげたくなっただけです」
渚  「なるほどね…」

どちらからとも無くキスをする

春  「先生。愛してる」
渚  「うん。俺も」

笑い合う二人



・自宅

朝食を食べている二人

渚  「あの頃も思ったんだけどさ、君って料理上手いよね。実家暮らしなのに」
春  「そうですか?普通ですよ。こればっかりは」
渚  「いや、君には勝てるものが一つもないな…。弱点が見当たらない」
春  「弱点?」

笑う

春  「弱点ならありますよ」
渚  「それは是非教えてもらいたいな」
春  「あなたのこととなると、僕は途端に駄目な男になるじゃないですか」

何食わぬ顔をして食事を続けている春

渚  「……。そこにどうして俺はつけこめばいいんだ…」

呆れている渚

春  「はははっ。そんなことされると困りますから教えませんよ」
渚  「う〜ん…」
春  「そうだ。先生、明後日の夜にでも会えませんか?」
渚  「明後日?あぁ…金曜か。大丈夫だよ」
春  「あなたにすべて話します」
渚  「え?話すって、何を?」
春  「日本に戻ってきた理由です」
渚  「あ、あぁ……わかった…」

食事を続ける



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