溶ける、 くらいに ーーーー行こう、 そう言って、彼は私の手を掴み、森を駆け出した。読みかけの本もそのままにして、なにも持たぬままに。 はぐれないように手を繋いで、いくつもの街をこえて。不思議な気分だった。自分が自分でないようで、普通の恋人同士のような振る舞いで、こんなにも、ふたりで楽しく笑い会ったのは、何年振りだろうか。 知らない街に来た。ここなら誰もいない、と繋いだ手を離さず、街から街に移動して。夜になってついた街のホテルに入り、部屋に入るなり抱き寄せられた。 ソファの背もたれに身体をどっぽりと埋めてやり、逃げるなと言うように押さえ手をつく。 『だめ、だよ』 口づけしようと迫る彼に力の入らない身体で押し返そうと思ってもが、拘束された腕と脚では敵わなくて。片手で軽々と腕を拘束する細い腕が憎たらしい。唇を避けて身体を動かし抵抗すれば、首筋にキスが落ちてきた。 「なんで?」 『なんで・・・、も・・』 「罪悪感なんて今更でしょ」 唇、首筋、鎖骨。唇が触れる部分が下になるにつれてビクビク身体が跳ねた。白い胸の谷間に、指先を這わされればビクビクとさらに跳ねる。それが気に入ったのか彼は何度もなぞり、耳朶を噛んだ。 「泣かないで」 『・・・っ・・』 「家じゃどこもかしこも監視されてて、会話もろくにできない。折角ふたりきりなんだから、もっと乱れて」 視界が反転して、押し倒されてることに気がついた。頭の中は意外にも冷静で、ギシリ、と軋むスプリングの音でここがベッドだと認識した。頭の上の両手はイル兄に片手で拘束されている。 真っ白のバスローブから除く意外にもしっかりとした身体。漏れるイル兄の黒髪と瞳。顎にしなやかな指がかけられる。 「くち、あけて」 『!』 「ほらはやく」 『む、むりっ──・・ん、!』 口が開いた瞬間に、唇に柔らかい感触が降る。ねじこまれた舌がぬるり、と自分の舌を絡めとる。鼻から息が漏れてしまう余裕を無くす自分とは逆に、イル兄は強弱をつけて責め立ててくる。 『ん、っ・・・』 頬に涙が伝った。しかし、そんなことはお構い無しで止まることはない。くしゃり、と髪の毛をイル兄の指が掻き撫でるのが合図になって、やっと唇は解放された。 うっすらと目を開くと、怪しげに笑うイル兄がいた。 「家じゃ話すこともままならないのに。好きなことできるって最高」 人形めいた整った顔 黒真珠の瞳 サラサラの黒髪 白魚のような美しい指 『・・・・バカ』 「ひどいなあ」 何もかもが綺麗で、ぼんやりと見つめているとクスリ、と笑う声が聞こえた。頬の涙を指先が撫でてくる。軽く触れるだけのキスを落として、またイル兄は笑った。 ×
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