白翼長編 | ナノ



「またここにいた」



また木の下で本を読み耽っていたカンナ。持っていた本を取り上げ、立たせる。昼食を取ったあとすぐに、森に行くと言ってでかけたきり、夕日が出るまで帰ってこなかった。本を取り上げられたカンナは少し残念そうな、でもどこか申し訳なさそうな顔をして、素直に立ち上がる。



「ほら帰ろう」

『・・・あ、あの、ちょっといいかな』

「うん?」

『私の能力を、見せたくて』




地面に山積みになった本の上に、取り上げた本を重ねる。指先に力を込めるようにじっと、見つめて小さな透明の箱が出来ていく。




『指でできたこの箱を・・・』




右手の人差し指に浮き出した一辺15センチほど、小さな箱を。2・3メートル前方へ投げる。カンナが手の平を広げると箱が倍ほどの大きさに拡大された。




『今のところは、このくらいしか拡大できないけれど。練習を重ねるごとに大きくなってるんだ。目標は、人の大きさくらいの箱をつくることなんだけれど』




足元にあった小石を箱に向かって投げると、箱に触れた途端、くぷり、と水の中に静かに沈んでいくように、小石は箱に吸い込まれる。全て小石が入りきると、箱の底にカラン、と音を立てて落ちる。




『こうすれば、・・・!』




ぐっ、と拳を握ると、箱も瞬時に小さくなり中に入っていた小石も圧力に押されて、砕ける。握った手の平を開くと、箱が灰になったように散っていった。砕けた小石だけが、パラパラと地面に落ちていく。




「これが、カンナの能力か」

『あんまり便利な能力じゃないよね』

「そんなことない」

『ありがとう。気に入ってるんだ。なんだか綺麗だし。人が入れるくらいに箱が大きくなれば、敵を閉じ込めたり自分もはいれる。触れた対象物を中に入れることも、逆に中に入れないようにすることもできる。基本的には防護の為のものだから』




話しておきたかったと言うカンナに、なぜかあまりこの能力について聞けなかった。誰に教えてもらったのか、どんなふうに戦闘で使っていたのか。思いつく質問はたくさんあったが、どれも聞かずにとりあえず頭をなでた。

カンナも天使族の一員なのだ。一族の人間は血系により、ある年齢ほどから覚醒が起こると文献に書いてあった。カンナをあの屋敷から連れ出した際に、何冊か文献も遺書に持ち出した。ヒソカの話から聞くに、妹のアンナのほうはクモに出会う前から自己再生機能――――・・治癒能力は持っていたと聞く。しかし、カンナのほうはなにも特殊な能力は持ち合わせていないように見える。

そもそも、双子の妹のカンナが跡継ぎに選ばれたのはなぜだ?




「話してくれてありがとう」

『うん』

「帰ろう、冷えてきた」




やはり一度、妹のほうを偵察にいったほうがいい。わずか10歳であの動きだった。クモの団長に囲われて、さらに磨かれているのならもう少し警戒したほうがいい。

――――アンナを殺したりなんかしたら、きっとイルミのほうが危なくなる。理由なんて、言わなくたってわかるだろ?

ヒソカの言った通りだ。あの旅団の団長の囲われ。そしてなにより、ヒソカのお気に入り。敵が多すぎる。今のところ、アンナがわざわざ出向いて復讐をしようなんて思ってはないようだが、もし出会ってしまったらどうなる?他の団員達が加戦でもしたら、いくらこっちだってただじゃあ済まないかもしれない。

カンナの手を引いて、家にもどるまで最悪のパターンばかり考えていた。

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