白翼長編 | ナノ





悪魔の殺し屋



ーーーーあれに見入られたら全部奪われて何も残らない。親も兄弟も恋人も、どこに隠れてもどう抵抗しても必ずやってきて全部殺して消えちまう

依頼された殺しに失敗はない。悪魔という異名を持ったのは一族の殺人スタイル。

殺しの瞬間をみた者はいない。ターゲットの周辺人物をも皆殺しにする程、全てにおいて誰にもいない。




「それが、オレたち殺し屋に伝わる、カンナの実父に関する噂だった」

「何度も聞いたよ」

「アイツはオレの数少ない旧友の娘だ、わかるな?」




久しぶりに見せた、シルバの威圧感に息が詰まりそうだった。一緒に仕事をしていて彼の殺気に慣れているとしても、本来敵に向けられる殺気が、自分に向けられているとすれば話は別だ。




「―――なぜ針を外した」




グシャリ、と片手で男の頭を握りつぶしたシルバが問う。床に転がった男は、今回の仕事のターゲットだった。




「なあんだ、カンナに針刺してこと、気付いてたんだ」

「あまりカンナを困らすようなことをするな」

「……わかってる」




やりずらいったらない、そうイルミは心の中でぼやいた。




「オレには責任がある」

「…わかってる」




わかってる、わかってる、何度も頭の中で連呼した。言われなくともわかっていた。カンナにしていることの残酷さも、カンナに対する異常さについても。

今はれっきとした仕事中。無差別にビルの中の人間を殺し、頂上にいたターゲットをいま、殺した。登りながら、延々旧友についての話を聞かされ、いまもまだ詮議は続いている。

なぜ仕事中に、とは思うが、ヘタに家の中で話し合って、あの母親の耳に入りヒステリックを起こされては色々と面倒になことになりかねない。二人なりの配慮だった。




「親父も気付いてたはずだ。オレのカンナに対する歪んだ気持ちに。いい兄貴を演じるにも限界がきてた、」

「………」

「もう我慢できない。親父がどういおうと、オレはカンナのことをもらう。どうせ後継者はキルだし何の問題も───……」

「お前を、」

「!」

「お前をオレが殺す、と言えば?」




ガラスがビキビキと音を立てるほどに立った殺気に、鷹に睨まれたように、数瞬、動けなくなった。その言葉に偽りを感じなかったからだ。ゴクリ、と唾を飲んでから、針を指の間に挟む。




「……オレも、自分の身を守る為に殺るよ」




適わない、とはわかっていても引き下がることはできない。



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