それは過去の話 カンナを引き取ることになった、5年前のこと。 「頭に少し細工したの」 頭を弄り機能を糧にコピーを作る、と女は窓の外の娘を見ながら、うっとりとした口調でそう言った。 「もう少し、もう少しであの子の感情を消してあげられる」 「…人を殺すことが辛くなれば自身の生も苦しみに変わり、情は身を滅ぼす。攻撃は最大の防御、あやつが周りの者を全て殺せば、苦しむことも傷付くこともなくなる」 だから感情はいらないのだ、と続けた父親の言葉に迷いは感じられなかった。 ふとシルバは窓の外へ視線を向けた。バラの花弁へ指をのばす娘の瞳に人間らしい光は宿っているように見えない。ぼんやりと曇った硝子のような深緑の瞳で、真っ赤なバラを見つめている。 「少しずつ感情を奪いながら、彼女の未来の婚約者のコピーを作ってるのよ。まだ完全じゃないから、」 「…歪んでるな」 心外ね、と笑ってみせる。いつ見ても妙な雰囲気を醸し出す女だ。女だけでない、古くから知るこの男もどんな時でも掴み所の無い、空気のような存在だった。 「…過保護なのはお互い様だ、文句を言うつもりはない」 「シルバ、君は我の古くからの共。不躾がましいが、一つ願いを聞いて欲しいのだ」 「カンナはいずれ私達を殺す。そうすれば全てが完成するわ。でも私達のいない世界で生き抜く為に、餌がいるの」 「カンナが我らに手をかけた時、双子の姉を保護し、本当の娘として迎えて欲しいのだ。無礼は承知の上、姉の記憶も全て消す準備は出来ておる」 娘として迎える、つまりは養子として引き取れということか。そう尋ねると男は小さく頷いてみせた。 ×
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