いつも身につけている、皺一つない漆黒のスーツ。シルバは数年に幾度か仕事場で出くわすこともあるが、常に闇に溶け込むように依頼をこなすこの男が自分の娘に殺されると言う事を、信じることができなかった。 「私達には時間がないの」 「姉に君の家の殺人教育は必要ない。ただ愛してやってくれ。この屋敷の宝などは売り払ってもらって結構だ」 まるで自分の娘に殺されることを待ち望んでいるように、父親と母親は笑っている。 「君の家の子供達は、様々な拷問に耐えることのできる殺し屋だが、私の子供は殺し≠セけを極めた殺し屋だ」 「………」 「妹の方には、我らの愛情は僅かにも与えていない。姉に嫉妬して生きるように教育してあるからな」 ────歪んだ愛情故に、本当に溺愛している妹へは、わざと愛情を与えず育てる。そして、極限まで追い込んで、感情をなくさせる。 感情があれば、任務に支障をきたす。殺しが辛くなれば、精神的にも肉体的にも辛くなるから。辛い思いをさせないよう、感情をじわじわ殺させているのか。 「やっぱり歪んでるな」 「お互い、だろう」 「まあな」 ───しかし、わざと「愛しているように」育てたのが姉の方。ただ妹の方が、これを憎むようにつくられたエサ。 ある意味、姉の方が可哀想なのかもしれないな。偽りの愛を与えられ続けて、それを知らずにいままで生きてきたとは。 「オレもお前には昔から世話になってきた。その願いは、叶えてやるよ」 「シルバ、君には心から感謝する」 殺人依頼は必ず成功させ、その冷酷で残虐な殺しから、悪魔の異名を持つ男。 殺し屋としての名はないが、念能力に関してはかなりレアで、長けた腕を持つ女。 その血を引く二人の娘。 案外面白いかもしれない。こちらの部屋を、窓の外のから伺う娘を見つめ、シルバも薄く笑った。 ×
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