黒翼長編 | ナノ




秒間
の傲慢





横たわる君も救えないのか。嗚呼、僕の右手は霞むばかり






40.2度

今時古臭い水銀の体温計の刺した目盛りを見て、白衣を着た老人は溜め息を漏らす。




「極度の不眠症が影響してるのかも知れん。精神的なモンじゃから何とも言えんが」




普段から睡眠が浅く、常時神経を使うような生活をしている振り返しが原因ということ。それが念を使う反動が引き金となるのかも知れない。


「あの屋敷の御嬢さんは、まるで人形のようだった。みない間に、こんなに大きくなられていたとは」





使い込まれた医療器具を黒いバックに詰めながらクロロを見た。今日は髪を下ろし、額を隠すように布を巻いて一般人の格好をしている。




「ワシを殺さんのか?」

「‥…ああ」

「変な奴じゃ」




呆れたように老人は呟く。連れてきたのはやり手の闇医者。




「‥…あの屋敷へ入ることを許されていた人間はワシ含めて数人だけじゃった」

「ほかの人間は?」

「さあの、ワシは運よく生き延びておるだけ。このお嬢さんは昔からの患者。悪いが針が通らん以上、手の尽くしようがない。起きるのを待つだけじゃ」

「そうか、」




もう5日も目を覚まさない。一向に下がる事のない高熱は今日になってやっと落ち着いた。立ち去ろうとした医者に軽く頭をさげると呑気にヒラヒラと手を振られた。




「まさかもう一度会うなぞ思いもせんかった、悪いことは言わん。あまり深入りすることは薦めん」

「悪魔の娘、だから?」

「あの屋敷に一度でも入ったことがあるならば、そう思うさ」




あの屋敷の中は異様だった、とつぶやく医者の手は、微かではあったが震えているように見えた。

目を覚ました時の為に、と置いていった錠剤。彼女の額に置かれたタオルはもう熱くなっている。パクノダは黙って洗面器に浸し、冷たくなってから被せた。





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