アンナが蜘蛛になった日、飛行船の中で突然意識を失った。原因はわからず只目を覚ますのを待つしか無い。 「不思議」 「‥…何がだ、」 アンナの額の汗を拭いながらうつ向いたパクノダがポツリ、と呟く。 「私は彼女に触れただけで記憶が逆流してきた。ありえない程に鮮明で、明確な」 パクノダが見たのは残虐な後継。只、殺して、殺されるだけの無惨な人間の姿。その中心で小さなナイフで冷酷に相手の心臓を突き刺す一人の少女。彼女は望んで記憶を見たのではなかった。 「正しかった、のか」 「‥…‥?」 「蜘蛛に入れる事が、本当に正しかったのか。かと言って、コイツは死に方も知らなければ行き場所もない」 「団長、」 けれど、何故か側に置いて置かなければならない気がして。成り行きの判断だったのかも知れない。 「‥…彼女は、」 「‥…‥‥」 「アンナは、いつも光を探していました」 彼女に対して浮かぶ感情は同情と言うより、哀しみや恐怖に近いものだ。この小さな手で数え切れない程の人間を殺めた。きっと彼女は罪の意識に押し潰されているのではないか。 「‥そう、か…」 彼女の小さな手を握り、一刻も早く空が晴れる事を願う。アンナは夜空を眺めるのが好きだ。皮肉にもこの5日間はずっと空は鉛色。 |