『あー、うー』 「はいはい」 作りたてのホットココアをパクノダから受け取りながらアンナは机に頬をべったりとつけて呻いていた。 「今日帰ってくるんだからいい加減あだこだ言わないの」 だって、と拗ねたように口を尖らせるアンナは鳴ることのない携帯をちらちら見て呟いた。 彼はこの一週間、シャルナークと二人でどこかの国の国宝とやらを盗りに行っている。その国宝について長々と説明を受けたけれど、難しすぎてよく覚えていない。ただ、凄い人が作った壷だとしか。 『喧嘩とかで話さなかったのはあるけど、仕事とかで一週間も話さなかったのなんて初めてかもしれない』 普段あまりクロロに対しての愚痴などを周りに口にしないアンナがぶつぶつと言っているのは珍しい光景だった。ましてや会えなくて寂しい、など口にしたことも無かった。それほどに今回は寂しいのだろう。 「意地はらなきゃいいじゃない」 『意地はってない』 「それが意地はってる、って言うのよ」 呆れたようにパクノダはため息をついた。しかしそれは見放したようなものではなく、どこか妹をみるような優しい眼差しを向けている。 『…いっつもならクロロから電話か、最悪一言のメールあったのに』 かかってこないなら、自分から電話してみればいい。そんなことわかってる。けれどあくまでも彼は仕事中だ。もし出てくれなかったら、面倒がられたら、と考えればどうしてもボタンを押すことができない。 「忙しいのよきっと」 『……たいなあ、』 「なあに?」 『…声、ききたいなあ』 思わず漏れてしまった本音とともに吐き出してしまったため息。嘘偽りない本当の気持ちだった。 ───…早く会いたい、声がききたい、抱き締めてほしい、頬をなでてほしい、言い表せないほどに彼を欲している。つくづく、依存しているんだなあ、っとなんだか切なくなった。 「―――――だそうよ、団長」 『へ?』 団長、という言葉に反射的に顔を上げればパクノダが頬杖をついて笑っている。あきらかに自分を通りこしている視線を追って振り向けば、そこにはとても機嫌の良さそうに立っている一人の男。 『クロ…、ロ』 思わず顔がひきつってしまった。まったく気がつかなかった。きっと絶を使って入りこんだのだろう。早く教えてよ、とパクノダに文句を言おうと前を向くと、もう彼女はいなかった。 ───…はめられた…! ← ×
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