俺とロマが出逢ったのは、紛れもない戦場だった。

まだ先の戦争、が起こる前のはなし。その頃から俺は軍人だった。
当時は能力者や、そういうのが認められて、というか、公になっていなかった。だから俺は南軍中央部に勤める有益な軍人で、部下を引き連れ中東の紛争地域へ赴いていた。紛争自体はもう下火で、街に残るのは死体だけのような状態だった。まぁその処理をしに行ったわけだが。

当時の技術であっても、外皮を傷付けず内部を破壊するのは簡単だった。要するに、見た目綺麗に人間を殺す武器やら術があったわけで、国の軍隊やらなんやらは、そういう訓練を一番に受けていた。無論、俺も。
だから、あれほど酷い光景は見たことがなかった。

殺しているのは一般人、殺されてるのも一般人。
武器なんて原始的にも程がある、只の金属ナイフや鉛玉の詰まった拳銃。
地面には血溜まり。密閉された空間ではないというのに、立ち込める硝煙と肉の灼ける匂い。
塵のように、積まれる死体。

余りに信じられない映像で、思わず目を背けた。
吐き気に噎せて目尻に溜まる涙。此処に来た目的なんか忘れて、少しでも気の和らぐ場所を探して歩き出した。でも、何処を向いても死体しかなくて。


ひとりふらふらと彷徨っていたら、初めて人影に遭遇した。

味方も、敵も、誰一人いない中で、唯一の存在。
赤黒く染まった衣服を纏い銀の銃を構えて、凛と立つ、男。女性にも見えた。でも、瞳の鋭さ、冷たさは雄のもの。


彼が対峙している瓦礫の下には、少女が埋まっているようだ。まだ生きている。

少女が言った。
『わたしはロマ、最後に、わたしを殺すあなたの名前を教えて欲しい』

彼は答えなかった。
鋭かった瞳は濁り、頬には汗が伝う。銃を握った手は力無く、立つ姿勢も揺らいできた。だけれど。

暫く向き合い、そして、躊躇いながら。泣きそうな顔をした彼は、少女を撃った。
遠くで爆音がしたんだ。きっと、俺らの軍が、紛争に関与していたことを示すものを消したんだろう。
その音に、導かれるように、撃った。


その時わかった。彼は俺たちのもうひとつの探しものだ。
ひとつめは、証拠の隠滅。
もうひとつは。


「見つけた、」


俺と、同じ存在。

人間だけど人間以外の何か。
これから恐らく、必要になってくるだろう人材。
案の定、あの後すぐに民族紛争は全世界を巻き込んだ大戦となり、軍の上層部にいた父が手に入れた情報は真実とな。

普通の人間には無いちからを持った能力者。そしてそれらを軍兵器として戦争に使用する計画。

まだ先の戦争の片鱗すら見せなかった時代に、父はその計画にいち早く感付き、俺は能力者の調達、捕縛に駆り出されたというわけだ。
最初にロマを見たとき、能力者なんて思いもしなかった。
ただ、目を奪われ、連れて帰りたいと。

夜色の長い髪に真っ赤な瞳。口元はきゅっと一文字に結ばれて、頬に滴るはその瞳と同じ色をした命の雫。

きっとあれは、一目惚れってやつだ。




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