なんちゃって企画 | ナノ



「部長、雨降ってきてますー!」
「あれ、ほんとだ!」


もしかして部活中止になるかもしれない、1年生の素振りを見ていた部長は空を恨めしそうに見上げて呟いた。わたし、心の中でガッツポーズ。テニスはすきだけどそれよりもだいすきな俳優の出てるドラマ、録画しっぱなしでなかなか見れてなかったから、今日部活中止になれば見れちゃうかも!
まわりのみんなにばれない程度ににやけながらわたしは髪をまとめていたシュシュをほどいた。部長は一応男子テニス部に確認に行ったけど、だんだん本降りになってきたこの天気で部活を続行するのは無理でしょ、ごめんねシューズ、今日あんまり走らせてあげられなかったけど


「…部活中止!家帰って筋トレとかしといてね!」
「はーい」


やった、ドラマが見れる!誰よりもはやく、部室に駆け込んだわたしは着替えやすい夏服を来てきた自分をめいいっぱい誉める、早く帰ろう!携帯の新着メールがないことを確認して、それをポケットに放り込んで、いつもバックに入っている折りたたみ傘を広げて部室を飛び出した


「お疲れさまでしたー!」
「お疲れー」


よーっし!あとは家に帰って部屋着に着替えたあとコア○のマーチでも食べながらゆっくり彼の顔を拝むとしよう。ぼんやりとその俳優の顔を思い出しながら歩いていると、突然うしろから肩を掴まれて思わずひっ、と声をあげて立ち止まった


「…お前、なに彼氏置いて先帰ってんの」
「うわ!ぶ、ブン太!」


肩をつかんだのは、我が自慢の彼氏である丸井ブン太。どうやら傘を忘れたらしく、ふわふわの赤い髪の毛は水を含んでしんなりしている、ブレザーの肩も濡れて重そう。わたしはあわててブン太を傘に入れてごめん、と謝った。でもさ、土曜日の部活いつも時間あわないから一緒に帰ってなかったじゃんね、忘れちゃうのも当然…


「今日は別だろぃ」
「…ごめん、家で第2の彼氏が待ってるからさ、急いでて」
「はあ!?彼氏?!」
「うわっ、」


血相を変えてわたしの方へ振り返ったブン太は、言葉の勢いとは正反対、すごく不安げな表情だった。これで彼氏がいまをときめくイケメン俳優だって言ったら怒るんだろうなあ…
それでも言わないわけにはいかず。苦笑しながらブン太に第2の彼氏の説明


「…タンバリンズに出てるあの俳優さん、めちゃくちゃわたしの好みなんです」
「まさか…それが彼氏?」
「うん、ごめん」
「ば、っ!お前心配させんなよな…」


よかったーと心底安心したように笑ってまた前を向いたブン太はわたしのことすごくすきだと思う。わたしもそんなブン太にベタ惚れだけど


「あ、けどやっぱだめ。お前には俺で充分だろぃ」
「えーでも家帰ってドラマ見るよ」
「見れないくらい俺に愛されたい?」
「ごめ…録画消しとく」


にやり、いじわるそうに笑ったブン太に頬はかっかと火照る。結局いつもわたしが負けるんだから、ほんとブン太には敵わないなっていつも思う


「…今日お前んち行こうかな、」
「部屋片付けてないや!」
「いつものことだろぃ」
「え、ひどーい!」


じょーだんじょーだん、と冗談とは思えない口調でわたしをからかうブン太にぽん、とグーパンチをかませば右手できゅっと捕まれてそれはかなわなかった。そのままブン太はわたしの指と自分の細い指を絡めて、男の子らしい大きな手のひらでわたしの手のひらを包んだ


「帰るか」
「うん、って雨やんでる…」
「うわ、まじかよぃ!部活呼び戻される前にさっさと帰ろうぜぃ!」
「さんせーい!」


ぱちん、と傘をたたんでもう一度わたしの手を握ったブン太は、あ。となにかに気付いたような声を漏らして空を見上げた


「…虹、出てるぜぃ」
「え!うそ、…っ!」


そんなマンガみたいな展開ある!?虹なんて幼稚園ぶりかもしれない!
そんな期待に満ちた思いで顔をあげれば、わたしの目に写ったのは、虹でも雨上がりの空でもなく、ブン太のきれいに整ったお顔。目を見開いた瞬間に唇にやわらかい感触を覚えた


「…残念でしたー」
「ば、っか!もう行くよ!」
「はいはいツンデレ」
「し、しね!」






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