たまらなく好きだと思った。
たとえば、そう。キラリと光でも放つかのように瞬く漆黒の髪。俺が一歩踏み出すだけで赤く色づくその真っ白に透ける肌。
それだけじゃない。俺を真っ直ぐに映すくりくりの瞳、いつだったか「好きだ」と言った俺のユニホームの裾を遠慮がちにつまんだ細い指。
「ブンちゃん、部活お疲れさま」
「おう」
「ね、帰りにコンビニ寄ってこ」
出会って、仲良くなって。まるで仕組まれてたみたいにするすると恋に落ちた。特別美人って訳でもなければ、俺好みの巨乳って訳でもなし。
「もうすぐ夏休みだね」
「あー、今年も部活三昧なんかなあ」
「幸村くんが帰ってきたんだもん、きっと休ませてくれないね」
「だろうなあ」
部活を待つなまえを教室まで迎えに行って、手を繋いで門をくぐる。真っ直ぐ帰ったり、ぶらぶら寄り道してみたり。そんな日々を一体何度過ごしてきただろう。
名前を呼んだ。手も繋いだし、デートだってまだ一回しか行けてねえけど、行った。
それでもまだまだ傍にいたいと思うのは、多分日に日に欲張りになっていってるからだ。どれだけ傍にいても、名前を呼んでも。足りなくて。
「でも、」
「ん?」
「きっと忙しいんだろうけど、でも」
「何だよい」
「ほんの少しでもちょっとでも、あたしと過ごしてくれたらなあ、なんて思って、ます」
モゴモゴと俯きながら唇を動かす君を酷く愛しく思う。
風に揺れる髪の間からチラチラ覗く頬はこれでもかと言うほどに染まっていて。それは決して夕日のせいなんかじゃない、って知ってるよ。だって俺だってそうだ。
「ん?聞こえねーよい」
「だ、だから」
「おう」
「夏休み、いっぱいいっぱい思い出つくりた、っん」
あまりに恥ずかしいからか、早口でまくし立てようと躍起になってるなまえの細腕を掴んで、小さな彼女に合わせて屈んでみせた。
ゆっくり、じっくり。味わう余裕なんてないけれど、確かな幸せだけを感じた。今、俺の体ん中が覗けるのなら100%、ほんの隙間もなく彼女でいっぱいだろう。
「ぶっ、ブンちゃ」
「ちょっとでもいい、なんて言うなよい」
「へ?」
「毎日でもいい、会いに行く」
「、うん」
この夏は何をしようか。花火だって祭だって、プールだって。やりたいことは山ほどあるんだ。その一つ一つを過ごす時、隣になまえがいてくれれば、俺はもう何をしてたって幸せだ。
夏本番を目前に控えキスなんてしてみた俺たちは。
とりあえず真っ赤な頬を揺らしてもう一度影を寄せた。
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