み ず か
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庭には夢が埋まってる
花びら一枚分の恋  [8/9]

 それから先のことはよく覚えていない。
二年になってから時折廊下で見かけた矢部くんの背中とか、体育のときにサッカーしていた姿とか、目に焼きついて離れなかった情景がぽんぽんと頭に浮かんできては消えた。
そのせいで、私はどれだけ彼を目で追っていたのか改めて実感した。
思い出しても思い出しても、びっくりするくらい鮮明にその瞬間は浮かんできた。
それだけ好きだったのだ、自分でも気付かなかったけれど。

 泣き疲れて顔を上げると、花壇のコスモスが夕日に染まっていた。
そして視界の端にもまたオレンジ色に染まった人影が映り込んでいる。
小さくしゃくりあげながら横を見ると、須藤英知は安心したような表情で微笑んだ。

「なんで、いるの?」

 小刻みに息を吸い込みながら声を出すと、予想以上の鼻声だった。
胸が苦しくてうまく喋れない。

「いない方がよかった?」
「そういうんじゃ、なくて」
「帰れなかったから帰らなかったんだよ。送ってくね、お隣さんだし」

 彼はそうして立ち上がり、大きく伸びをした。
渋る私が立ち上がらずにいると、「その顔で一人で歩いてたら変な目で見られるかもよ」と笑った。
弱みを握られたようで悔しくなったけれど、この状態で周りからじろじろと見られるのはもっと嫌だったので、彼の言う通りにすることにした。
ゆっくりと立ち上がると、彼は私が陰になるようにして歩き始めた。

「暗くなり始めるの早くなったなぁ。眩しー」

 見上げると、目を開けていられないくらいの夕焼けが校舎の上に落ちていた。

 昇降口まで行ったところで、彼は自分が手ぶらなことに気付いた。
そして急いで取ってくると言って、暗くなり始めた廊下を駆けていった。
私はとりあえず靴を下駄箱に戻し、彼が戻ってくるまでにすぐ側のトイレで顔を洗っておくことにした。

 昇降口から向かってすぐ左側にあるそこへ向かっていくと、中から女子の話し声が聞こえた。
顔を見られたくないので、すぐ出てこないかなと入り口の傍らで足を止める。

「さっきのさぁ、やっぱ英知だよね」
「うんうん、絶対そう。なんであんな子と一緒にいたんだろ」

 もしかして私のことだろうか。
そんな風に鼓動が速くなったところで、彼女たちの会話は止まらない。

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