み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [1/10]

 すいませーん、という声がしたのは、玄関のチャイムが鳴った数秒後だ。
男性の落ち着いた声だった。

 ひなたぼっこ中の私はだらんと縁側に仰向けになったまま、その呼びかけには応えず、力なく目を閉じていた。
こうしていると、庭に投げ出された足に風があたって涼しい。

 色があるのかないのかよくわからないまぶたの裏で、延々とループする求愛の声。
「アブラゼミだっけ、ヒグラシだっけ」とぼんやり考えながら、私はひんやりとした床の上で寝返りを打った。
ギシリと鈍い音を立て、大好きな木の匂いが鼻をくすぐる。
古びた木造の家だけれど、こういうところは悪くない。
思わず口元を緩ませながら、うーんと大きく伸びをした。

 横向きに寝転んだまま、私は迷わず居留守を使うことにした。
今日に限ってお母さんもしっかり者の妹も、揃ってお父さんのところへ泊まりに行っているし、バイトへ出掛けたお兄ちゃんも夕方までは帰らない。
どうせ何かのセールスだろうと思うと、起き上がることすら面倒だ。

 それ以前に、今の格好じゃとても人前になんて出られたもんじゃない。
洗いすぎて伸びきった黄色のタンクトップに、中学生の時から履き古しているデニムのショートパンツ。
その裾からは脂肪を蓄えた太い手足がでんと出ている。
夏休みに入ってから更に三キロも太ったのだから、無理もない。
しかも胸まである黒髪は起き抜けでぼさぼさだ。

 ほんのり汗ばむ体をもう一度寝返りさせて仰向けになる。
開け放たれた窓から流れ込む午後の柔らかな風が、風鈴を軽やかに揺らした。
残暑の日差しはいまだ部屋の明かりを必要としないほどに眩しくて、私は細く開いたまぶたをまたすぐに閉じた。

 そのうち諦めるだろうと思っていると、二度目のチャイムが脳裏に鳴り響いた。
しつこいな、と思いつつ、細く目を開け、気だるい体をのそりと持ち上げる。
すると、声の主はさっきよりも一際大きな声で「すいませーん」と呼びかけてきた。

「出るしかないか」

そう呟いて大きく溜め息をつくと、私は側に置いていた眼鏡を拾い、床に手をつきながらゆっくりと立ち上がった。

 鍵のかかっていない玄関の引き戸は、私の手が触れるとカラカラと音を立てながらゆっくりと開いた。
そして目の前に現れた客人を見て、顔の筋肉が凍りつく。

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