み ず か
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てのひらにユーレイ


Episode.1 [1/9]

「そしたらさぁ、塩田が言ったんだって。『浮気するとしたら過去のお前にな。昔はもっと可愛かったのに』って!」
「甘い!塩なのに甘いよ!」
「だろ?いくら浮気の言い訳でも、それ言われたらやばいよな」
「うん、私なら萌え死にできるかもしれない」


 私はその夜も、浩二とたわいもない話を電話ごしにしていた。

 高校卒業と同時に付き合い出し、それと同時に遠距離恋愛にもなった彼との関係は、毎晩三十分の電話によって保たれていると言っても過言ではない。


「それじゃまた明日な。仕事頑張れよ」
「浩二もね。寝坊しないように」
「はいよ。おやすみ、千晶」
「おやすみー」


 私は和やかに電話を切り、それからいつものように携帯を煙草に持ち替えた。
テーブルの上に置かれた目の前のグラスには、五杯目の梅酒が注がれたままになっている。
三十分前に入れたロックの氷はもうほとんど残っていない。

 煙草にライターで火をつけ、深呼吸するようにそれを吸った後、溜め息と共に煙を吐き出す。
そして、あぐらをかいていた右足の膝を立て、カーペットの上に座ったまま天井を見上げた。


「『昔はもっと可愛かったのに』かぁ……」


 独り言は宙に浮かんで消えた。


 付き合い始めて早六年。
連休や長期休暇の度にお互いの家を行き来し、それなりに関係もうまくいっている。

 でも、時々思う。
高校卒業時から大分変わってしまった自分を、彼は本当に受け入れてくれるのか。

 酒を飲まないと寝付けず、気休めに煙草を吸い始めた私を知っても、彼は変わらずに私を……。

 そんな風に、一人物思いにふけっていたときだった。


「ちょっと千晶さん」


 声のする方に目を遣ると、テーブルの上のチオリが、待ちかねたように私に向かって仁王立ちしている。
ロックグラスとほぼ同じ大きさのその少女は、いつもと同じようにセーラー服のスカートを揺らしながら私に近付いた。

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