み ず か
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てのひらにユーレイ


Episode.1 [2/9]

「何?どうしたの。」
「どうしたの、じゃないですよ。いちごオレがないじゃないですか」


 腰に手を当てたまま頬を膨らませ、チオリは私を見上げた。
テーブルの縁に立った彼女は気の強そうなリカちゃん人形にしか見えない。


「あぁごめん、忘れてた。それでベッドからここまで歩いて来たの?」
「そうですよ。千晶さんたら帰って来た途端にお酒飲み始めちゃうんですもん」


 私はグラスを揺らしてカラカラと鳴らし、それからそれを持ち上げて一気に飲み干した。
薄まった梅酒はおいしくない。


「……千晶さん、灰」


 チオリはいつの間にかテーブルの中央にいて、重たそうに灰皿を私の方へと押し寄せていた。


「ごめんね、ありがと」


 私は軽々と灰皿を持ち上げて煙草の火を消すと、重い腰を上げてキッチンに向かい、冷蔵庫からいちごオレの入った紙パックを取り出した。
一リットルサイズのわずか三分の一のそのパックでさえも、テーブルの上に置いたそれに喜んで抱きつくチオリよりはずっと大きかった。

 チオリは、いつの間にか私の家に住み着いていた。
元々霊感の強い(らしい)私は、いつからか家の中でちょこちょこ目にするようになった彼女と知らず知らずのうちに会話をするようになり、お供え物代わりのいちごオレを毎日あげるような仲になっていた。

 彼女が自分を『幽霊だ』と主張するので、私もそれで納得していたが、一つだけ気になることがあった。

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