み ず か
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てのひらにユーレイ


Episode.1 [3/9]

 彼女は、私が今まで見てきたそれらとは違い、存在自体にちゃんとした『色』がある。
つまり、透けていないのだ。
だから私はなんとなく、彼女を『幽霊』というより『妖精』のような感覚で見ていた。

 体の三倍の量はあるはずのいちごオレを飲み干すと、栗色のロングヘアーをなびかせ、チオリはテーブルから飛び降りた。
黙って立っていればオモチャ屋に並んでいてもおかしくない容姿なのに、彼女は驚くほど活動的だった。


「千晶さん、お酒も煙草もほどほどにしなきゃダメですよ」


 チオリは子供に言い聞かせるようにそう言うと、背筋をピンと伸ばしたまま、遥か遠くのベッドに向かって歩いて行く。
私は彼女の小さな背中がテーブルの下を無事に通り抜けたのを確認すると、グラスを持ち上げて十歩向こうのキッチンへと歩いて行った。



 翌日のお昼頃、珍しく浩二からメールが来ていた。
休憩室でサンドイッチをくわえながらそれを開くと、それは彼の連休を告げる内容だった。

『明後日から三日間休みになったから、そっちに泊まりに行ってもいい?』

 私は足を組み替えると、諦めの意味を込めた溜め息をつき、半分ほど残っていた卵サンドを一気に口の中に押し込んだ。



 その夜、仕事帰りの私は、疲れた体を引きずってスーパーに来ていた。
いちごオレのストックが切れたからだ。

 普段は持たない買い物カゴの中に、いちごオレのパックを乱雑に投げ入れていく。
それからレジに向かい、ほぼ無意識のまま会計を済ませてスーパーを出た。

 外の風はひんやりとしていたが、家までは徒歩五分。
なんとか乗り切れるだろうと、半袖の裾から伸びた腕をさすりながら足早に歩みを進める。

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