霊感少女Sの非的日常。 | ナノ


  



 
 
―神様は自分のことが嫌いなんだろうか

思わず自分の引いたクジと、黒板に書いてある数字と、
それから一番重要であろう、黒板に書いてあるこれから私の前の席となる予定の人の名前を見て思わずそう考えた。
 
黄瀬 涼太。
 
何度目をこすっても見える字は変わらない。
周りの女子の視線が何よりもそれを立証していた。
 
あ、そうか。この席他の女子に譲っちゃえばいいんだ。
 
「席交換したりとかするなよ?先生ちゃんとメモしてるからな」
 
開けたと思った瞬間、閉ざされた道。
何メモってんだよこのクソ教師。
入学して1週間たって学校にも慣れただろうからって、席替え?
クラスの皆と仲良くなるように、席替え?
んなことしなくたってな、仲良くなるやつはなるし馬が合わないやつは合わないんだよ。
 
1人の少女が鬼のような形相で黒板を睨む中、着々と席替えは進んでいった。
 
 
 
 
 
 
 
別に黄瀬涼太が嫌いなわけじゃない。むしろイケメンは好きだ。
では彼と席が前後になることの何が不満なのか。
他の女子に目をつけられるのが嫌というのもあるけど、本当の理由は他にあった。
 
黄瀬涼太が持つモデルを努めるほどの容姿。
それに加え、入学してすぐ海常高校の看板であるバスケ部のスタメンになるほどの運動神経。
後半は女子の噂を耳にはさんだだけだが、体育での活躍ぶりをみる限り事実なのだろう。
それらは人々の羨望の的となるには十分だった。
憧れは時として妬みとなり、無意識のうちに相手を呪う。
 
普通の人ならばそれに気づくことはないが、小夜は違った。
形として見えてしまうのだ。
 
いつから、と問われれば分からない、と答えるしかない。
言ってしまえば生まれた時から、小夜は他の人には見えないものが見えた。
それは、人々が幽霊とか妖怪とか称しているものなのだろう。
今となっては慣れてしまったが、昔はこれでかなり苦労したものだ。
 
 
 
うんうんやっぱ普通が一番だよねと一人感傷に浸っていると、目の前をヒラヒラと手が通り過ぎる。
 
「あ、やっと気付いたっスね!大丈夫っスか?何かぼんやりしてたけど」
「え、あはい、大丈夫で」
 
す、と言おうと顔を上げた瞬間、思わず叫びそうになった口を必死で抑えた。
よく我慢したもんだ。この時の自分を称賛したい。
多分声や身長、私の前の席に座ってるのからして判断すると、これは黄瀬くんなんだろう。
ただし、顔が、
 
 
顔が、黒い霧がかかったように真っ黒な黄瀬くん。
 
 
「具合悪いんだったら保健室行った方がいいと思うんスけど」
「そ、…ですねあはは」
 
いっそ彼の言う通りに保健室に行こうかと思ったが、逃げたところで問題は解決しない。
空笑いをしながら上げかけた腰を下ろした。
絶対今の私の顔、引き攣ってる。
 
「あ、俺、黄瀬涼太っス!今日からよろしく」
 
多分彼は今あの素晴らしく整った顔で愛想笑いをしているのだろう。
残念、見れない。見れないどころか黒いモヤに話しかけられている。
これは一種の恐怖である。
 
「あ、うん…よろしく……」
 
したくない。非常にしたくない。
が、下手に関わらなければいい話かと思い、一度心を落ち着かせ前を見る。
 
「あ」
 
そう簡単な話でもなかった。
黄瀬の身長と黒い霧が相乗して、黒板が、見えない。
 
「はぁ………」
 
他の人に聞こえないように小さく、本日何度目か分からないため息をついた。
 
 
霊感少女の苦悩、はじまりハジマリ。

  
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