霊感少女Sの非的日常。 | ナノ


  



 
あまりにも凝視しすぎたせいで視線を感じたのか、
それともただ単に後ろを向いただけなのかは定かでは無いが
その男子はふと振り返り、こちらを幽霊さながら見ている小夜を見つけてうわっと声をあげた。
 
何気ちょっと失礼だと思ったが、ガン見していた自分の方が失礼かと思いなおし
ころころと転がってきたボールを拾い上げる。
 
「あの、驚かせてすみません」
「い、いや…こっちこそ変な声出して悪い…」
 
男子生徒は謝りながらこちらに走ってきたので、ボールを渡そうと手を伸ばす。
が、男子生徒がボールを受け取ろうとした瞬間、
 
「っ…」
 
顔を真っ赤にし目を大きく開いてせっかく迎えに来たボールを落とした。
 
「え…」
 
何、今何が起こったの?
何でそんなに苺もトマトも顔負けな赤さなの?
テロリストにでも出会ったの?
宇宙人がおはようございますしたの?

 
いや、ボールの受け渡しの瞬間に僅かにお互いの手が触れ合っただけである。
 
 
私の手はそんなに、真っ赤になるほどに汗ばんでいただろうかと思わず自分の手に視線を落とす。
その様子を見た男子生徒は慌てた様子でボールを拾い上げ、かなり早口でまくし立てた。
 
「ち、違うんだ!別になんでもねぇ!そ、その…女子の手とか普段全然触らないから…」
 
その言葉に今度は小夜が目を丸くする。
何だ、とどのつまり、彼は女性慣れをしていないと。
そのせいでさっきの小学生もびっくりな清いスキンシップにも反応してしまったと。
そういうことか。
 
「ぶっ…あはははっ」
「わ、笑うなよ…」
「だ、だって…純情すぎ…!!!」
「うるせぇ!」
 
 
  

 
あれから数分。
笠松と名乗った純情ボーイは、なんと先輩だった。
てっきり同い年だと思っていた小夜は先ほどの非礼を詫びたが、
首を振りながら気にしなくていいと言ってくれた。
ところで何しにここに来たんだと尤もな質問をする笠松に、
小夜が理由を話すと納得したように頷く。
 
「あんたが監督が話してた女子か」
「多分そうだと思います。あの…先輩は、自主練ですか?」
「まぁな」
「すいません、お邪魔ですよね…」
 
聞けばバスケ部の主将だというではないか。
バスケ強豪校と呼ばれるこの海常高校において頂点に立つには、並の努力ではないだろうと
運動部に入ったことのない小夜でも安易に想像できた。
今この時間だって、彼にとっては貴重な練習時間なのだ。
しょぼくれる小夜に、笠松は再び慌てたように目をせわしなく動かしながら言った。
 
「べ、別にコート全部使うってわけじゃねぇしこの体育館広いし、一人くらい増えたって変わらねぇよ」
「え、ほんとですか?」
 
小夜は立ち直りの早い女だった。
さきほどまで俯いていた顔がいきなりバッと上がってので、笠松は僅かにビビりながらもおうと答える。
 
「ありがとうございます!」
「お、おぉ…」
 
勢いに押されそうになった笠松は少しばかり間抜けな返事をすると、
ボール貸してやると先ほどまで自分が持っていたボールを小夜に向かって軽く投げた。
 
 
 
  

 
笠松は予想以上にいい人だった。

朝のSHRを受けながら、ほんの少し汗で濡れた髪を梳かしながらさきほどまでのことを思い出す。
お互い干渉はしないと言いつつ、シュートが入らず四苦八苦している小夜を見かねて
わざわざ隣まで来てシュートのフォームを教えてくれた。
彼の教え方がうまいのか小夜の飲み込みは早いのかは分からないが、
小夜はすぐにそれを実践に移し見事に10本中8本までは確実にシュートを入れるまでになった。
 
「お前すげぇな、バスケセンスあるんじゃね?」
「そんなことないですよ」
 
記録を更新しつつある彼女を見ながら笠松が言う。
まるで新しく入ってきた煩い後輩にそっくりだ、と。
 
「黄瀬くんのことですか?」
「知ってんのか?ってそりゃ…知ってるか」
「ええ、まぁ」
 
この学校であの派手な頭を知らない者はいない。
海常高校の暗黙の了解であった。
あいつイケメンだってちやほやされてるけど、ホントはすげー馬鹿なんだよと
言葉とは裏腹に実に楽しそうに話す笠松を見て、
小夜はこの先輩の前では黄瀬くんのことを悪く言うのはやめようと決意した。
 
笠松はそれだけでなく、自主練の時には小夜にバスケの指導までしてくれると申し出てくれた。
自分の練習だってしたいだろうに、迷惑じゃないんですかと問うと
 
「俺の後輩できる奴ばっかだからな。誰かに教えるってのが新鮮なんだよ」
 
と再びちょっと赤くなった顔を反らしながら答えてくれた。
そんな笠松を見てうふふ若いっていいわねとおばさん臭いことを思ったのは秘密だ。
小夜は有り難くその申し出を受けた。

 
 
「小夜ちゃん、なんか上機嫌っスね。なんかいいことあったんスか?」
 
いつの間にかSHRは終わっていたようで、黄瀬がいつものようにくるりと後ろを向き話しかけてくる。
そんなに顔に出てたかなと思ったが、黄瀬に笠松先輩にバスケを教えてもらったと言えば、
 
ええ〜なんスか!昨日俺の誘いは断ったくせに小夜ちゃんってば酷いっス!
 
…どうなるか嫌でも理解できてしまう小夜は別に何もないとだけ答えた。
それでも答え方が冷たいと騒ぐ彼に、さきほどまでの爽やかな気分はすっかり奪われてしまった。
 

 
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